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プロローグⅤ(後夜)

「伝説の帰還」プロローグ後編です。

 挙兵したカラミティ・エンドは、そのまま北西へと向かった。

 真っ直ぐレクセニル王国王都を目指し、進軍する。

 途中、駐屯軍の抵抗にあったものの不死軍の勢いは止まらない。

 そのまま戦車の車輪のように蹴散らし、王都へと向かった。


 途端抵抗が止む。


 御簾のついた御輿の中で、カラミティは薄く笑みを浮かべた。


「抵抗がなくなったな」


「おそらく中途半端な戦力では太刀打ちできないと考えたのでしょう」


 御簾の外に控えたゼッペリンが意見する。


「彼の国は先日の魔獣戦線にて、多くの将兵を失いました。さらに、内紛も起きております。兵力は明らかに落ちてるかと……」


「ほう……。魔獣戦線に内紛か。弱り目に祟り目というわけだ」


「そこに我らが蜂のように刺すのです」


「泣きっ面に蜂というわけか。面白い。我を虚仮にした報いだ」


 しかし……。


 カラミティは考える。


「魔獣戦線か……。よもや、またその名を聞くとはな。我が寝ている間、いくつあったのだ?」


「私が確認しているだけで、3つかと」


「ほう。3つか。ならば、4つになるな」


「?」


「わからんか、ゼッペリン」


「恐れながら……」


「この大気の乱れ、雲の動き、何よりも精霊共が怯えておる。これ程の異変。魔獣戦線以外にないだろう」


「なるほど」


「東か。確か|ワヒトとかいう小さな国があったな。まだ健在か?」


「は……。ですが、ワヒト王国も同様に、先日の魔獣戦線で多くの兵を失いました。

向こうの言い方だと、刀士ですが」


「可哀想に……。一飲みにされるぞ、小国なぞ。かつてない魔力の胎動を感じる。200年前、いやそれ以上かもしれぬ」


「多くの死者が出るでしょうな」


 ゼッペリンの言い方はどこか他人事だ。

 しかし、カラミティは気に入ったらしい。

 クスクスと子供のように笑った。


「いっそ我が眷属に迎えてやるか」


「陛下がそうお望みならば……」


「冗談だ。彼の国は島国であろう? 我は潮がすかん。肌が荒れてしまうでの」


「しかし、彼の国には温泉というものがあるそうです」


「天然の湯か。それは興味あるのぉ。なれば、レクセニル王国の次に、彼の国を切り取るか。ああ……。彼の国というから、名前を忘れてしまったわ。ゼッペリン。なんだったか?」


「ワヒトです、陛下」


「うむ。レクセニル王国の次はアギド(ヽヽヽ)じゃ」


 御簾の中で、お気に入りの鉄扇を振るう。


 その声に、呼応するように周りの不死者たちは、声を上げた。



 ◆◇◆◇◆



 不死の軍勢の侵攻は夜間行われる。

 眷属の弱点は、熱もしくは光だ。

 日中でも動くことは出来るが、目に見えて進軍が遅くなる。


 だが、何より嫌がったのはカラミティだった。


 彼女ほどの夜の眷属となれば、熱も光もいうに及ばない。

 ただ――。


「陽の光は、女の肌の大敵じゃ」


 といって、美貌を保ちえないことから、却下していた。


 昼に活動する人間からすれば困った話だ。

 すでにドラ・アグマ王国の進軍は、レクセニル王国全土に知れ渡っている。

 国民たちにとって、不眠不休の生活が続いた。


 しかし、カラミティは進路周辺の村や町を襲うことはない。

 ただ王都に向かって真っ直ぐ進んだ。


 そしていよいよ両軍はぶつかる。


 王都南東。

 なだらかな丘が続く丘陵地帯。

 青々と草原が広がっている。

 そして、時間はちょうど正午。

 すでに暗雲は晴れ、青い空が広がっている。


 そこで一騎打ちが行われていた。


 ギィン!!


