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第125話 英雄集結!

そして、仲間が集い、主人公とともに蹂躙していくシーンが狂おしいほど好き!

 ルーハス・セヴァット。

 嘗て【勇者】と呼ばれ、彼自らが率いた五英傑の中でも突出した才能を持つハーフブリード。しかし、レクセニル内乱にて数多くの冒険者を扇動した国家反逆罪で終身刑が言い渡される。

 魔獣戦線での戦後報告文書の作成のため(表向き)北の地を訪れ、後に脱走。その行方はいまだ不明とされていた。


 【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】ヴォルフとの因縁は、もはや語るまでもなく有名な話だ。


 1人は【勇者】を斬り、英雄になった男。

 もう1人は【勇者】から、反逆者となった男。


 奇しくも、その2人は同じ戦場でまみえ、そして前を向こうとしていた。


「お前、何故……?」


「答えるまでもない。不甲斐ない引退冒険者(ロートル)に命を預けるほど、俺は愚かではない」


 ヴォルフは思わず笑ってしまった。

 【勇者】はいまだ【勇者】であるらしい。

 たとえ看板が外されても、その矜持だけは折れていないようだ。


「ふふ……。引退冒険者(ロートル)というなら、もっと気の利いた言葉はなかったのか。自分でいうのもなんだが、おっさんを労っても(ばち)は当たらんぞ」


「なららしくしていろ、冒険者。……それに俺にもお前と同様、守るものがあるのでな」


 一瞬ルーハスの視線が動く。

 その先にあったのは王都だ。

 ヴォルフははたと気付いた。

 【幽霊船(ゴースト・シップ)】の甲板で出会った少女がいない。

 おそらく王都に避難しているのだろう。


 【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】が気付いたのは、それだけではない。


 ルーハスの瞳だ。

 目つきこそ変わらないものの、綺麗な色をしていた。

 初めて会った時とは雲泥の差だ。

 何か憑き物でも落ちたかのように、澄み切っている。


 あの娘がそうさせたのだろうか……。


 ならば、彼にとってあの少女は相当大事な人なのだろう。


 ヴォルフは老婆心であったが、ホッとした。

 自分の剣では若い【勇者】を変えることは出来なかった。

 だが、今いる彼は明らかに大きく――本物の英雄へと羽化しようとしていた。


 ヴォルフは道具袋に手を伸ばす。

 娘が作ったソーマもどきを喉に流し込んだ。

 苦いッ!

 が、良い気つけ(ヽヽヽ)になった。


 残りは1本。

 あとは、光の柱で奮闘している娘の分だ。


 ゆっくりとヴォルフは腰を上げる。

 ルーハスはその姿を目の端で捉えた。


「休んでいてもいいのだぞ」


「それはこっちの台詞だ……。牢獄暮らしが長くて鈍っているんじゃないのか、お前も。ここは地獄だぞ」


「地獄なら何度も見ている。お前よりもな」


 ルーハスは1度魔獣戦線を経験している。

 斬っても斬っても襲いかかってくる魔獣の群れ。

 しかし、それよりも彼にとって、最愛の人間がいないことの方が、地獄だった。


 その彼女をワヒト王国の王都で待たせている。

 もう2度と失わない!

 強い覚悟を持って、ルーハスは戦場に臨んでいた。


 その獣人の耳がピクピクと動く。

 尻尾をひらりと動かした。


「どうやら地獄というところは、存外に人気があるようだぞ」


 その時、疾風(はやて)のように影がヴォルフの前を通り過ぎていった。


 刀を抜く鯉口の音がする。

 すると、魔獣たちのど真ん中で白刃が閃いた。


 【五連――疾咲(はやざき)】!


