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第165話 伝説のヒーロー

書店で2巻を見かけて、なろうの方を覗きに来た読者の方、こんにちは!

是非、ブクマをしていってください(何かが起こります……)。

 聖槍ロドロニスを止めるには、決死の覚悟が必要だ。

 死ぬかもしれない。

 いや、その可能性は高いだろう。


 だから、カラミティは望んだ。


 死は自分の大望であるから、と……。


 しかし、ヴォルフはいまだ納得できていなかった。

 いや、カラミティをここで死なせるわけにはいかないのだ。

 もしかしたら、レイル・ブルーホルドは生きているかもしれない。


 カラミティの心を初めて震わせた人間が生きている。


 その望みがある限り、カラミティは生きていなければならない。


 いや……。

 どんな人生であっても、生きることをやめるなんて間違っているのだ。


「カラミティ!!」


 その瞬間、ヴォルフは宙に浮いた。

 真下では、人間の負の感情が蠢いている。

 落ちればたちまちヴォルフは飲み込まれるだろう。


 残念ながら、レミニアの強化に『空を浮く』というものはない。

 落ちても死なないという強化が付与されているだけだ。


 しかし、自分のことよりも、他人のことを気に掛けるのが、ヴォルフ・ミッドレスという男である。


 視界から離れていくカラミティに向かって、必死に手を伸ばした。


 ヴォルフを放り投げるように宙へと追いやった少女は、薄く微笑む。


「さらばだ、ヴォルフ。お前との戦い。楽しかったぞ」


 カラミティは背を向ける。

 大きな翼を動かし、眼下の黒波に突っ込んでいった。


「カラミティィイィイィイイィイィィイィイイイィイイ!!」


 ヴォルフの絶叫が空に響き渡る。

 だが、カラミティが振り返ることはなかった。

 黒い波の中に消えて行く。


『ご主人!!』


 ヴォルフはミケに拾われる。

 間一髪のところで助けられたが、飼い主から礼の言葉が漏れることはない。

 ただ夜空がひっくり返したような地上へと消えて行くカラミティを見ていた。


「カラミティ!!」


「落ち着いてください、ヴォルフ・ミッドレス!」


『リンダの言う通りにゃ! あれはヤバい感じがするにゃ! いくらご主人様がレミニア嬢ちゃんの強化魔法で守られていても、あれに触るのは危険にゃ!!』


「今、彼女にかけるしかありません……。それに万が一のことがあっても――」



 ダメだ!!



 ヴォルフは声を張り上げた。


「あいつの――カラミティの人生の終着点はここじゃない!!」


『カラミティの……』


「終着点……?」


 すると、ヴォルフはタンッとミケの背を蹴った。

 再び中空へと飛び出す。

 黒い波に向かって真っ逆さまに落ちていった。


『ご主人!』


「自殺行為です!!」


 ミケは必死に追いかける。


 だが――。



 とぷんっ!



 少々間抜けな音が鳴る。

 ヴォルフは黒い波の中に消えた。



 ◆◇◆◇◆



 黒い波の中をカラミティは泳いでいた。


 一掻きするだけで、人間の怨嗟が脳髄に響いてくる。

 血肉を食らい、その度にカラミティは出血し、そしてすぐに再生していた。

 不死でなければ、すでに100回は死んでいただろう。


 そんな恐ろしい空間の中で、カラミティは何故か昔のことを思い出していた。


 それはまだ彼女に家族というものがいた時の頃だ。

 家は海辺にあり、よく海に潜って、遊んでいた。

 だから、泳ぎは得意だった。


 あれから700年以上経った今でも、身体が覚えているらしい。

 まさか、こんな特技が自分の中に残されていたことに、カラミティは軽くショックを覚えていた。


 ふと目を瞑る。


 脳裏に浮かんだのは、その家族の顔ではない。

 レイルの顔でもなかった。


 必死にカラミティの方に手を伸ばしたヴォルフの顔があった。


(怒っておったな、あやつ)


 かわした言葉の数でいえば、さほどのことでもない。

 レイルよりも少ないだろう。

 だが、カラミティはヴォルフの本質を見抜いていた。


 お人好し……。


 まさしくこの言葉に尽きる。

 それも単なるお人好しではない。

 700年間、あれほどのお人好しはいない。

 レイルで比べてもどうかというところだ。


 いずれヴォルフは伝説級(SSS)になるだろう。

 間違いなく……。

 本人はまだまだ自覚していないようだが、その素質は十分ある。


 そして、そのお人好し度も伝説級であった。


「ふっ」


 何故か笑みがこぼれる。

 たった今も血肉を削られ、肉体、精神ともにひどい痛みを感じているのに、ただヴォルフのことを思い出すと、気が紛れた。


「これではまるで恋する乙女ではないか……」


 カラミティは自嘲気味に微笑む。


「だが、許せ……。これが我の望みぞ」


 深く深く潜っていく。

 波の中心へと向かった。

 どす黒さが増していく。

 耳朶に響く怨嗟の声も激しくなってきた。

 気を抜くと、カラミティとて意識を失いそうだ。


「あれか……」


 カラミティが見つけたのは、ロドロニスの尖端の鐘だった。

 まるで波間に漂うように揺れている。

 手を伸ばした。


 バチィ!!


