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第16話 そして伝説は始まった。

「100人斬り」篇ラストです!


☆☆ コミックス7月12日発売 ☆☆

『アラフォー冒険者、伝説になる』のコミックスがいよいよ発売されます。

すでに書影が公開されておりますので、中もおまけページなどが盛りだくさんです。

是非ご予約お願いします。


挿絵(By みてみん)

 カン! カン! カン!!


 木を打ち合わせる音が、気持ち良く響く。

 場所はレクセニル王国の王宮内にある中庭だ。

 いつもは静かな庭園で、木刀を打ち合わせていたのは新米の兵士などではない。


 1人は一見男の子にも見える短髪の女性。

 対するは、赤髪を揺らした見目麗しい美少女だった。

 両者とも、衛兵がハッと立ち止まってしまうほどの魅力を秘めながら、真剣に木刀をぶつけ合っている。

 その光景は、美しい絵画を見ているようだった。


「もうやめましょう」


 最初に剣を止めたのは、短髪の女性だった。

 待った、と相方に向けて、手を突き出す。

 息を切らし、腰を下ろすと、青空を仰いだ。


「何よ、ハシリー。もう息が上がったの?」


「あなたの体力が化け物なだけです。レミニア。そもそもなんでぼくが付き合わなきゃならないんですか?」


「わたしに『太った』とかいうからじゃない。連帯責任よ(ヽヽヽヽヽ)


「なんですか、それは」


 事の発端は、ハシリーの迂闊な一言だった。

 まだ備品が届かず、部屋でゴロゴロしていたレミニアを見て、言った。


『そんなんじゃ豚になりますよ』


『うっそ! わたし、もしかして太った?』


 一見して顔に出るまで太っていないように思えたが、レミニアには驚天動地の発言だったらしい。いきなり中庭に引きずり出されると、鍛錬をすると言い始めたのがきっかけだった。


 【大勇者(レジェンド)】といえど、まだまだ年頃の娘らしい。

 しかし、レミニアの場合、普通の娘とはちょっとだけ理由が違う。


『太ったら、パパに嫌われちゃう』


 相変わらずのファザコンぶりをぶちかましていた。


「そういえば、レミニアの剣ってヴォルフさんに習ったんですよね」


「まあね。パパ、すっごく強かったのよ。わたしが1本も取れなかったんだもの」


「小さい頃の話じゃないんですか? 今やったら、勝てると思いますよ」


 手合わせしてわかったが、レミニアは剣でも強い。

 あの猛将ツェヘスに勝ったのだから当たり前ではあるのだが、Dクラスの冒険者なんて足下にも及ばないだろう。


「それは無理ね。正直にいうけど、わたしはもう2度とパパに剣を向けないと思うから」


 レミニアの呟きは、意味深な余韻を残し、狭い中庭の空へと舞い上がった。



 ◇◇◇◇◇



 ざっと数えても、100人、いや――もっといるだろう。

 襤褸なのか、皮なのか、あるいは鉄か。

 とにかく小汚い格好をした連中が、ぞろぞろとヴォルフの前に現れた。


「てめぇ、何をしてんだ!」

「誰が出ていいつった!!」

「死にたいのか、てめぇ!!」


 耳が痛くなるほどの怒声を張り上げる。

 男達から発する腐臭と共に、空気が張り詰めていった。


 ヴォルフは周りを見渡す。

 360度全方位――盗賊。

 壮観な眺めがすぎて、笑い出したくなる。


「村の住人はどこにいる?」


「は?」

「聞いてるのはこっちだ! とっとと牢屋に戻れ!」


「埒があかないか」


 いよいよ鋼の剣に手をかけた。

 ヴォルフの動きを見て、「おお」とどよめく。

 盗賊たちもまた、それぞれの獲物に手をかけ、早くも構えた。


「てめぇ、やる気か」

「こっちは何人だと思ってんだ!」

「つーか、俺たちを誰だと思ってる!!」

「【灰食の熊殺し(グレム・グリズミィ)】ってわかってんのか」


 取り付く島もない。

 聞くだけ無駄らしい。


「じゃあ……。身体に聞くしかないか」


「「「「ああッッ!!!!」」」」


「悪いが、死んでも知らんぞ。恋人とか家族とかいるヤツは名乗り出ろ。半殺しに留めておいてやる」


(自信はないがな)


