表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/371

第106話 おっさん、【剣聖】に出会う

本編開始です!

 【幽霊船(ゴースト・シップ)】は孤月型の湾内に入っていく。


 断崖絶壁がそそり立つ、寂れた港に停泊した。

 いくら【妓王】マイアが義賊とはいえ、海賊であることは間違いない。

 数日一緒に暮らしたが、船員は元札付きの悪ばかり。

 ワヒト王国公認の港町に接舷すれば、たちまち縛り首になってしまう。


 ヴォルフはマイアに別れを告げる。

 同乗していたルーハスの姿はとっくにない。

 同行していた小さな女の子も一緒に消えていた。


 目指すはワヒト王国王都。

 目的地が同じなら、いつか出会うこともあるかもしれない。


 ヴォルフは絶壁を上り、さらに山を越えた。


 見えたのは、大きな城と、城下町だ。


「あれが、ワヒト王国の王都かにゃ?」


 頂上まで登ってきた風に煽られながら、ミケは初めて見る都を臨んだ。

 伝説の【雷獣使い(エレム)】ロカロ・ヴィストといろいろな場所を渡り歩いたが、ワヒト王国は初めてだった。


 当然、ヴォルフもそうだ。

 物珍しい都の姿に、しばし呆然と見入った。


 黒の“瓦”屋根。

 白亜の壁。

 クロエの屋敷にそっくりな建物が、渦を巻くように建っている。


 レクセニル王国や周辺諸国は平地に城を建てる一方、ワヒトは山城だ。

 崖を拓き、台地の上に建てている。

 城壁は低く、何重にも張り巡らされていた。

 城というよりは、まるで要塞のようだ。


 ヴォルフは一気に山を駆け下る。

 陽が落ちる前に、王都に入った。


 想像以上に活気がある街だ。

 レクセニル王国以上に何かごちゃごちゃしている。

 露店やその売り子のかけ声などは、レクセニルと似たような光景も目にするが、他にも大道芸や、道ばたに座って、盤を睨んでいる男たちの姿もある。

 ここらへんでは馬は小さいためか。

 人力車――人が引く乗り物などもあった。


 所変われば品変わるというが、目にするものすべてが珍しかった。


 一方で、想像していたものと大きく違うことがある。


「確かワヒトって、雪に閉ざされている国ってイメージなんだがにゃ」


 ミケが指摘するとおり、ワヒトは刀匠の国であると同時に、雪国であることでも有名だ。

 だが、周りを見渡しても、雪は一片もない。

 あるのは、雪のような銀髪を揺らしたワヒト人だけだった。


「おそらく夏期だからだろう」


 ワヒトは1年の4分の3が雪に覆われていると聞く。

 唯一夏期だけが、雪が溶けるため、その時期だけ畑や米の栽培を行うのだという。

 意識してみると、鍬や鋤を持った農民の姿も少なくはない。

 王都の側には大きな田畑が見えた。

 みな、そこへ向かっているのだろう。


 だが、それ以上に気になったのが、皆が帯刀していることだ。

 ワヒトに辿り着く前、マイアからこの国のことを色々教えてもらったが、彼らにとって、刀は“命”の次に大事なものらしい。


 この王国は常に強いものがトップに立つ。

 老若男女関係ない。誰でも王になることが出来る。

 刀はその挑戦権なのだ。


 しばらく散策した後、今日の宿を決める。

 ワヒトの建築物はたいてい2段構造になっていて、必ず2階が存在する。

 1階はがらんとしており、生活の拠点は2階だ。

 これは雪国ならではのアイディアらしく、冬期になると2階部分まで雪が積もってしまうのだと、宿の娘に聞いた。


 部屋に通される。

 狭いが、良い畳の匂いがした。

 障子度を開けて、雪国のやや冷たい風を受けると、ヴォルフはごろんと寝転がった。


「エミリ嬢ちゃんを捜すんじゃなかったのか?」


「ちょっと休憩だ。レクセニルを出てから、気が休まる暇もなかったからな」


「ちげぇねぇ」


 ミケもまた大きく欠伸をする。

 主の横で丸まった。


 しばらく畳の上でうたた寝していたヴォルフだったが、つと目を覚ます。

 何やら外が騒がしい。

 誰かが争っているようだ。


 ヴォルフは寝た状態のまま音だけで騒ぎを観察する。


 刀の切っ先を向け合う両者の周りを、野次馬が囲んでいた。

 一応、1対1のようだが、周りの剣気にはいささか歪みがある。

 少なくとも、音便に済ませようという意図は感じられなかった。


 1人は男。ヴォルフよりも大柄で、刀身の長さも【カムイ】よりも長い。


 対するは、歩の音からして女だろう。

 しかも、歩幅が異様なまでに短い。

 レミニアよりもだ。

 そういう流派ということも考えられなくもないが、どうもそういうわけではないらしい。


 そもそも男を圧する剣圧は、女とは思えないほど重厚だった。


 ヴォルフは立ち上がる。

 腰に【カムイ】と剣を下げた。


 見てみたいと思った。

 大の男を前にして、1歩も退くどころか、むしろ剣圧で圧倒する“天才”の姿を。


 階下へ下りると、すでに始まっていた。

 剣戟の音が響く。

 真剣同士の戦い。

 なのに、野次馬は盛り上がっていた。

 強いものが国を統べる。

 そんな国であるなら、あまり珍しくない光景なのだろう。


 野次馬を押しのけ、ヴォルフは最前列に並ぶ。


