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第140話 不死の王、再び戦場へ

全編カラミティサイドのお話になります。

 カラミティ・エンドの姿は、今ドラ・アグマ王国の私室にあった。


 椅子に腰掛け、茶を楽しんでいる。

 側にはパン菓子が置かれていた。


 伝説によれば、彼女は生き血を啜るという。

 特に若い処女の血がお好みで、風呂釜に入れて入浴することもあると聞く。


 だが、本来のカラミティ・エンドは違う。

 不死こそ真祖の最大の特徴だ。

 が、その他については、人間とさほど変わらない。

 味覚も同様。

 好みも変わらない。


 よって、生き血を啜ることはない。

 ただ鉄っぽい味がするだけで、不味い。

 もちろん、風呂もだ。

 血生臭くなるだけである。


 カラミティ・エンドが好むのは、専ら甘いものだった。

 茶を飲む時は、必ず甘いケーキやパン菓子を付ける。

 最近は、パンケーキにたっぷりの生クリームを載せて食べるのが流行らしい。

 早速、カラミティは部下に命じて、隣国のレクセニル王国から取り寄せた。


 これがすこぶる美味い。


 もちもちの生地に、甘い生クリームがたまらない。

 熱々で喰う(ヽヽ)となおのこと良い。

 生地の熱で溶けた生クリームが、また格別なのだ。


 200年ぶりの満足いく食事。

 その姿は、17、8歳ほどの生娘のようであった。


 カラミティがもう1つ好むものがある。


 それは闘争。

 平たくいえば、戦争だ。

 そして好みの男は何かと聞かれれば、頑丈な男だという。

 自分が触れても壊れない雄。

 殴って、蹴っても大丈夫な砂袋(おとこ)

