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第132話 温泉ですよ!

「レミニア、温泉ですよ、温泉!」


 タン――。


 戸を開いたのは、ハシリーだった。

 慌ただしく部屋に入ってくる。

 畳の上でワヒト伝来のユカタを着て、団欒を楽しんでいたミッドレス親子は、くるりと顔を向けた。


 何故かヴォルフは寝っ転がり、娘の脇を抱えて持ち上げている。

 レミニアは地面と水平になるようにピンと足を伸ばし、手を広げていた。


 いわゆるお父さんが子供によくやる「ひこーき(ヽヽヽヽ)」というポーズである。


 ハシリーは固まる。


 子供がやるならまだいい。

 だが、レミニアは15歳だ。

 しかも世界最高の戦力の【大勇者(レジェンド)】でもある。

 そんな人物が、幼子がやると大喜びするようなことに、満面の笑みを浮かべていた。


「何よ、ハシリー。邪魔しないでくれる。今、パパと遊んでるんだから」


「いやいや……。何を子供みたいなことをしてるんですか?」


「だって、パパの子供なんだもん」


 ぷくっと顔を膨らます。

 いまだポーズをやめようとしない。

 人前でどれだけ恥ずかしい格好でいるのか、レミニアは理解していないらしい。

 ヴォルフもどこかきょとんとしていた。


 そういえば、レミニアは王都出発前日までヴォルフと一緒に水浴びをしていたと聞いたことがある。


 田舎の方では当たり前なのだろうか。

 今に始まったことではないが、この親子の将来が心配だ。


「あ――。そんなことよりも、温泉ですよ、温泉」


「それはわかったわよ。なんでそんなにテンション高いの?」


「知らないんですか? ワヒトの温泉は有名なんです。泉質もよくて、万病にも効くといわれています」


「へー」


 レクセニル王国からすれば、ワヒト王国は避暑地として見られることが多い。

 雪国ゆえ、夏は涼しく、冬の雪は風情があり、レクセニルの王国貴族たちが別荘を構えるほどだ。

 観光資源も多く、川や海、雄大な山々が狭い中に詰まっていて、温泉はその中でも一番人気のスポットだった。


 今回の魔獣戦線によって、田畑は壊滅的被害を受けたが、奇跡的に観光資源だけは無傷で残っていたらしい。


「でも、いいのか? ワヒトが大変な時に、俺たちだけ遊んでいて」


「かまわん!」


 威勢のいい声が和室に響き渡る。

 部屋の入口に立っていたのは、ヒナミ姫だった。

 いつも通り、乱暴に着物を着崩し、腰には刀を下げている。

 すでにここに来るまで一戦交えてきたのだろう。

 少し汗を掻いていた。


「そなたらは国を救ってくれた功労者だ。これは妾からのささやかな褒美だと思って受け取って欲しい」


「ね? ね? ヒナミ姫のお墨付きなんですから、是非行きましょう」


「だから、ハシリーはなんでそんなにテンション高いのよ」


「まあ、次の船が来るまで時間があるからなあ。温泉でゆっくりするのもいいか」


「よし。決まったな。なら、善は急げじゃ!」


 ヒナミ姫も支度を始める。


「ヒナミも行くのか?」


「いいの、お姫様? 国が大変な時でしょ?」


「妾がいなくても、国は回る。それに妾はきちんと仕事をしておるぞ」


「ヒナミの仕事?」


 ヴォルフが首を傾げる。

 ヒナミ姫は、にやりと歯をむき出した。


「むろん。お主らの饗応役よ」


 こうしてヴォルフ一行は、ワヒトにある温泉に向かった。



 ◆◇◆◇◆



「うぉぉぉおおお!!」


 ヴォルフは思わず唸る。


 濃い霧のような湯煙が上がっていた。

 かすかに硫黄の匂いがする。

 沢が近く、大量の水が流れていく音が、耳に心地よい。


 そこは渓谷に作られた温泉地だった。

 川を挟んで、大小様々な湯船が緩やかな傾斜に広がっている。

 ワヒトで見た棚田を想起させた。


 谷から見下ろす姿は、すでに絶景で、ヴォルフ以下レミニア、ハシリーも驚嘆していた。


「何をしておる、お主ら。宿はこっちだぞ」


 ヒナミ姫が手招く。


 一行は温泉地へと向かう階段を下りていった。



 ◆◇◆◇◆



 宿につくと、早速荷物を下ろし、温泉に入ることになった。


 終始ハシリーのテンションは高い。

 ふんふんと鼻歌を唄っていた。

 どうやら温泉が好きらしい。

 ちょっと意外だ。


 しかし、問題が起きた。


「え? 混浴なんですか?」


 ハシリーは愕然とする。


 ヒナミ姫は首を傾げた。

 何が悪いのか、といわんばかりだ。


 そもそもワヒトとレクセニル王国では文化が違う。

 レクセニルでは、男と女の役割が決まっている一方、ワヒトでは明確な間仕切りはない。

 ヒナミ姫が国主と認められているのだ。

 女が刀を取ることもあるし、男が包丁を持つこともある。


 混浴という文化は、その最たるものだろう。


「じゃあ、俺は後で入るから。レミニアはハシリーと一緒に入っておいで」


「だーめ! パパも入るの!」


 バタバタとレミニアは地団駄を踏む。

 太いヴォルフの腕に絡まり、大きな胸を押しつけてきた。

 徹底抗戦の構えだ。

 こうなると頑として、【大勇者(レジェンド)】はいうことを聞かない。


「じゃあ、俺はレミニアと一緒に入るから」


「ダメですよ! いくらワヒトで許されているからって、15歳の子供と父親が入るなんてダメです!」


 今度は、ハシリーが目くじらを立てる。


 ヒナミ姫はうんと頷いた。

 ハシリーの意見に同調したように見えたが……。


「そうじゃ。妾もヴォルフと入りたい!」


「ヒナミ姫まで何を言っているんですか!?」


 ハシリーは顔を青ざめさせる。

 困っている秘書官を尻目に、レミニアは舌を出した。


「だーめ! パパはレミニアとだけ入りたいのよね」


「別にいいではないか。ここは妾の国じゃ。郷に入らば郷に従えというじゃろう。妾のいうことには従ってもらうからな」


「いやよ」


 ごおおおおおおおおおお!!


 レミニア、ヒナミ姫、ついでにハシリーの間に、女の執念が燃えさかる。


 その間で、ヴォルフだけが火にまかれ、右往左往していた。


「ミケ、なんとかしてくれ……」


『あっちは知らないにゃ』


「薄情者……。お前、俺の相棒だろ?』


『その相棒をトラブルに巻き込んでいるのは、どこの誰にゃ。あっちは散歩してくるにゃ。温泉は人間だけが入っていればいいにゃ』


 熱いのと、水が嫌いなミケにとって、温泉は怨敵のようなものだ。

 すぐさま尻尾を返し、どこかへいってしまう。

 頼みの相棒にも裏切られたヴォルフは、がっくりと肩を落とし、女性陣の口論を眺めていることしか出来なかった。


温泉回やって思うやん。

でも、次回に続くんや。

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