 ヴォルフの挑発に、見事盗賊団はかかった。

 同時に開戦の狼煙となる。

 ああああああ!! 気勢を上げ、盗賊たちが斬りかかってきた。


 3人同時に――。


「おおおおおおおおおお!!!!」


 裂帛の気合いが、洞窟を貫く。

 ヴォルフもまた鞘から剣を抜き討った。


 剣閃が美しい孤を描く。

 同時に襲いかかってきた3人の盗賊を吹き飛ばした。


 一瞬、水を打ったような静けさが洞穴に押し寄せる。

 倒れた3人を見て、臆したように見えた盗賊だったが、逆に仲間を倒され、激昂した。


「てめぇ!!!!」


 1人が斬りかかってくる。

 ヴォルフは初撃を捌く。大きく仰け反った盗賊の肩に剣を振り下ろした。

 骨を砕く音が聞こえる。

 悲鳴が響いた。

 またしても、盗賊の動きが止まる。


「こないのか? じゃあ、こっちから行かせてもらうぞ」


 呆気に取られる盗賊たちを見て、今度はヴォルフが仕掛ける。

 群の中に単身突っ込んだ。

 慌てて構える盗賊の腹に撃ち込む。

 1人を無力化すると、さらにもう1人を袈裟に斬る。

 側面から突進してきた盗賊をかわすと、突き出した手をぶん殴る。

 おかしな方向に腕が曲がった男を、今度は足からすくい上げて蹴り飛ばした。


 たちまち3人がのされる。


「囲め! 相手は1人だぞ!!」


 誰かが叫んだ。


 ヴォルフの進撃は止まらない。

 まるで紙でも払うかのように薄汚い男たちを斬っていく。

 戦車のような突進力に、次第に盗賊たちは焦り始めた。


 ヴォルフも余裕があったわけではない。

 迫り来る敵の動きを見ながら、常に最善手を選んでいくような戦いをしていた。

 1人1人の強さはEか良くてDクラスぐらいだろう。

 今のヴォルフなら造作もない。


 しかし、100人ともなれば別だ。

 1人ではなく、3人以上の立ち位置を見ておかなければならない。

 3人を1個に見立てて戦う――そういう意識が必要だ。

 Eクラスが3人集まれば、単純計算CやBクラスの難度になる。


 簡単そうにやってるが、高難度の戦いをヴォルフは強いられていた。


「オオオオッ!」


 ヴォルフは盗賊を斬り飛ばす。

 勢い余って、胴を真っ二つにしてしまった。

 こうなると絶命は必至だろう。

 集中力が切れかけていた。

 覚悟はしていたが、なるべく人を殺したくはない。


「(両手で剣を振ると力を込めすぎるな)」


 柄を握った手を見る。

 片方を離し、今度は地面のショートソードに目を落とす。

 その柄を足で蹴った

 ビィンと跳ね上がった剣を片手で掴んだ。

 身体を正面に向け、二剣を開くように構える。


 感触を確かめた。


「悪くない」


 ヴォルフはにやりと笑う。


 二振りの剣を構えたヴォルフを見て、盗賊団の顔色が益々悪くなった。

 心中の恐怖が手に取るようにわかる。

 再び双剣士(トゥーハンドラー)は走り出した。


 群れに突っ込むと、剣を振る。


 思いつきでやったが、これが当たった。

 ヴォルフの動きが一層苛烈になる。

 敵を巻き込むかのように回転すると、次々と盗賊たちを切り裂いていく。


 全く止まらない。

 これも戦術のうちだ。

 動き回ることによって、相手に構える余裕を与えない。

 常に先手を取り、体勢不十分の人間を斬っていく。

 これこそが、1対多数の戦い方なのだろう。


 ヴォルフは感じていた。

 この瞬間、己が強くなっていくのを。

 冒険者時代、味わえなかった経験値が、どんどん蓄積していくのがわかる。


 確かに今の自分の力は娘に与えられたものだ。


 だが、越えることが出来る。

 いつか自分はこの力以上のものを手にする。

 そんな自信があった。


「さあ、来い!!」


 返り血を浴びながら、ニカラスのヴォルフは吠えた。



 ◇◇◇◇◇



「ここにいらっしゃったのですか、ラーム様」


 ヴォルフが戦う洞穴の上。

