表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

162/371

第142話 勇者凱旋!

ここで宣伝したところ、新作『縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りではじまる余裕の異世界攻略~』のPVが大幅に上がりました。読んでいただいた方ありがとうございます。

おかげで、久々にジャンル別の表紙に掲載されました。

新作ともどもよろしくお願いします。

 王都は上を下への大騒ぎになっていた。

 カラミティの侵攻を聞き、残っていた王都民が脱出を始めたのだ。


 ムラド王は引き留めなかった。

 貴重な兵を割き、北の門を開けて脱出させた。

 だが、逃げたところで分が悪いのは変わらない。

 城門外には、魔物がいる。

 兵をつけたとはいえ、万の人間を守るには、あまりに手勢が少なかった。


 だが、王国ができることといえば、それぐらいしかない。

 他国からの応援を要請しているが、間に合いそうになかった。


 後は【大勇者(レジェンド)】の帰りを待つしかない。

 王都から1日のところに陣を張った騎士団の役目は、その時間稼ぎに過ぎなかった。



 ◆◇◆◇◆



 一方、ゆっくりと武力を誇示するかのようにドラ・アグマ王国軍が進む。

 ウィラス率いる騎士団と対峙したのは、報を聞いてから2日経った深夜のことだった。


 (レク)が満ちている。

 綺麗な円が光を放ち、草原の国を照らしていた。

 月下のもと、両雄は居並ぶ。

 赤い光が、魔幼虫のように蠢いている。

 対して、レクセニル軍は深夜の戦いにもかかわらず、精悍な顔つきをしていた。


 誰も眠い目を擦らない。

 ただ今にも震えだしそうな唇をギュッと噛み、不死の軍勢と相対していた。


 すると、1人の女が草を踏みしめ現れる。


 魅惑的な身体のライン、上品に緩めた唇。

 月光に照らされた白い髪を揺らしている。

 それが【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】でなければ、世の男達はたちまち虜になったことだろう。


 ナチュラルな魅了の魔法を振りまき、カラミティ・エンドは戦場に降り立つ。

 軍の先頭に現れ、両腕を組んでふんぞり返る。


 対するレクセニル軍の先頭に立っていたのは、ウィラス・ローグ・リファラスだ。

 槍の切っ先を下げて、伝説の存在と相対する。

 物怖じする様子はない。

 その背中は、つい先日彼女と1vs1(さし)で戦ったツェヘスを思わせた。


「兄様」


 アンリは1歩歩み寄る。

 来るな、というように槍を掲げた。


「心配すんな」


 兄は振り返らない。

 ただ真っ直ぐ、カラミティの方へ向かった。

 ヒュッと空気を切り、槍を回転させる。

 肩に置くと、リラックスした態度で、【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】に臨んだ。


「よう……。不死の女王様よ。一体、こんな夜更けになんの用だ? みんなでお月見……ってわけでもなさそうだな」


 軽口で話しかける。

 口元は緩んでいたが、首筋についた汗まではごまかせない。

 明るい月夜にあって、ぬらっと輝いていた。


 カラミティは微笑む。

 目の前の男を嘲笑うようにである。


「慮外な男よ。だが、嫌いではない。我は堅苦しいのは嫌いでな」


「そうかい。じゃあ、遠慮無しに聞かせてもらうぜ。期限まではあと7日あっただろう。ちょっとフライングが過ぎるんじゃないのか?」


「しかり……。しかし、我は14日待つといっただけで、侵攻しないとはいってないぞ」


「けっ! 面白くもない屁理屈だ」


「屁理屈ではない、事実だ。……だが、安心しろ。道行きにおいて、雑兵も民草も殺しておらん。我々は真っ直ぐ向かってきただけだ」


 カラミティの言うとおりだった。

 ここまで被害らしい被害の報告は入っていない。

 今回はドラ・アグマ軍が侵攻する経路がわかっていて、各都市の避難がスムーズに進んだのもあるが、被害「0」というのは珍しい。


 カラミティには他に目的があるのではないか。

 あくまで、これはウィラスの勘だが、そう考えていた。


「ところで、レイルは見つかったか?」


「目下調査中だ。だが、これはあくまで俺の私見だが、レイルはもう生きてねぇ。いくら伝説の存在とはいえ、レイルは人間だ。不死のあんたとは違う」



 知った口をきくな、痴れ者が!!