 一瞬だった。

 なりそこないを纏ったレッサーデーモンが、5匹斬り裂かれる。

 どす黒い血を吹き出しながら、絶命の声も挙げず、地に沈んでいった。


『すげぇにゃあ……』


 唸ったのは【雷王(エレギル)】だ。

 その影のおかげで、群を突破することが出来たらしい。

 トン――と見た目よりも軽い音を立て、主人の側に控える。


 再び静かに納刀する音が聞こえた。

 袖振りと一緒に、1本にまとめられた綺麗な銀髪が、戦火の散る戦場でなびいていた。

 振り返る。白ウサギのような赤い眼とかち合った。


「エミリ……」


 かかった髪を耳の後ろへと掻き上げる。

 エミリはヴォルフの無事な姿を確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。

 やがて微笑む。


「何故ここに?」


「愚問でござるよ、ヴォルフ殿。貴殿を助太刀に参った。それ以外の理由などいらぬでござろう」


 エミリは目を細める。


 思わずドキッとしてしまった。

 最初出会った時、ヴォルフにとってまだエミリは少女だった。

 だが、今見せた笑みは違う。

 どこか大人っぽい。

 着物を着ているからだろうかとも思ったが、それだけではないだろう。


 別れてから、まだ一季しか変わっていない。

 なのに、彼女は精神的にも肉体的にも大人の色香を漂わせていた。


 泰然とした姿に、揺るぎない意志を感じる。

 さしもの【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】も、最初から白旗を上げるしかなかった。


「説得しても無駄のようだな」


「今度は、どこまでもお供するでござるよ、ヴォルフ殿」


 もはや何も語るまい。

 それに少しだけヴォルフは嬉しかった。

 自分と共に戦ってくれる仲間がいることが。


 それだけで力が沸いてくる。


 ヴォルフはサッと刀を振った。

 まだ身体は動く。

 気力ももらった。



「さあ……。あとは斬り伏せる。ただそれだけだ!!」



 先陣を切ったのは、ヴォルフだった。

 今まで2000匹のレッサーデーモンを斬ったとは思えないほど、颯爽と魔獣の群へと躍り出る。

 その勢いを殺さぬまま抜刀術へと繋げた。


 【居合い】!!


 1匹のレッサーデーモンをあっさりと斬り裂く。

 しかし、ヴォルフが斬ったのは魔獣だけではない。


 空――。


 つまりは空気だ。

 【剣狼】の強烈な一振りは、真空を生み出す。

 見えない刃は、レッサーデーモンの背後にいた魔獣諸共斬り裂いた。

 ドス黒い鮮血が噴水のように吹き出す。


 それでも魔獣たちの進軍は止まらない。

 あっという間にヴォルフを囲む。

 レッサーデーモンは口を開けた。

 彼らの武器は斬撃や、その巨体だけではない。

 竜種と同じく火袋を持っている。


 炎を吐くことが出来るのだ。


 カッと口が閃いた。

 が、その前に素っ首が落とされる。

 魔獣たちの頭上に現れたのは、銀髪の天女。


 彼らにしてみれば死神だった。


 【車輪――懺華(ざんげ)】!


 エミリは空中でまさしく車輪の如く回転した。

 魔獣の首をまるで整地でもするように轢殺していく

 ヴォルフの前に、凄まじい音を立てて、レッサーデーモンの死体が転がった。


 やがて天女は降りてくる。

 ヴォルフの前に立った。


「やるな、エミリ」


「いつかこうなるだろうことを考え、鍛錬だけはしっかりしてきたつもりでござるよ」


「頼もしいぞ、エミリ」


「――――ッ! な、何かそう……。はっきり褒められると照れくさいでござる」


 エミリはモジモジと身体を動かす。

 頬を赤くした。


 その背中に大きな影が現れる。


「エミリ――ッ!!」


 ヴォルフは動く。

 最速――そして最短の動きを実現した。


 【無業】!!


