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第157話 4対1

2巻発売まで、あと4日!

『にゃああああああああああ!!』


 吠声が轟いた。

 瞬間、サラードの頭上に光が差す。

 天井を貫き、青白い稲妻が落ちてきた。


 サラードは咄嗟に聖槍ロドロニスを掲げる。

 稲妻は曲がり、研究室の壁に激突した。

 瓦礫とともに、膨大な資料が舞い上がる。

 それも落雷の熱によって消えた。


「ちょっと何事?」


 サラードは目を細める。

 今一度、レミニアの方に向き直った。

 側にいたはずの【大勇者(レジェンド)】が消えている。


 すると、物音がした。

 同時に青白い光が研究室を覆う。

 サラードは振り返る。

 青白い炎を焚いたような獣が、レミニアをくわえていた。

 慎重に彼女を床の上に下ろす。

 轟音が鳴り響いても、【大勇者】の目が開くことはなかった。


「幻獣ちゃん? ああ……。ヴォルフ・ミッドレスにくっついている、【雷王(エレギル)】ちゃんね」


『――ったく、嫌な予感がするから、王宮に戻ってみれば、案の定にゃ』


「何を話しているのかわからないけど、どうやらヴォルフはいないようね」


「俺がなんだって?」


 背後から殺気が浮かぶのを感じた。

 サラードは咄嗟に転送魔法を唱える。

 一旦距離を置いた。

 顔を上げると、1人の男が立っている。

 獣――いや、1匹の狼のようにサラードを睨んでいた。


 濃いブロンドに、如何にもお人好しといった四角い顔。

 体格はがっしりとしており、アラフォーとは思えない引き締まった身体をしていた。

 そして紺碧の瞳……。


 サラードは初めて会うが、聞いていた特徴と見事一致している。


「ヴォルフ・ミッドレスね」


 薄く笑った。



 ◆◇◆◇◆



 質問を聞きながら、ヴォルフは横たわったレミニアに、一瞬視線を向ける。


 意識こそ失ってはいるが、五体無事らしい。

 だが、【大勇者(レジェンド)】である娘の気を失わせたのは、引っかかる。

 身体は無事でも、果たして心が無事かどうか、ヴォルフにもわからなかった。


 目の前のピンク髪の女に向き直る。

 薄く、そして大胆に露出した衣装。

 蠱惑的な笑み。

 ヴォルフは誰かに似ていると思った。


「何者だ?」


「サラちゃんの名前は、サラード・キルヘル……」


「キルヘル……。まさかベードキアの……」


「あはははは! 覚えていたんだ、お姉ちゃんのこと」


 ベードキアは【闇森の魔女】という異名を持った魔導士である。

 しかし、その実――優秀な冒険者を捕らえ、過激な人体実験を行い、さらにヴォルフそしてラムニラ教宣教騎士のアローラやリックを苦しめた。


 サラードが先ほど見せた転送魔法も、ベードキアの得意技の1つだ。


 ベードキアもラーナール教団に従属していた。

 その妹が教団に属していても、なんら不思議ではない。

 問題は彼女の目的である。


「なるほど。姉の敵を討つため、俺を狙い、故郷であるレクセニルを狙っていたのか?」


「ちがうちがう。仇討ちなんて考えてないよぉ。サラちゃんとお姉ちゃんは、どっちかっていうと、仲悪かったし。むしろ、いなくなって清々してるぐらいなんだから」


「だったら――――」


「サラちゃんの目的は、あくまでラーナール教団のためだよ。ひいては大主教様のため……」


「大主教?」


「そう。サラちゃん、大好きなの。大主教様のためなら、なんだってしてあげる。心臓を差し出せといわれれば、デコ付きで差し出すし、足りないというなら、家族の命だって差し出しちゃう。といっても、もうお姉ちゃんも死んじゃったから、誰もいないんだけどね」


