第150話 【剣狼】vs骸骨将軍
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後書きにお知らせがございますので、どうぞ今回も最後までお楽しみ下さい。
気色悪い声が聞こえる。
まるで魔獣の群れに囲まれたかのようだ。
殺気立ち、あるいは怒気を振りかざし、不死者たちは興奮していた。
先ほどアンデッドオーガが出てきた門が開く。
「次は吾輩である」
現れたのは、スケルトンだ。
8つの手腕と3つの首。
先ほど、ヴォルフを案内した骸骨将軍だった。
先ほどと違うのは、それぞれ手に武器が握られていることだ。
「どういうことだ、これは? 俺は茶会に招待されたはずだが。まさかこれが茶会というのではないだろうな」
一瞬、そういう風にも考えた。
しかしカラミティの反応からしておそらく違う。
彼女も知らないことなのだろう。
とすれば、今目の前にいる骸骨将軍の独断である可能性は高い。
「だったら、どうした? おめおめ帰るつもりか? 吾輩としては、それでも構わぬが……」
「そう言いながら、やる気満々じゃないか、お前」
「当たり前である。陛下を傷つけた大罪人。その男を殺す機会なのだ。逃しはせん」
「矛盾してないか。そんなに大切な陛下の命令に背くってことだろ? あんたの命も危ういんじゃないのか?」
「心配するな。吾輩は不死者である!」
それが「始まり」の合図だった。
骸骨将軍は飛び出す。
踏み固まった砂を蹴る音は、大歓声の中にかき消された。
8つの腕を大きく広げながら、接近してくる。
速いッ!!
スケルトンというのは、見た目からして貧弱だ。
何せ骨だけ。
筋肉の「き」の字もない。
だが、骸骨将軍の基礎能力は本物だった。
一瞬にして、ヴォルフとの距離を制圧する。
アンデッドオーガなど、目ではなかった。
(さすがは将軍と語るだけあるか)
多腕から繰り出される一撃目は棍棒だった。
重そうな棍棒を軽々と持ち上げる。
一気にヴォルフの脳天へと振り下ろした。
ヴォルフは受けに回らない。
一旦距離を取る。
その判断は正しい。
ごつんっ、と重たい音を立てると、地面が大きくへこんだ。
膂力もあるらしい。
だが、骸骨将軍の攻撃はそれだけに留まらない。
ヴォルフが距離を取ると見るや、別の腕を伸ばす。
そこに握られていたのは槍だ。
黒槍が真っ直ぐヴォルフを捉えた。
ギィン!!
たまらずヴォルフは弾く。
如何にパワーがあろうと、基礎能力ではヴォルフが上だ。
娘に強化され、成長した筋力は伊達ではない。
そのままヴォルフは側面へ回る。
割とあっさりと周り込むことに成功した。
一転攻勢に出ようとしたが、そこでヴォルフは気付く。
将軍の顔が3つあることに……。
「あ……」
骸骨将軍のもう1つの顔。
極端に口が裂けた相貌は、罠にかかった【剣狼】を嘲笑っているかのようだった。
ほぼノーモーションで今度は手斧を振り回す。
近付こうとするヴォルフの動きを阻んだ。
また距離を取ることを余儀なくされる。
だが、将軍は許さない。
今度【剣狼】に襲いかかったのは弓だった。
強い力を込められた矢が、ヴォルフの頬をかすめる。
幸い無傷で済んだ。
おそらく鏃の先には毒が塗られていたのだろう。
娘によって強化された嗅覚が、そう告げていた。
妙に息苦しい。
1度ヴォルフは息を吐く。
吸い込む空気には、死臭が混ざっている。
場所はホームではない敵地。
おまけに敵だらけだ。
逃げように逃げられない。
絶体絶命のピンチといっていいかもしれない。
すると、ヴォルフの脳裏に1つの映像が浮かんだ。
炎のような赤髪の少女だった。
少し泣いているようにも見える。
娘――レミニア・ミッドレスだった。
「大丈夫だよ」
ヴォルフは呟く。
誰かに言い聞かせるように。
ヴォルフは誓った。
レミニア・ミッドレスの勇者になると。
そして、【大勇者】を越えてみせる。
そして、伝説のSSSランクへ……。
「こんなところで、負けるわけにはいかぬのだ!!」
【剣狼】は吠える。
一転攻勢に移った。
タンッと地を蹴り、風――いや光のように駆け抜ける。
骸骨将軍は足を広げた。
迎え撃つつもりだ。
「来い! 人間!!」
8つの武器をヴォルフに向け指向する。
まず襲いかかったのは、矢だ。
高速で打ち出されたそれを、ヴォルフは見切る。
右にかわしたが、誘い込まれたらしい。
今度、伸びてきたのは先に鉄球が付いた鎖だった。
新たな武器。
しかし、それもヴォルフは身を屈め、回避する。
その【剣狼】に襲いかかったのは、地面にスレスレに放たれた槍だ。
高速で飛来すると、ヴォルフの足を狙った。
「くっ!!」
足を伸ばし、槍の柄の部分を止める。
攻撃こそ停止させたが、同時にヴォルフの動きも止まった。
そこに骸骨将軍が迫る。
槍を捨て、自ら距離を詰めた。
例え1つ武器がなくても、将軍にはまだ7つの武器がある。
「かかっ!! 吾輩の8つの武器はすべて必殺! 味わうがいい! ヴォルフ・ミッドレス!!」
【八大地獄】!!