 それはもはや吠声だった。


 レクセニル王国の広い平野に響く。

 草葉が揺れ、空気が震える。

 耳をつんざくような叫びに、ウィラスの後ろの兵士は思わず身体を震わせた。


 覇気、殺気、そして怒気。

 押しつぶされそうなプレッシャーの中でも、副官は立っていた。

 じっと青い瞳で、目の前の【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】を見つめる。

 映っていたのは、見目麗しい女王様などではない。

 1匹の獣だった。


 白い髪を逆立て、眉間と鼻の頭に皺を寄せる。

 カラミティはその怒気を含んだ表情を崩さず、目の前の男を威圧し続けた。


「ヤツは生きておる、必ずな」


 白い息を吐きながら、カラミティは答える。

 一方、ウィラスは耳に小指をツッコんだ。

 キィンとした耳鳴りが気にするような態度を取る。

 動作がわざとらしいのは、少しでも時間を稼ぐためだ。


「何故、そう思う? 普通に考えて、200年も生きていける人間はいねぇ」


「お前に答える必要など無い。レイルを出せ」


「レイルを見つけて、どうする?」


「知れたこと……。八つ裂きにしてくれる」


「訳がわからんぞ、お前」


「お前に理解してほしいとは思わん。これは我とレイルの約束だからな」


「約束……?」


 ウィラスの瞳が光る。

 カラミティは、はっと口を噤んだ。

 白い髪を揺らし、目を逸らす。

 1匹の獣は、急に女の子らしい表情を見せた。


(なんだ? 今の反応は……)


 ウィラスは瞼を細める。

 ますます疑いの目を向けた。


「ところで――」


 話題を変えたのは、カラミティの方だった。


「レクセニル王国には、レイルよりも強い【大勇者(レジェンド)】がいるそうだな」


「――――ッ!」


「名は……。確か――――」


 カラミティは後ろを振り向いた。

 控えていたゼッペリンが答える。


「レミニア・ミッドレスです、陛下」


「そうだ。そのレミニア何某と会わせよ。いるのであろう?」


「会ってどうするんだ?」


「八つ裂きにする」


「八つ裂きが好きだな、お前」


 ウィラスが肩を竦めた。

 本気で呆れていたのだ。


「会わせよ。出なければ、そなたを八つ裂きにする」


「生憎と今、留守にしてる」


「留守だと……。隠し立てするな」


「隠してなんかいない。それにもしいたら、俺じゃなくて嬢ちゃんが先頭に立っているだろう」


「ほう……。それほどの傑物か……」


 正直に言うと、ウィラスはレミニア・ミッドレスのことをあまり知らない。


 1度、ツェヘスと戦っているのを見たことがあるが、さほど化け物という感じはしなかった。

 本気でなかった(ツェヘス相手に本気でなかったことが、すでに化け物じみてはいるのだが)からだと思うが、強さの片鱗すら感じることができなかった。


 ツェヘスにいわせれば、それがウィラスの弱さでもあるらしい。


 だが、今の目の前の伝説の怪物に比べれば、レミニアはただ可愛いだけどの子供に過ぎなかった。


「わかった。留守というなら、待とうではないか」


 この時、カラミティは自分が出した条件のことを忘れた。

 完全にレミニア・ミッドレスに興味を持ってしまったらしい。


「待つ?」


「ああ……。ここでそやつが帰るのを待とう」


 レクセニルサイドから見れば、願ってもないことだ。

 王国にとって、今打てる手は【大勇者(レジェンド)】の帰還しかない。

 その帰りを、カラミティ自ら待つというのである。

 内大臣レッセルが聞けば、小躍りしたことだろう。


 だが、嫌な予感はぬぐえない。


 そしてよく当たるウィラスの勘は、最悪の形で的中することになる。


「ただ待つのは退屈だ。貴様ら、座興に付き合え」


 カラミティの殺気が膨れ上がる。

 もう何がどうなるか、一瞬でウィラスは理解した。

 咄嗟に防御の姿勢を取る。


 ギィンッ!!


 金属を打ち鳴らしたような音が響く。

 ウィラスの胸まで上げた槍が、カラミティが伸ばした手を防いでいた。


「ほう。我が初撃を受け止めるとは……。なかなかやるではないか、お主!」


「ありがとよ」


 完全な運だった。

 ウィラスは見えていたわけではない。

 ただカラミティの軌道線上に、たまたま槍の柄があったに過ぎなかった。


 吹き飛ばされそうになるのを、なんとか堪える。

 それが精一杯だった。


ツェヘス(オヤジ)は、こんなヤツと戦っていたのかよ……)


