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第167話 不死者の決意

 ああ……。夢だな……。


 カラミティは気付いた。

 何故ならば、目の前によく知る男が立っていたからだ。


 人参のように赤い髪。

 鉤鼻で、目はギョロリとして大きく、髪と同色の髭が顎の周りを覆っていた。

 体つきはがっしりとした冒険者風の男は、柔和な笑顔を浮かべている。

 そして、じっとカラミティを見ていた。


 レイル・ブルーホルド……。


 伝説の勇者であり、カラミティの眷属の1人だ。


 カラミティはレイルと視線を交わす。

 熱い抱擁をするわけでもなく、拳を向けるわけでもない。

 いろんな思いが錯綜する。

 が、顔を見た瞬間、すべてがどうでもよくなった。


 カラミティは肩を竦めるだけだった。


「全く……。やっと出てきおって。大変だったのだぞ、レイル」


「…………」


 レイルは何も言わない。

 ただじっとカラミティを見つめていた。


「そもそもお主が黙っていなくなるのが悪い。おかげで、世界が1つ滅ぶところだったではないか」


「…………」


「ただレイル……。1つだけお前に言っておかなければならぬ」



 待っていてくれ……。



「必ずお前がいるところに届いてみせる。そして……」



 共に生きよう……。



「それが今の我の願いだ」


 やはりレイルは答えなかった。

 笑顔を浮かべ、濃い闇の中へと消えていく。


 それは光の粒となり、カラミティを覆った。


 闇の世界から解放され、不死の王は光の中に溶けていった。



 ◆◇◆◇◆



 カラミティは目を開ける。

 目頭が熱い。

 そっと指先で拭うと、また涙を流していたことに気付いた。


 不死となって700年。

 その間、涙したことは多い。

 時々、ひっそりと1人で泣いていたことがある。


 だが、初めてだった。


 とても嬉しくて、温かな涙は……。


「ありがとう、ヴォルフ。お前のおかげだ」


 カラミティは視線を上げた。

 だが、そこにいたのは、ヴォルフではない。


 顔を真っ赤に腫らし、白髪の男が泣いていた。

 カラミティの頭に膝を貸した状態で、ボロボロと涙滴を垂らしている。

 おかげで、カラミティの頬に落涙し、その磁器のように白い頬を伝って、地面に落ちていった。


「ゼッペリン……。そなた……」


 そう。

 ゼッペリン。

 カラミティの秘書である。


 普段、能面をしているかのように表情を動かさない男が、この時ばかりは感情を露わにしていた。


 良かった……と何度も頷いている。


 ゼッペリンだけではない。

 いつの間にか周りは、不死者で埋め尽くされていた。

 骸骨将軍が、アンデッドが、スケルトンが、眼窩の奥からさめざめと涙を漏らし、泣いている。


 皆がカラミティの復活に歓喜し、むせび泣いていた。


「どうりで死肉臭いと思ったが……。こういうことであったか」


 カラミティは照れくさそうに目を腕で覆う。

 口元に笑みこそ浮かんでいたが、目にはやはり涙を浮かべていた。


 すると、自分の頭の上で泣いているゼッペリンの額をこつりと叩く。


「そんな顔をするな、ゼッペリン。案ずるな、我は生きておる」


「はい……。はい! 存じております。あなた様の復活をみな待ち望んでおりました」


 カラミティはようやく立ち上がった。

 見ればいつの間にか夜だ。

 満月ではないが、月光が明るい。


 カラミティはその光を存分に晒す。

 骨のように白い髪を掻き上げ、ドラ・アグマ王国の国民に振り返った。


「苦労をかけたな、皆の者……。我はこの通りピンピンしておる。まあ、我は【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】。死ぬことはないのだがな」


 カラミティの声に不死者たちは反応する。

 不死の王の前に膝を折り、頭を下げた。


 先頭のゼッペリンが代表してカラミティに言った。


「もったいなきお言葉です、陛下。ですが、我らが操られし時、我らは陛下に手をあげてしまいました。かの魔槍の力とはいえ、許されることではありません。どのような処罰も受けますゆえ」


「よい。民あっての国。国あっての民。お互いもちつもたれつ。困っているのであれば、手を差し出すだけのことだ。――ん? どうした、ゼッペリン?」


「い、いえ……。その陛下はお変わりになられた、と……」


「うん? そうか?」


「まるであやつのような口振りというか」


「あやつ? ああ……。ヴォルフのことか。確かにそうかもしれんな。あやつには、此度は大変勉強になったといっておこうか」


「陛下……。許されるのであれば、陛下に上申したいことがあります」


「……? なんだ、言ってみよ」


 ゼッペリンは居住まいを正す。


 そしてカラミティの目を見ながら、口を開いた。


「陛下の望みが、ご自身の死であることは重々承知しております。ですが……。それを撤回していただくことはできないでしょうか?」


 思わぬ願いだった。

 カラミティは息を呑む。

 700年苦楽をともにしてきた国民だ。

 そして、その生にカラミティが苦しんできたことも、よく知っている。


 それでも、ゼッペリンは言葉を続けた。


「陛下のお気持ちは理解しているつもりです。それでも、我々は――――」



 カラミティ陛下とともに生きたいのです!



「陛下あってのドラ・アグマ王国。我ら不死を束ねることができるのは、カラミティ陛下しかおりません」


「陛下! どうか我らをお導き下さい」

「んだ! カラミティ陛下」

「お願いします、陛下!」

「死なないでください!!」


 次々とドラ・アグマ王国の国民から声が上がる。


 その声を聞いて、カラミティは呆然としていた。


「お前に生きていてほしいのは、俺以外にもたくさんいたらしいな」


「ヴォルフ!」


 ヴォルフが不死者たちの垣の間から現れる。

 後ろには赤い髪の少女がいた。

 どこか憤然としており、頬を膨らましてカラミティを睨んでいる。

 【大勇者(レジェンド)】レミニア・ミッドレスだ。

 どうやら、聖槍のショックから立ち直ったらしい。


「残念ながら、人はそう簡単に死ねんよ、カラミティ」


「我は人ではないぞ」


 やれやれとカラミティは首を振る。

 だが、自然と笑顔がこみ上げてきた。

 満足げに頷く。


「案ずるな。ドラ・アグマの国民たちよ。我は死なん。それに我を誰だと思っておる。伝説の真祖にして、【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】、カラミティ・エンドだ。たかだか聖槍程度で死ぬものか」


 蠱惑的な笑みを浮かべる。

 そこにいたのは、闇の中でもがいていた少女ではない。

 ドラ・アグマの君主たるものの姿だった。


 途端、怒号のような吠声が上がる。

 万を超える国民たちが一斉に声を上げたのだ。

 手を叩き、骨を叩き、自ら頭蓋を放り投げるものもいる。

 当然、むせび泣く者もいた。


 感激する国民を見ながら、カラミティはやれやれと肩を竦めるのだった。


活動報告の方では報告させていただきましたが、

またしばらく毎週土曜日に更新させていただきます。

今後とも『アラフォー冒険者、伝説になる』をご愛顧いただければ幸いです。

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