 反発した。

 カラミティの腕が吹き飛ぶ。

 皮がもげ、血管と筋肉が露わになる。


 カラミティは力を入れ、再生した。

 得意げに笑う。


「ふん。上等だ。我の不死と聖槍の力……。どちらが強き奇跡か試そうではないか」


 カラミティは再び聖槍ロドロニスに手を伸ばす。

 皮がはげ、指が吹き飛んでもかまわない。

 その瞬間から再生し、ついにロドロニスを掴んだ。


「かか! なかなか良い暴れ牛よ! だが、大人しく我に使われよ!!」


 叫ぶ。

 だが――。



 だめ……。



 ふと声が響いた。

 次の瞬間、ぼこりと顔が波間の中から浮き上がる。


 それがサラードであることに、カラミティは時間を要した。

 致し方ないことである。

 すでに彼女の顔面は溶けていた。

 残っていたのは、骨と眼窩の奥の怪しい光だけである。


「ダメ! 渡さない! これは愛! ガダルフ様への愛なの!!」


「このどす黒い塊が愛だと……。かかっ!! 滑稽よな、サラード。だが、面白い。初めてお前の言葉で、我が琴線を動かしたぞ」


「愛……。あいai愛哀アイIあいAIアイ哀愛あい逢曖アイ!」


 それはもはや人ではなくなっていた。

 当然だろう。

 すでにサラードの意識はこの波の中にある。

 この波そのものが、彼女だといっても過言ではないかもしれない。


「そこまでガダルフという者を好いておるのか。ならば、自分の言葉で伝えよ。その者の心を揺るがせ! 貴様とて、女子(おなご)の端くれであろう!!」


 カラミティはとうとうサラードからロドロニスを引き剥がした。


 瞬間、波の爆発が起こる。

 黒い光(ヽヽヽ)が彼女に襲いかかり、包んでいった。

 一瞬にして、光はカラミティの精神に届く。

 蔓のように侵食し、【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】を蝕んだ。


 なんのことはない。


 状況は変わらなかった。

 ただ聖槍ロドロニスの力が、カラミティに譲渡されただけである。


 いきなり真っ暗闇に放り出される。

 永劫ともいえる空間だった。

 死んでいるのか、生きているのかわからない。

 時が動いている気配すら感じられなかった。


「これが死なのかもしれんな……」


 カラミティはいやに落ち着いていた。

 今にもロドロニスが彼女の心を食おうとしているのにだ。


 走馬燈というのだろうか。


 700年に起こった出来事が脳裏に浮かぶ。

 忘れていた親の顔、姉弟の顔。

 部下たちの顔、国民の顔。

 殺してきた者の顔、襲ってきた者の顔。


 彼女が記憶にとどめていない者の顔まで浮かんでくる。


 だが、一際大きく映ったのは、やはりレイル。


 そしてヴォルフ・ミッドレスだった。



 …………ッ!!



 不意にカラミティは瞼を持ち上げる。

 やはり闇が広がるだけだった。

 しかし、一瞬聞こえた。


 声だ。

 自分を呼ぶ声が聞こえる。


「カラミティ!!」


 気のせいではない!

 その時光が見えた。


 小さく弱々しい……。


 でも、カラミティにはその光がとても心強く見えた。

 手を伸ばす。

 瞬間、感触を感じた。

 自分の手を握る手の感触を。


 すると、現れたのは男だった。

 頬に傷のある男。

 闇の中にあっても、紺碧の瞳を光らせている。


「ヴォルフ! お前、何故……?」


 どうしてここまで来たのか。

 怒鳴って、殴ってやりたかった。

 事実、ヴォルフもまた闇に浸食されつつあった。

 どうやら【大勇者(レジェンド)】の強化によって、なんとか生きながらえているらしい。


 とはいえ、カラミティ以上に風前の灯火だった。


 それでも、その眼光の鋭さが消えることはない。


 むしろより強く闇の中を照らしていた。


「決まってる!!」



 お前を助けに来たんだ、カラミティ・エンド!!


書籍版2巻発売されました。

Web版ともどもよろしくお願いします!

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