『こいつ、狂ってるにゃ……』


 ミケは目を細める。


「でも、今ほしいのは、あなたの命。そして、我らが悲願を阻むレクセニル王国の破壊。それだけよ」


 サラードの目に迷いはない。

 ヴォルフから見れば、ミケの言うとおり狂っているだろう。

 しかし、彼女からすれば至って正常。

 その大主教とやらが、命をくれといえば、本当に皿の上に載せて差し出すだろう。


 サラードをここまで心酔させる大主教という男。

 少し気になったが、今はそういう暇もない。


 今、この時も王都民の流出は続いている。

 その向かう先は、ドラ・アグマ王国である。

 殺意を隠すことなく、例の言葉を合唱していた。


 何か起こったのだろうと嫌な予感がし、一旦引き返し、ミケに全速力で飛ばしてもらって戻ってみればこの有様である。


「一体、みんなに何をした?」


「見てわからない? 聖槍の音を聞かせてあげているのよ」


 かつん、と柄の先で床を叩く。

 穂先についた鐘が、ガラン、と鳴り響いた瞬間、太い音圧のようなものが放射状に広がっていく。


 ヴォルフは思わず耳を塞いだ。

 それでも、他人間のように気が触れることはない。

 ミケも同じらしい。

 軽く耳を掻く程度だった。


「さすがは【大勇者(レジェンド)】に強化された勇者。相当な魔法耐性が施されているのね。【雷獣(ねこ)】ちゃんに効かないのは不思議だけど……。ああ、そうか。幻獣と人間では違うからか」


 1人納得すると、サラードは突然口端を歪め笑い始めた。


 癪に障る笑声に、ヴォルフはピクリと眉を動かす。


「お前、何を言って――」


「いえね。聖槍っていうのは、人の良心を破壊するものなのよ」


「人の良心を破壊する?」


 すると、サラードの声のトーンがさらに上がった。


「そう。この国にたまりに溜まった戦争への意志、敵意。それらをぐっと押さえ、抑圧されてきたものを……。サラちゃんはね。聖槍によって解放してあげたんだよ。むしろ感謝してほしいぐらいだわ。みんなが溜まりに溜まっていた不平不満を、吐き出させてあげているんだから」


「まさか、サラード! すべてはお前の手の平だったと」


 レクセニル王国とドラ・アグマ王国をぶつからせたのは、そのためだったということか、ヴォルフは推測する。


 サラードは桃色の髪を振って、否定した。


「そうだ(キリッ)――って、キメたいところだけど、別にそういうわけでもないのよねぇ。そもそもカラミティちゃんに、レクセニルを滅ぼしてほしかったし。けど、途中で放り出しちゃったでしょ。じゃあ、サラちゃんが滅ぼしちゃおって思っただけなの」


 サラードは再び鐘を鳴らす。

 胸を掻きむしるような音圧を間近で感じたヴォルフは、思わず膝を突きそうになる。

 サラードの言うとおり、ヴォルフには耐性がある。

 だが、抗する力があっても、影響は決して0ではない。

 小さな火も消火しなければ、森を灰にすることすら可能である。

 じわじわと浸食し始めた音が、確実に【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】を蝕みつつあった。


「なかなか便利な槍でしょ? でしょ? でも、おかしいよね。聖槍っていっても、人の良心を破壊するんだよ。こんなものをラムニラ教が守っていたんだ。しかも、御柱として崇めていたんだよ。ねぇねぇ、おかしいと思わない」



 簡単なことですよ。あなたみたいな狂信者から守るためです。



 ヒュッと風を切る。

 矢がサラードの側面から飛んできた。

 咄嗟に彼女は反応する。

 槍を振るって、迎撃した。


 激しくガランと音が鳴る。


「ちょっと何よ。サラちゃんが喋っているのに」


「それはすいません。ただラムニラ教の悪口をいわれていたような気がしたので、なんとなく弓を打ってみました」


 研究室に入ってきたのは、リンダだった。

 次弾を打とうと、矢をつがえ、弓を引く。

 そして躊躇うことなく、矢を放った。


 ガラン……。


 聖槍ロドロニスを、サラードは振るう。

 飛んできた矢を弾いた。


「なんとなくって……。あんた、何者?」


「初めまして、サラード・キルヘルさん。わたくしの名前はリンダ・バッシー。ラムニラ教の司祭です」


「司祭……? 聞いた事がないわ。あなた、本当に司祭なのぉ?」


「そんなことはどうでもいいじゃないですか? それよりも、3対1ですよ。数的有利はこちらです。大人しく投降して、わたくしたちの聖槍を返していただけないでしょうか?」



 いや……。4対1だ。



 再び別の声が聞こえた。

 リンダの時とはまるで違う。

 声に怒りと血が滲んでいた。


 バッと研究室が暗くなる。

 室内に差し込んでいた陽光が、遮られたのだ。


 皆、一斉に外を見る。


 まず目に入ったのは、大きな蝙蝠のような翼。


 そして怒り狂ったカラミティ・エンドの表情だった。


「サラード……。貴様、よくも我が国民の心を……」


「わーん。カラミティちゃん、こわーい。ここは撤退撤退。またね。ヴォルフちゃん」



 地獄を味わってね。



 そしてサラードは、忽然と皆の前から消え去った。 


発売日まで毎日更新の予定です。


7月10日に2巻発売です!

よろしくお願いします!

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