 立っていたのは、予測通り【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】よりも大柄な男。


 さらに、やはり女の子だった。


 濃い銀髪に、鮮やかでいて純粋な緑眼。

 肌の色は、雪を吸い込んだかのように白い。

 伝統的な着物を股下から大胆にカットし、底の高い浅沓を履いていた。


 華奢な二の腕を見せる娘の手には、濡れたような細長い刀が握られている。


 かすかに【カムイ】が反応するのがわかった。

 おそらくかなりの業物なのだろう。


「レミニアと背丈は一緒ぐらいか。しかし……」


 明らかにレミニアよりも幼い。


 しかし、圧倒しているのは女の子の方だ。

 トリッキーで、予測の付かない軌道から刀を振るってくる。

 故に間合いが掴みづらい。


 そもそも大人が子供と戦う時、大人が有利と思うのは早計だ。


 子供には2つの利点がある。

 1つは斬る面積が小さいことだ。

 たったそれだけのことと思われるが、対人戦において重要な要素になる。

 斬る面積が小さいということは、それだけコンパクトに斬ることが要求されるからだ。


 大振りは絶対ダメ。

 かわされ、小さな身体を懐に密着されれば、斬るスペースがなくなる。

 対し子供の方はやりたい放題だ。


 もう1つは視線だ。

 たいてい子供の方が小柄である場合が多い。

 ゆえに視線が下を向いてしまう。

 すると、地面の方に向いてしまうため視野が狭まり、外からの攻撃に対処しづらくなるのだ。


 どうやら女の子にはそれがわかっているらしい。

 トリッキーに見えるものの、常に視界の外へと移動し、懐に入る。

 遊んでいるのか。

 ずっと懐に入って、大の大人を蹴ったり、押したりしながら、からかっていた。


 対策としては、間合いを取ることだ。

 相手との距離を置き、視野を保つこと。

 完全な間合いの外から踏み込み、攻撃することが有効だと思われる。


 だが、わかっていても自尊心が邪魔をする。

 子供相手に退いたとあっては、名折れだ。

 くわえて、このギャラリーではその戦法を取ることは難しいだろう。


 男の自尊心はすでにズタズタだ。

 こんな小さな女の子に手玉に取られている姿を聴衆の前でさらしている。

 息を切らし、満身創痍だが、胸中はもっと傷を負っているだろう。


 それでも男は刀を構えた。


 裂帛の気勢をあげ、渾身の力で少女に踏み込む。

 速い。

 力でいえば、Bクラス相当はあるだろう。


 だが――。


「ふむ。良い戦いであったな」


 女の子は余裕で微笑んだ。


 すると、一瞬にして男の後ろに回り込む。

 膝の裏を思いっきり蹴っ飛ばした。

 バランスを失った男は、バランスを崩す。

 すぐ立ち上がろうとしたが、首筋に刀を突き付けられていた。


 しまいだ……。


 終わってみれば、呆気ない勝負の幕切れだった。

 実力に違いがありすぎる。

 まさに大人(こども)子供(おとな)の差が、確実に存在していた。


「凄いな、あの女の子」


 ヴォルフは思わず呟く。

 横に立っていたワヒトの男がぎょっと目を剥いた。


「あんた、もしかして旅の人? ワヒトは初めてかい?」


「あ、ああ……。今日到着したばかりだ」


「そうか。なら、仕方ねぇなあ。あの方はヒナミ・オーダム様だ」


「有名な女の子なのか?」


 男はくすりと笑う。

 口元を隠していたが、明らかに嘲っていた。


「有名ってどころじゃないなあ。何せあの子は、この国のお姫様だ」


「お姫様!」


「しかも、【剣聖】という称号をお持ちだ。その称号を持てるものは、この国に1人しかいない。いちゃいけないんだ」


「それって、まさか――」


 男は口角を上げた。


「そうだ。あの女の子は――――」


 このワヒト王国で1番強い【剣聖】なんだ。


1つ年を取りました。

代わらず、精進して参りますのでよろしくお願いします。


『アラフォー冒険者、伝説になる~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました』

書籍版発売されております。こちらもどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シリーズ大重版中! 第6巻が3月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本6巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large





今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


好評発売中!Webから大幅に改稿しました。
↓※タイトルをクリックすると、アース・スター ルナの公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




アラフォー冒険者、伝説になる 書籍版も好評発売中!
シリーズ最クライマックス【伝説】vs【勇者】の詳細はこちらをクリック


DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