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第166話 おっさん、伝説を救う

『アラフォー冒険者、伝説になる』2巻お買い上げありがとうございます!

好評発売中です!

 濃いブロンドの髪。

 人の良さそうな四角い輪郭。

 肩幅は広く、背中は海原のようだった。


 闇の中でも、その紺碧の瞳は輝いている。

 目だけではない。

 その男そのものが、光ってみえた。


 黄金色に輝くその男は、まるで1本の道を示すように闇の中で立っていた。


「ヴォルフ……」


 カラミティは声を絞り出すだけで精いっぱいだった。


 戸惑いに満ちた眼光は、すぐさま目の前の男に刃を向く。


「愚か者が!! 我を助けに来ただと! 馬鹿にするでない。我はカラミティ・エンド! 伝説の【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】だぞ! お前は我を侮辱するために、ここに来たのか!?」


 カンッ、と鐘が鳴るようにカラミティの声が闇に響く。


 牙を剥きだし、ヴォルフの胸ぐらを掴む。

 常人であれば、それだけで卒倒していただろう。

 カラミティの顔は、憤怒にまみれていた。


 対して、ヴォルフは自分の髪の毛を撫でただけだ。

 弱ったな、というふうに視線を外すと、今1度カラミティに向き直る。


「といってもな、カラミティ……」


「なんじゃ! 文句があるなら言ってみろ!!」


「……じゃあ、言うが――」



 お前はなんで泣いているんだ?



「なぬ?」


 カラミティはそっと自分の目頭に手を伸ばす。

 触れた瞬間、感じた。


 熱い……。


 慌てて指先を見た。

 闇の中でもそれはキラキラと輝いている。

 自分の涙であることは明白だった。


「我は泣いておるのか……」


「そのようだな」


「馬鹿な……。何を涙することがあるのだ! 我はカラミティ・エンド。死は望む者。その望みが今、叶おうとしているのだ。何に涙することがある」


「カラミティ……」


「なんだ? お前、実は死ぬのが怖かったんじゃないのか?」


「そんな馬鹿なことがあるわけがない! そもそも貴様に何がわかるというのだ! 700年だぞ! 700年も生き地獄を味わってきたのだ。一体何を怖がることがある。死以外に我の安息はない……」


「お前の700年がどんなものだったのか、俺はよく知らない」


「ならば、何をぬけぬけと……」


「だが、お前が話してくれたレイルさんとの思い出……。そして短いが、お前と拳を交えた。そして俺は紅茶を飲んでいる時のカラミティのことは、よく知っているつもりだ」


「……なんと」


「カラミティ……。700年前のお前は、確かに死を望んでいたかも知れない。けれど、レイルさんと会ってからのお前は果たしてそうだったのだろうか」


「――――ッ!!」


「お前はレイルさんに会って、生きたいって思ったんじゃないのか? だから、お前は今、泣いているんじゃないのか?」


 カラミティの人生の大半は空虚なものだった。

 ただ1日1日を刻むだけで精いっぱいな無為な日々だったのだろう。

 ならば、生を地獄だといったのも、ヴォルフにも理解できる。


 ヴォルフにも似たような経験があるからだ。


 冒険者時代。

 その日暮らしで生きていた頃があった。

 山に入り、薬草を採り、それを金に換え、時々酒を嗜む。

 なんの危険もない、心を揺さぶられることもない、誰にも迷惑のかからない、平穏な日々だったと思う。


 だが、心の中では何か違うと叫んでいた。


 矛盾する自分の信念と行動に、心がバラバラになりそうなこともあった。


 そんな時に現れたのが、あの謎の女とレミニアだ。

 その出会いが、ヴォルフを変えた。

 いや、生まれ変わったといってもいい。


 ヴォルフにレミニアがいたように、カラミティにもレイルがいた。


 きっとレイルは、【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】を死にたい女王から、死ねない(ヽヽヽヽ)女王に生まれ変わらせたのだ。


 それはきっと彼の英雄史の中でも、最高の栄誉といえるかもしれない。


「カラミティ……。お前が思うほど、お前は――――」



 ちゃんと生きたがっているぞ。



「素直になれよ、カラミティ。レイルに会うんだろ」


 ヴォルフはカラミティの頭を撫でた。

 まるで娘の頭をそうするように。


 この時、カラミティは悩んでいた。


 何が最善で、何が最悪なのか。

 本当に自分は生きたいのか、死にたいのか。

 それとも目の前の男のいうことは、正しいのか、間違っているのか。


 わからなかった。


 でも……。


 身体は理解しているらしい。


 カラミティはぽつりと呟く。


「わからん……」


「……え?」


「でもな、ヴォルフよ」



 涙が止まらんよ……。



 顎を上げる。

 カラミティは目から涙を流し、泣いていた。

 頬を紅潮させ、顔をぐしゃぐしゃにした少女は、こういっているように聞こえる。



 助けてくれ……。



 その声だけで十分だった。

 【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】のヴォルフ。

 この世界一のお人好しにとって、たったそれだけの言葉が、今の自分を何十倍にも強くし、そして動く理由になった。


 だが――――。


 びゅっ!!


