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第133話 牙と刀の交わり

 結局、ヴォルフ1人だけ入ることになった。

 レミニア、ヒナミ、ハシリーは三竦みとなり、互いを監視している。

 当然、抜け駆けしないようにだ。


 湯船に足を入れる。

 熱い。

 だが、気持ちいい。

 ゆっくりと肩まで浸かる。

 全身の筋肉がほぐれ、血液が隅々まで行き渡るのがわかった。


 縁に手を掛け、ヴォルフは空を仰ぐ。

 温泉は露天風呂だ。

 真っ青な空が広がっている。

 つい先日まで戦をしていたとは思えないほど、穏やかな風が谷間に吹いた。


 湯船には誰1人いない。

 がらんとしていた。


 こうやって1人になるのも久しぶりかもしれない。


 まるでレミニアと出会う前に戻ったようだ。

 冒険者時代、仲間はいたが、ヴォルフは1人で行動することが多かった。

 ほとんどの同期は引退し、若い冒険者は有力なパーティーに引き抜かれていった。

 いつの間にか、1人になっていたのだ。


 だが、ヴォルフは謎の女と会い、そしてレミニアを託された。


 たぶん、子供を育てようと思ったのも、寂しさ故だったのだろう。


 ちゃぷ……。


 突然、水を弾く音がした。

 宿から露天風呂に繋がる階段から、足音が聞こえてくる。

 誰か入浴しにきたのだろうか。

 だが、今日は貸切だと聞いている。

 ヴォルフ一行以外には、客はいないはずだ。


 もしや我慢できず、レミニアが2人を振りきってやってきたのだろうか。

 それにしては、どこか奥ゆかしい。

 いつも元気一杯の娘とは、正対していた。


 やがて、女の肢体が深い湯煙の中で露わになる。

 その中で、見覚えのある綺麗な赤い光が見えた。


「まさか……」


「今の声……。もしやヴォルフ殿でござるか?」


 聞き覚えのあるワヒト特有の方言。

 ヴォルフは思わず背筋を伸ばす。


「エミリ……!」


 現れたのは、銀髪を頭の上にまとめたエミリだった。


 ヴォルフの湯船の方に近付いてくる。

 距離が縮まるたびに、乳白色の肌が露わになった。

 エミリは何も付けていなかった。


 一糸纏わぬ姿だ。


「ご一緒していいでござるか?」


「あ、ああ……」


 戸惑うヴォルフとは裏腹に、エミリは堂々としていた。

 掛け湯をし、なるべく波を立たせず慎重に湯船に足を付ける。

 身体をならした後、ゆっくりと肩まで浸かった。


「ふぅ……」


 ただ風呂に浸かったというだけだ。

 なのに、エミリからは、むぅんと色香が漂っていた。


 無性に心臓がドキドキしてくる。

 女性と一緒に風呂に入るのは、ヴォルフにとってはそう珍しいことではない。

 レミニアとも、つい数ヶ月前まで入っていた。


 でも、娘と入るのと、他人と一緒に入るのとでは違う。


 いくら経験豊富なアラフォー男も、さすがに戸惑っていた。


「いい湯でござるな、ヴォルフ殿」


「あ、ああ……。それより、どうしてここに?」


 確かエミリは、ヴォルフの新たな刀を鎚っている真っ最中のはずだ。


 その彼女が、何故作業を止めてここにいるのかわからなかった。


「姫が息抜きに、と招待してくれたでござるよ。ちょうど行き詰まっていたところだったので、ちょうど良かったでござる。ヴォルフ殿には申し訳ないでござるが」


「いや、それはいい。休息は必要だ」


「そういってもらえると、嬉しいでござる。ところで、ヴォルフ殿――



 何故、拙者の方を見ないでござるか?」



 そう。

 ヴォルフはエミリが風呂に浸かった時点で、ずっと顔を背け続けていた。

 本来であれば、すぐに風呂から出るべきなのだ。

 が、エミリの身体があまりに美しすぎた。

 下半身が怒張しっぱなしで、立てなくなっていたのである。


「そ、それはだな……」


「こっちを向いてもらえぬでござるか?」


「いや、しかし……」


 すると、エミリはヴォルフに寄り添う。

 背中を向ける【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】の耳元に、顔を近づけた。

 そっと耳に息を吹きかける。


「ヴォルフ殿に見てほしいでござるよ」



 うぉぉぉおおおおおおおおお!!



 ヴォルフは竜を斬った時のように心の中で吠えてしまった。


 いくら唐変木のヴォルフでも、エミリが何をいわんとしているかわかる。

 誘っているのだ、彼女は。

 勇気を出して……。

 声と身体を震わせながらも、ヴォルフを自分に振り向かせようとしていた。


 ヴォルフは湯で濡れた髪をくしゃくしゃにかき乱した。

 ついに振り返ろうと、意を決す。

 正直にいうと、怖い。

 どんな魔獣と相対するよりも、己が怖い。

 振り返った瞬間、理性を保っていられるか。

 自信がなかった。


 湯が波立つ。


 ゆっくりとヴォルフは振り返った。


 エミリが目の前にいた。

 真っ白な雪のような肌を露出させている。

 たとえ、湯船に浸かっていたとしても、その肢体の美しさは変わらない。

 刀を振っていても、柔らかく女性的な肌。

 腰は細く、綺麗なラインを描き、湯船の中で畳んだ太股は、もっちりとしていた。

 大きな胸には何度も波が打ち寄せ、谷間に湯が吸い込まれている。


 ピンク色の乳首が見える。

 キュッと立っていた。


 ヴォルフはハッと顔を上げる。

 エミリと視線が合った。

 瞳がしっとり濡れている。

 物欲しそうに、唇がかすかに震えていた。


 そこにいたのは、勢いのままヴォルフに告白した未熟な少女ではない。


 真に色香を纏った本物の女性だった。


 ヴォルフは何も考えられなかった。

 頭が真っ白になる。

 気が付けば、そっとエミリの頬を撫で、手を首の裏に伸ばしていた。


 エミリは目をつぶる。

 一条の涙が頬を伝った。


 彼女は告白する。


「ヴォルフ殿……。拙者は嬉しかったでござるよ。ヴォルフ殿が生きててくれて」


「俺も、エミリと会えてうれしかったよ」


 それは誓いの言葉のようだった。


 唇が触れる。

 互いのことを確かめるように、貪るのだった。


というわけで、元の鞘に収まった(?)、という感じでした。


作者としては、実は意外な展開なのですが、

書いてるうちにエミリが魅力的に思えてきて、

最後は彼女に押し切られた、という感じです(^_^;)

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