 一体のレッサーデーモンを斬り裂く。

 エミリは「ハッ」と大きく目を開けた。

 それでも見えなかった。

 ヴォルフの剣閃が。


 これが今のヴォルフ・ミッドレスのレベル……。


 一瞬でも、側に立てたと思えた自分を恥じた。


「ヴォルフ殿、今の術理はどこで?」


「ワヒトに来る前に教えてもらったんだ」


 ヴォルフは刃の腹を見つめる。

 懐かしそうに目を細める姿を見て、エミリはぷぅと頬を膨らませた。


「もしかして女人でござるか?」


「え? なんでわかったんだ?」


「やっぱり! そうやってヴォルフ殿は、旅をしながら浮き名を流してきたのでござるな。ちょっと顔がいいからって……。拙者がどれだけ心配を――」


「浮き名って……。いや、そもそも顔は――」


 戦場にいながら、【剣狼】と【剣匠】は口論を始める。

 そんな言い合いをしながらも、2人はレッサーデーモンを次々と倒していった。

 たとえそれが罵倒であろうとも、言葉をかわすことによって、2人の距離は元に戻っていく。

 いつしか連携が取れ、互いに最小限の動きで魔獣を倒し始めた。


 それは客観的に見れば、仲が良いと言うことなのだが、戦場ではいささか緊張感に欠けた。


『何をしてるにゃ、あのバカップルは……』


 ミケは恥ずかしくてだらりと尾を垂らす。

 穴があったら入りたいぐらいだ。


 その横にルーハスが立つ。

 すると、ミケはピンと尾を立て、警戒した。

 ご主人は許しているようだが、いまだ【雷王】はこの【勇者】が気に食わなかった。


 幻獣の心内を知ってか知らずか。

 当の【勇者】は淡々と告げる。


「力を貸せ、【雷王(エレギル)】」


『にゃんだと!! なんであっちが、お前に力を貸さなきゃならないにゃ!』


「元気に振る舞っているが、もう引退冒険者(ロートル)に雷獣の力を付与するのは負担が大き過ぎるだろう。その点、俺は体力があるし、獣人ゆえ負荷に耐えられる。適任だと思うが……」


『ぐっ――』


「主を守りたくないのか?」


 ミケはギュッと目をつぶる。

 大きな顎門をぶるぶると振るわせた。


 確かに今、この男に自分の力を使うのが得策だろう。

 そしてミケは1度、この元勇者に力を与えている。

 初めてとは思えないほど、【雷王(エレギル)】の力に適応していた。

 北の地での活躍も知っている故、余計に勝算を期待してしまう。


 かつヴォルフの限界は近い。

 いつ倒れてもおかしくないだろう。

 今は、周りにいる仲間、そして娘を助けるという使命感だけで動いているような状態だった。


『1つ言っておくにゃ』


「なんだ?」


『あっちはお前が嫌いにゃ』


 異色の瞳をギラリと光らせた。

 凄んだにも関わらず、ルーハスは微笑む。


「奇遇だな。俺もだ。しかし――」


『今はそういってられないにゃ、か……。わかったにゃ。存分に使え、【勇者】様』


「感謝する、【雷王(エレギル)】」


 ルーハスは頭からミケの雷を浴びた。

 青白い雷精を帯びる。

 白い髪が逆立ち、バリバリと鋭い音を立てた。


 借り物の刀を抜く。


 やがて元【勇者】は砲弾のように飛び出した。

 魔獣の群を突っ切る。

 雷のようにジグザグに飛び交った。

 一瞬にして300体以上の魔獣を平らげる。


『やるじゃねぇか、【勇者】様。あっちも負けてられねぇなあ』


 ミケは飛ぶ。

 さらに黒雲を呼び起こし、雷を誘った。

 自身に内蔵された雷精。

 黒雲の中にある膨大な雷源(ヽヽ)

 そのすべてを合体させる。


 陽の光のように輝く巨大な光球を生み出した。


 【王の怒り(パニッシャー)】!!


 レッサーデーモンに向かって放たれる。

 突然、ワヒト王国は白く染まった。

 何も見えない。

 感覚が麻痺したような気さえした。

 だが、聞こえる。

 凄まじい雷撃の音とと、魔獣たちの断末魔の声が……。


 やがて光が止んだ。


 黒こげになった魔獣たちの死体が転がっている。

 その数は500体を超えた。


『はは……。どんなものよ。これが【雷王(エレギル)】ミケ様の力だ』


 幻獣は主人の前で力を見せつけるのだった。


新作『転生賢者の村人~外れ職業「村人」で無双する~』という作品を始めました。

ヴォルフと同じく、強さを求める青年のお話です。

よろしければ、こちらも応援いただけると嬉しいです!

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