 戦ってみて初めてわかることがある。


 化け物だ。


 基礎能力のレベルが、2桁ぐらい違っている。


 瞬間、ウィラスは吹き飛ばされていた。

 耳の横を強く殴打される。

 一瞬首がねじ切れたのかと思った。

 だが、ちゃんと胴体についている。

 そうならなかったのは、ツェヘスとの鍛錬のおかげだろう。


 しかし、それで完全に意識が途切れる。

 受け身も取れず、落下しそうになった。

 それを受け止めたのは、2人の騎士だった。


 上背のある騎士と、正対するような背の低い騎士。

 エルナンスとマダローだ。

 2人は受け止めることには成功する。

 だが、衝撃は凄まじく、そのまま吹き飛んでいった。


「ははは……。軽すぎるぞ、お前達」


「貴様ッ!!」


 戦場に躍り出たのは、アンリだった。

 背後でお付きの騎士たるリーマットとダラスがいる。

 その2人の制止を振り切り、アンリはカラミティに剣を振り下ろした。


 剣戟の音が戦場に響く。


 渾身の一撃だったはずだ。

 しかし、カラミティは目を細める。

 アンリの剣を素手で押さえ、笑っていた。


「ほう。女子(おなご)か……」


 強く引きつける。

 なんの抵抗もできず、アンリは引き寄せられた。

 膂力が違う。


 そのまま組み伏せられた。


 アンリの青眼に映っていたのは、舌と牙を剥きだした【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】だった。


 女ですらうっとりしそうな顔が目の前にある。

 それをアンリに近づけた。

 犬のように首筋の臭いをかぎ始める。

 まるで逢瀬のようだった。


 屈辱だ。


「離せ!!」


 叫ぶのが精一杯だった。

 だが、ビクともしない。

 大木に縛りつけられたかのようだった。


「ああ……。良い匂いだ」


 1度顔を上げる。

 カラミティはペロリと唇を舐めた。


「我は女子(おなご)の生き血が好きでな」


「ひぃ!」


 それを聞いた途端、アンリは思わず悲鳴を上げた。


「特に戦う女の生き血が好みなのだ。貴族女は化粧臭くて叶わん。生娘は土の匂いがする。だが、戦場の匂いを纏った女はいい」


 ああ……。


 カラミティは恍惚とした声を上げる。


 再びアンリを抱きしめると、ちろりと舌を出して首筋を舐めた。

 姫騎士は悲鳴を上げる。

 彼女からすれば、濡れた刃を押し当てられたようなものだった。


 自然と涙が出た。

 怖い……。

 心底怖いと思った。

 このまま一体何をされるのだろう。

 生き血を吸われたらどうなるのか。

 カラミティの眷属になるのだろうか。

 心と魂を奪われ、従属させられるのだろうか。


 そうすれば、いずれ自分は――。



 あの人(ヽヽヽ)に……。刃を向けるのだろうか。



 イヤだ!!

 絶対にイヤだ!!

 そんなことはできない。


 そもそも死にたくない。


 一目でいい。


 あの人には会うまでは、絶対に死にたくない!!


 アンリは泣き叫ぶ。

 そして、あの人(ヽヽヽ)の名前を叫んだ。


「ヴォルフ……。ヴォルフさまぁあああああああああああああ!!!!」


 戦場に響く。


 それはとても空しく。


 ただカラミティが笑うだけだった。


「ヴォルフ? お前の想い人か。しかし、はて……。どこかで聞いたような気がするのぉ」


 カラミティは首を傾げる。


 その時だった。


 カッと背後で何かが閃く。

 瞬間、数千の不死の軍団が吹き飛ばされていた。

 同じ事はさらに続く。

 カラミティに従う屈強であるはずの不死のけだものたちが、まるで紙のように吹き飛ばされていく。


 何かが戦車のように近づいてきた。


 すると、軍団の中から何者かが飛び出してくる。

 タッと音を響かせた。


 現れたのは、壮年の男である。


 カラミティは立ち上がった。

 アンリもまた、もはや【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】を見ていない。

 青眼に映ったのは、広く、そして懐かしい背中だった。


 くるりと振り返る男を見て、アンリは思わず涙ぐむ。


 生きているということは伝え聞いていた。

 けれど、この目で確かめるまで、不安は消えなかった。


 だが、今目の前にいるのは、夢でも幻でもない。

 紛れもなく、あの人(ヽヽヽ)だった。


 一方、カラミティもまた唖然としていた。


 一瞬……。

 ほんの一瞬だけ、重なった。

 その背中に、面影を見たのだ。


 レイル・ブルーホルドの……。


 だが違う。

 顔も声もまるで違う。

 それが、カラミティの怒りを買った。

 己の期待を裏切ったことの――ひどく理不尽な――怒りだった。


「貴様! 名は!?」


「ヴォルフ……」



 ニカラスのヴォルフだ。



 【剣狼】がレクセニルの地に凱旋した。


早くもクライマックスか?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シリーズ大重版中! 第6巻が3月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本6巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large





今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


好評発売中!Webから大幅に改稿しました。
↓※タイトルをクリックすると、アース・スター ルナの公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




アラフォー冒険者、伝説になる 書籍版も好評発売中!
シリーズ最クライマックス【伝説】vs【勇者】の詳細はこちらをクリック


DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