 鋭い金属音が響く。

 すると、多首多腕のスケルトンは吹き飛ばされた。

 宙に浮かされるほどの膂力をまともに受ける。

 それでも、空中で体勢を整え、器用に着地する。

 落ちくぼんだ眼窩の向こう――赤い光を光らせた。


「己! まさか昼間を狙ってくるとは! なんと卑怯!」


「卑怯? それをいうなら、貴様らの方だろう」


 骸骨将軍の舌打ちが響く。


 その前に立ちはだかったのは、胸の厚い偉丈夫だった。

 鍛錬で焼けた浅黒い肌。

 荒々しい棘のような赤い髪。

 身体と同じく、大きくギョロリとした黒目。

 その周りには、隈取りのような化粧が施されている。


 手には砲筒のように太く長い薙刀を握り、分厚い鎧に覆われていた。


 グラーフ・ツェヘス。

 レクセニル王国が誇る猛将である。


 その将軍が騎士と兵の先頭に立つと、不死の軍勢を睨む。

 やがて吠えた。


「宣戦布告もなしに、我が王の国を侵犯した。戦争の作法も知らない化け物どもめが! 我が得物の錆にしてやるわ」


「調子に乗るな、人間! 昼間でなければ、お主など――」


「どうした、化け物。お前は『一騎打ち』などと騒ぎ立てるから、出てきてやったのだ。よもや、陽の光があるから、一騎打ちを辞めるなどといわんよな」


 ツェヘスは薙刀をスケルトンの大将に向けて構える。

 突き付けられた切っ先を見ながら、骸骨将軍は奥歯を噛んだ。


「威勢のいい男だな」


 ハッと骸骨将軍は振り返った。

 血相を変える。

 どこか焦りに近い。

 発汗することはなかったが、腰を低くし、現れた少女に道を譲った。

 その後ろには、狼のような目をした男が控えている。

 日傘を持ち、少女を陽の光から守っていた。 


「へ、陛下……。面目次第もございません」


「良い。陽の下であれば、如何にお前が強くとも、力は半減しよう」


「申し訳ございませぬ」


「それにこの男……。存外、強者かもしれぬぞ」


 カラミティは不敵に笑う。

 小さく舌を出し、白い唇を舐めた。


 現れた絶世の美女。

 しかし、鼻の下を伸ばす者も、その超然とした姿に鼻白むものもいない。

 ことツェヘスに至っては、表情を動かすこともなかった。


「ドラ・アグマ王国カラミティ・エンド陛下とお見受けする」


「ほう……。侵略者と罵っても、我の前では礼節を弁えるか。小僧、そなたの名前を聞かせてもらおう」


「レクセニル王国軍総大将グラーフ・ツェヘスと申します。伝説の存在たるあなたのお顔を拝することができ、恐悦至極です」


 ツェヘスが腰を折る。

 だが、下手に出ていたのはそこまでだ。

 分厚い鉄板のような胸を張り、レクセニル軍総大将は喝破した。


「あなた方は、我が国の領内を侵犯しております。疾く領地へとお帰り下さい。賠償については、後に派遣される大使を……」


「くははははははは!」


 突然、カラミティは笑い出す。

 腰を折り、白い髪を乱して狂笑を浮かべた。

 目に涙を浮かべ、何度も拭っている。


「領地へお帰り下さいか。まさか、そんなことをいわれるとはな。ツェヘスよ。そなた、何か勘違いしておるのか。それとも勘違いしている振り(ヽヽ)をしておるのか」


 そして【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】は囁いた。



 我は戦争をしにきたのじゃ。



 手を広げ、宣誓する。

 それこそがカラミティ・エンドの初めての宣戦布告であった。


 骨のように白い髪を乱し、瞳孔の小さくなった瞳を剥き出す。

 大きな牙を剥きだし笑う姿は、先頭で見ていた将兵たちの心に、悪魔のような恐怖をもたらした。


「宮仕えも大変よなあ、グラーフ。いっそ我に寝返ってみるか?」


 ぶちっ……。


 何かが切れたような音がした。

 鉄で出来た人形のように動かなかったツェヘスは、軋みを上げながら作動する。

 ゆっくりと構えを取った。


「見損なわないでいただこう、【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】。我が忠義を向ける相手は、ただ1人。我の背後に座るお人だけよ」