 つまり、強い男がカラミティの好みだった。


「あのツェヘスという男……。レクセニルの猛将というから期待したのだが、大したことがなかったな」


 口の横にクリームをつけながら、真祖は笑う。

 歯を見せた表情は、ガキ大将のようであった。


 私室にノックが鳴り響く。

 秘書ゼッペリンの気配を感じると、口元を拭った。

 入るように促す。


「失礼します」


 狼のような目をした男は、静かに王の私室に入ってきた。

 すると、恭しい態度で頭を下げる。


「なんだ?」


「客人が謁見を求めております」


「客人?」


「サラード・キルヘルです」


「ああ……」


「どうしますか? 追い払うのは容易いですが……」


 猛獣のような瞳が光る。

 その頼もしい殺気を見て、カラミティは微笑んだ。


「そう邪険にするな、ゼッペリン。ヤツは使える」


「よろしいのですか?」


「ああ。わかった。会おう。しばし待てといえ」


「は……」


 ゼッペリンはそれ以上何も言わなかった。

 黙って、部屋を出ていく。


 カラミティは残った茶と菓子を腹に収め、私室を出ていった。



 ◆◇◆◇◆



 謁見の間には緊張感が溢れていた。

 濃い紫紺の絨毯。

 柱にはドラ・アグマ王国の国旗が掲げられ、奥には玉座が据えられている。

 さらにその背後の壁には、カラミティの大きな肖像画がかかっていた。

 それこそがドラ・アグマ王国の国章。

 この国のすべてがカラミティのものであり、カラミティそのものなのである。


 謁見の間には、骸骨将軍そしてその部下たるスケルトンが、王が玉座に座るのを待っていた。

 そしてもう1人。

 部屋の中央。

 絨毯の上に膝を付き、ウェーブがかった桃色の長い髪を垂らしている女がいた。


 周りは不死の軍勢。

 手には、武器を持っていて、しかも殺気だっている。

 にもかかわらず、澄ました表情のまま変わらない。

 赤縁の眼鏡の奥の瞳は閉じられ、やや厚めの唇には真っ赤なルージュが塗られている。

 肌は褐色。

 その豊満な胸を見せびらかすように、ダークエルフの女は薄着だった。


 しばらくして慌ただしくなる。

 まず入ってきたのは、秘書兼大臣たるゼッペリンだ。

 玉座に控えると、続けてカラミティが入ってきた。


 やや大股で皆の前を横切っていく。

 己を放るように乱暴に腰掛けた。

 足を組み、頬杖をつく。

 楽な姿勢を取ると、控えるダークエルフの女に睥睨した。


 ゼッペリンは1度、咳を払う。

 口を開いた。


「面を上げよ、サラードよ」


「はっ!」


 顔を上げる。

 同時に瞼が開いた。

 狂気を含んだ浅黄色の瞳が光る。


 カラミティは一瞬、眉を顰めた。

 サラードの眼光が気になったのではない。

 彼女が付ける強い香水を嫌ったのだ。


 【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】は、途端に機嫌を悪くする。

 謁見を取りやめようかとすら思った。


「拝謁する栄誉を賜り、ありがとうございます、陛下」


 【不死の中の不死】の心中を悟ったように、サラードは先に口を開いた。


 カラミティは再び眉を顰める。

 仕方がない、とでもいうように足を組み直した。


「まどろっこしい挨拶は良い。話をしやすいように話すがいい、サラード」


「あら、そう……。じゃあ、そうさせてもらおっかな。サラちゃん(ヽヽヽヽヽ)、堅苦しいのが苦手なのよね」


 サラードの言葉が砕ける。

 拝跪の姿勢から立ち上がり、綺麗な曲線を描いたくびれに手を置いた。

 次いでわざとらしく、ポンポンと肩を叩く。


「して。何用だ」


「決まってるじゃない。理由を聞きに来たのよ」


「理由?」


「何故、レクセニル王国から撤退したのかしら?」


「ああ。そのことか……」


「約束したはずよ、【不死の中の不死】。レクセニル王国を潰してくれれば、あなたが欲しているものをあげるって――。忘れちゃったの?」


「心配するな、忘れてはおらん」


「じゃあ、どうして……?」


「猶予を与えた。祈りと別れを告げる時間ぐらいは必要であろう。あんな国、いつでも潰すことが出来る」


「まあ、陛下。なんてお優しい!」


 称賛する。

 だが、爪の先ほどの感情もこもっていない。

 ほぼ棒読みに近かった。


 カラミティは片眉を動かす。

 深く座り直した。


「我は慈悲深いからな」


「しかし、陛下……。約束は約束です。守っていただかないと」


「時間の取り決めはなかったはず。我が思うた時が、レクセニルの最後だ」


 カラミティは目を細める。

 濃い殺気が部屋に充満した。


「それとも、そなた……。我に指図するのか?」


 君主の殺気に呼応するかのように、周りのスケルトンが動く。

 ダークエルフを取り囲むように、1歩踏み込んだ。


 さすがのサラードも焦りを覚えたらしい。

 再び拝跪すると、首を振った。


「や、やだなあ、陛下。そ、そんなことはありませんわ」


「それに、そなたもまだ我の前に、証拠を見せていない」


「証拠……。ああ――」



 聖槍(ヽヽ)のことでございますね……。



 サラードは蛇のように目を細める。

 口元は薄く微笑んでいた。


「ご心配なく。いずれお目にかけることができるかと……」


「そうであって欲しいものだ」


「では、聖槍を確認した暁には……」


「忘れたか、サラード。我は我のしたい時に、戦争をし、破壊する。それだけだ」


「ご随意に……」


 サラードは桃色の髪を垂らし、深々と頭を下げる。

 そのままの姿勢で、逆接する言葉を吐いた。


「しかし、老婆心ながら早くした方がよろしいかと」


「ほう。何か気に掛けるようなことがあるのか?」


「はい。閣下が討ち取ったツェヘスという輩。レクセニル王国では……。そう――サラちゃんの見立てでは、3位くらいの実力者かと」


「アレよりも2人の強者がいるのか?」


 ずっと興味なさげに聞いていたカラミティは、身を乗り出した。


「そうよ、王様。その2人は今、ちょうど国外にお出かけ中なの」


「名前は?」


「1人はストラバールで最強の戦力といわれる【大勇者(レジェンド)】レミニア・ミッドレス」


「ほう……。【大勇者】を名乗るのか。それは楽しみだな」


 カラミティの目が光る。

 すると、玉座を蹴っ飛ばす勢いで立ち上がった。


「出るぞ、骸骨将軍」


「ははっ! 姫様!」


 謁見の間は慌ただしくなる。

 早速、戦の準備を始めるために、スケルトンは出ていった。


 カラミティもまた部屋を出ていこうとする。

 その行動力に半ば呆れ、半ば計画通りという表情をしたサラードだったが、不意にカラミティから声がかかった。


「サラードよ」


「は、はいぃ?」


「もう1人は?」


「そのレミニア・ミッドレスの父親……」



 ヴォルフ・ミッドレスですよ、陛下。



 ヴォルフ……。


 カラミティは極上のワインでも飲み干した後のように恍惚とした。

 やがて笑みを浮かべる。


 楽しみだ……。


 こうして【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】は、再び戦場へと向かった。


次回はいよいよ彼女が再登場です。

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