 ヴォルフの肉が弾け飛ぶ。

 血が噴き出した瞬間から、闇に吸われた。


 2人は忘れていた。

 ここが聖槍ロドロニスの中核たるものの中だと。


「ヴォルフ!」


「大丈夫だ、カラミティ。心配するな。絶対お前を助けるよ」


「しかし、お主……」


 その時になってカラミティは気付く。

 ヴォルフの身体が自分以上にボロボロであることに。

 実は立っていることすら困難だった。


 それはそうだ。

 いくら【大勇者(レジェンド)】の強化があり、強力な常時回復があっても、ヴォルフは根本的に人でしかない。

 すでに、その存在が奇跡に近づきつつあったとしても、カラミティからすれば凡人も同じだった。


「信じてくれ」


「お主をか?」


「いや……」


 ヴォルフは首を振った。

 ちょっと照れくさそうに笑う。


「お前にレイルがいるように、俺にも俺の【勇者】がいるんだ。そいつは過保護でな。俺がピンチなら、どこにだって駆けつけてくれる」


「それはまさか――」


「ああ……。俺の娘だ」


 瞬間だった。


 闇の中が光に満ちる。

 カラミティは思わず目を細めた。

 ゆっくりと目を慣らしながら、光の中心を見る。

 よく見ると、それは一振りの刃だった。


 その剣を見ながら、伝説の存在【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】は震える。


「馬鹿な! 聖具だと!!」


 あまりの事にカラミティは思わず声を荒らげた。

 彼女が驚くのも無理はない。

 それはカラミティが欲した聖槍ロドロニス。

 その槍に匹敵する聖具であったからだ。


「これが……。【大勇者(レジェンド)】……。【勇者()】を越えし、SSランクの力か」


「難しいことはよくわからんが……。俺の自慢の娘だ。そして、俺が越えなきゃならない壁でもある」


「娘を越えるだと……。あっさりと聖槍ロドロニス級の聖具を転送してくるような相手を越えるというのか」


 ヴォルフはまた照れくさそうに頭を掻いた。


「約束しちまったからなあ……。俺は娘の【勇者】になるって。だから、俺は娘より強くならなければならなくなった」


「娘よりも強くなるだと……。お主正気か?!」



 自ら伝説級(SSS)になるつもりか……。



「それが必要というなら……」


 ヴォルフは微笑む。

 今も、肉体の一部が剥がれながらも、表情は穏やかだった。

 いや、強い覚悟が秘められていた。


 泣きはらしていたカラミティにようやく笑顔が灯る。


「面白い! ならば、我も見届けよう。お主の伝説を……」


「お前もか?」


「心配するな。我は不死の女王にして、【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】ぞ。お前が伝説級(SSS)になるまで見届けてやろう」


「……そいつは心強いな」


 ヴォルフは光の剣に手を伸ばした。


 名前を【極光の仭剣(エス・ラルダ)】。


 それはかつてヴォルフが大竜(マザーバーン)を狩った時に使った剣である。

 まさかこんなところで再会するとは思わなかった。


(またレミニアに助けられるな……)


 だから、もっと強くならなければならない。

 娘を守れるぐらい強く。

 伝説に刻まれる程に……。


 ヴォルフは【極光の仭剣(エス・ラルダ)】を握る。

 その瞬間、光がさらに加速した(ヽヽヽヽ)


 闇の中で、一際強く光を放つ。

 ヴォルフは大きく【極光の仭剣(エス・ラルダ)】を掲げた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 裂帛の気合いの元、切り裂く。


 ヴォルフの剣が、聖槍の作り出した闇を裂くのだった。


2巻の効果と、3連休でいつもよりたくさんの方が読みに来ていただいているようです。

(昨日、久しぶりに日間総合に載りました)

書籍版ともども、Web版も楽しんでくださいね。

良かったら、ブクマと評価お願いしますm(_ _)m

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