「惜しいのう。我の見立てでは、そなたにはもったいない愚王と思うのだが……。そうではないのか。良い……! では、存分に遊ばせてもらうこととしよう」


 カラミティはゼッペリンの手を軽く弾く。

 もう日傘は良い、という合図だ。

 それを見て、ゼッペリンは静かに日傘を下ろし、畳んだ。


 カラミティは仁王立ちになる。

 ちょいちょいと指を動かし、挑発した。

 すると、また笑う。


「くはははは……。忠義などといいながら。お主、意外とこの状況を楽しんでおるだろう。武人だな。そんなに我と戦えるのが嬉しいか」


「そう見えるか」


「見える見える。どれ……。頭を撫でてやろうか」


 すると、カラミティの姿はツェヘスの後ろにあった。

 そっと手を伸ばす。

 そのツンツンとした髪を無造作に撫でようとした。


 ――――ッ!


 一体何が起こったかわからなかった。

 ツェヘスとカラミティの間には十分な距離があった。

 つまり、彼女は音もなく侵略し、瞬きの間にツェヘスの後ろを取った。


 速い……。

 消えた……。


 もうそんな次元ではない。


 見ていた次の瞬間には、カラミティが後ろにいたのだ。


「はああああああああ!!」


 一瞬硬直していたツェヘスは、薙刀を払う。

 渾身の力を込めた。

 最速の刃が不死の王を襲う。


 だが――。


 ガキィン!!


 硬質な音が戦場に響き渡った。

 ヒュッと風を切り、何かが地面に突き刺さる。

 ツェヘスが持っていた薙刀の刃だ。


 見れば、ぽっきりと先端が折れていた。


 おお!!


 ざわついたのは、カラミティとの一騎打ちを見守っていた騎士たちだった。


 ツェヘスは一瞬眉根を寄せる。

 その瞳に映った少女から、笑顔が消えることはない。


 防御することも、構えることもなかった。

 ただ泰然と立っている。


「グラーフよ」


 ツェヘスはハッとする。

 カラミティから急速に殺意が滲み出る。

 否――。

 それは殺意などではない。

 もはや呪い。

 触れるだけで、心が壊れそうになるほど、圧倒的な呪いだった。


「そなた……。弱いな……」


 カッと手の平を開く。

 すると、赤い爪が伸びた。

 そのまま最速で振り下ろす。


 グラーフ・ツェヘスを袈裟に斬った。

 鎧を飴のように斬り裂き、肉を断つ。

 やがて巨体は、鮮血をまき散らしながら倒れるのだった。


 レクセニル王国の猛将グラーフ・ツェヘス、落つ。


 その悪夢のような第一報は、たちまち国中を駆けめぐった。


次回「不死の王篇」が開幕です。


初手謝罪です。

すいません。2月ちょうど色々なお仕事が重なった上、

地獄の確定申告まであって、こちらの更新が出来そうにありません。

なので、次回の更新は3月9日を予定しおります。

2週間以上お休みすることになりますが。ご理解のほどよろしくお願いします。


また最新作である『劣等職の最強賢者』が、この度書籍化することになりました。

現在、こちらは隔日投稿しておりますので、応援いただければ幸いです。


「じゃあ、『アラフォー冒険者、伝説になる』の続巻はどうなっているんだ?」

というお話ですが、作者としては諦めてません。

確率としては極々低いですが、水面下ではもがいている最中です。


実は、最新作の諸々と連動しているとかいないとか……。


そういう意味も含めて、諸々応援いただけると嬉しいです!

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