 ラームと呼ばれた老人は、振り返った。


 ストラバールの衛星レクを背に、女が立っている。


 夜に溶け込むような黒髪。

 肩まで伸びた後ろ髪を、白いリボンで結んでいた。

 目は小さいが、瞳に光る黒色は強く、小顔で子供のように見える面相ながら、立ち居振る舞いは毅然としていた。


「アクシャルか。……よくここがわかったな」


「あなたがいそうな場所を虱潰しに探していただけです。簡単ではありませんでしたよ」


「ふん。かわいげのない回答じゃのう」


 ラームは再び視線を落とす。

 アクシャルもまた、その先を追いかけた。


「盗賊ですか?」


「うむ。なかなか面白い男にあってな。今、たった1人で盗賊団と戦っておるわ」


「1人? 加勢をした方がよろしいでしょうか?」


「よいよい。放っておいてもあの男が勝つじゃろう」


 なんとも嬉しそうにラームは笑う。

 少し嫉妬を覚えたのか、これまで微動だにしなかったアクシャルの顔が、わずかに変化した。


「ラーム様が面白いという方……。どういうお方か、興味があります?」


「わしもよく知らん。ニカラスのヴォルフといっていたのぅ」


「ニカラス……? そういえば、新しい【大勇者(レジェンド)】の出身も、ニカラスだったような気がします」


「はっ。なるほど。あやつの力はあの(ヽヽ)小娘のものか。得心がいったわ」


「どういうことですか?」


「お主は知らなくて良い。……そろそろ行くか」


「はい。他の賢者様がお待ちです」



 ……大賢者ラーム様。



 強く風が吹く。

 衛星レクに向かって、青葉が舞い上がっていった。

 2人の姿は忽然と世界から消えていた。



 ◇◇◇◇◇



 ニカラスから1番近い町カラ。

 ここには小さいながら、ギルドの支部が存在する。

 僻地ではあったが、カバーする範囲が周辺に点在する村々も含まれるため、依頼は決して少なくない。

 逆に冒険者が少ないので、クエストが溜まっていく一方だった。


 僻地にあるギルドだけあって、職員は4名のみ。

 その内の1人である受付のパルシィは、今日も多忙な1日を送っていた。

 斑猫族の彼女の笑顔は愛嬌があると、街では有名な受付嬢だ。


 その彼女の前に大柄の男が現れる。

 冒険者としては珍しくない身体つきだったが、かなり年齢が上だ。

 それにこの辺りでは見ない冒険者だった。


「どのようなご用件ですか?」


「盗賊を掴まえたんだが」


「ああ。賞金の受け取りですね。えっと、人数は」


「166人だ」


 聞いた瞬間、パルシィは椅子に隠した尻尾をピンと立てる。

 1度にそんな人数の盗賊を掴まえたなんて報告は、初めて聞いた。


「え? あ、ああ……そうですか? それは凄い。えっと、パーティーの方は?」


「いや、俺1人だ」


「はっ?」


 パルシィは丸い目を大きく広げる。

 とにかく平静を保ち、恐る恐る質問した。


「あ、あの……。お名前は?」



「ヴォルフ……。ニカラスのヴォルフだ」








  そして……。伝説は始まった。


お話はここまでとなります。

この後のヴォルフの活躍は、皆様のご想像にお任せします。

……嘘です。この後も続く予定なので、ご安心下さい(ホントいうと、当初はここで終わらせようと思ってたけど、皆様の後押しもあって続けることにしました)


区切りとしては良い機会なので、ブクマ・評価・感想・レビューなどをお待ちしおります。

真剣に作品のモチベーションにつながっているので、何卒……m(_ _)m


次回は1年後……ではなく、明日から引き続き更新していきます。

冒険者となると決めたヴォルフの人生を、どうぞご堪能ください。


とはいえ、明日は娘パートとなります。

いよいよあの姫との対決が……。ご期待下さい!!

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