1つの武器をクリアしても、さらに1つの武器が襲う。
8つの攻撃を制覇しても、再び1つめの攻撃から始まる。
それは終わりなき、8つの腕から繰り出される地獄だった。
剣が……。
手斧が……。
棍棒が……。
刺突剣が……。
曲刀が……。
手に収まったままの武器を全て使い、将軍は迫る。
全方向から狼を追いつめた。
ヴォルフは1度刀を納める。
将軍の体……。
そして武器が間近に迫る。
だが、それは同時に骸骨将軍もまた、ヴォルフの間合いに入ることであった。
【剣狼】の瞳が大きく光る。
死への恐怖はない。
むしろ獣のようにギラギラしていた。
一瞬、骸骨将軍は骨を振るわせる。
背骨が冷えた。
感じた恐怖に、身が竦む。
が、攻撃を止めることはできない。
引き戻すこともできず、将軍は全力を投じた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
暗闇の口蓋から気合いを発する。
裂帛の声は、闘技場に響き渡った。
ジャッ!!!!
地下の闇の中で、剣線が閃く。
まるで闘技場を分断するかのようだった。
熱狂的な歓声を上げていた観客たちの声が沈む。
言葉を失い、見ていたのは、中空に飛んだスケルトンの体躯だった。
がしゃり……。
派手な音を立てて、地面に叩きつけられる。
見事に袈裟に斬られていた。
残った半身もまた、バランスを失う。
ヴォルフの前で倒れた。
その【剣狼】は刀を逆手に持ち、伸び上がったままの姿勢で固まっている。
己の成果を確認すると、そのまま鞘に収めた。
納刀の乾いた音が、余韻を残す。
「馬鹿な……」
といったのは、骸骨将軍だった。
たとえ半身を切り飛ばされようと生きているらしい。
その点はさすが不死者といったところだろう。
だが、すでに戦意はない。
殺気こそ漲らせているが、すでに敗着を意識したようだった。
「どうして……。吾輩の方が武器が多いのに」
「武器の多い少ないが、勝敗を決めるんじゃない。たった1本でもいい。武器が、相手の身を斬り裂いた瞬間に、勝敗が決まるんだ」
これもまたヴォルフに刀を教えた人の教えだ。
最速にして、最短。
そして最効率……。
【無業】という術理に、8つの武器などいらない。
「くっそ……」
骸骨将軍は項垂れる。
やはり死んではいないらしい。
場内は水を打ったように静まっていた。
将軍というからには、彼はドラ・アグマ王国の中でも、かなりの手練れなのだろう。
その不死者を斬り、勝利した。
アンデッドオーガどころではない。
国の屋台骨を揺るがすような存在の敗北に、皆が言葉を失っていた。
パチパチ……。
拍手が聞こえる。
不死者たちの視線が同じ方向を向いた。
硬い石の玉座についた少女が手を叩いている。
部下が斬られたというのに、その顔は輝いていた。
子供のように喜んでいる君主を見て、不死者たちは遅れて拍手を送る。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
うねりのような歓声が届く。
そのほとんどがうめき声だ。
だが、時々人間でも理解できる言葉も聞こえてくる。
「すげぇ!」
「あの骸骨将軍を破った」
「【八大地獄】を破れる者が、陛下以外にいるとは……」
「いいぞ! 人間!」
ひどく好意的だ。
それはヴォルフが戸惑うほどだった。
どうやら不死者たちの興味は、君主と似ているらしい。
強いものが治める。
まあ、そんなところだろう。
その点においては、ワヒト王国と似ているような気がした。
歓声は収まらない。
ヴォルフはどうしていいかわからなかった。
とりあえず手を振ってみる。
すると、さらに観客たちのボルテージが上がった。
(これでいいのだろうか……)
苦笑いを浮かべながら、ヴォルフは手を振り続けた。
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