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第89話 PrologueⅢ

新章『偽狼、徘徊する街篇』が早くも開始です。

よろしくお願いします。

「やめてください!」


 女の悲鳴が月夜に打ち上がる。

 今宵は満月。血のように赤く光り、一際大きく見えた。

 その下で行われている凶行は、浮浪者と犯罪者がひしめくハイ・ローの街ではお馴染みの光景だった。


 辺りでは珍しく顔が整ったエルフの娘。

 それを大事に家にしまい(ヽヽヽ)、匿っていた母親。

 そして噂をどこからか聞きつけた暴漢たちが、母娘しかいない家に押し入り、乱暴を働こうとしていた。


「やめてください! 娘を連れていかないで!!」


「うるせぇ!」


 暴漢は足に縋り付いてきた母親の顎を蹴り上げる。

 近くにあった甕に吹き飛ぶと、溜まっていた真水が盛大にこぼれた。

 それでも母親は意識をつなぎ止める。

 かすれた視界の中で、必死に娘の名前を呼んだ。


 一方、エルフの娘はもう1人の男に押し倒されていた。

 馬乗りになられ、身動きが取れなくなる。

 逃れようにも、男の方が何倍も力が強かった。


 男は下品な笑みを浮かべる。


「へへ……。まさかこんなゴミ箱みてぇなところに、こんな上玉が隠れ住んでいるとはな」


「ママに何をするんだ!」


 娘の瞳が光る。

 口を開け、呪文を唱えようとした。

 だが、その口を乱暴に抑える。

 娘の衣服を引きちぎると、丸めて口の中に押し込んだ。


「おっと……。呪文使いだったか。低クラスだったみたいだが」


「むむ――!! うっううう――――!!」


「うるせぇ! 傷物になりたくなかったら、大人しくしてろ!」


 娘の顔を反射的に叩いた。

 脳を揺すられた娘は、一瞬意識を失う。


「おいおい。そいつは大事な商品なんだぞ。あまり手荒く扱うなよ」


「そう思うなら、お前手伝えよ。家の中にずっと隠れてた割には、飛んだじゃじゃ馬だぜ」


 男たちはただの暴漢ではない。


 住居に押し入り強盗のようではあるが、歴とした盗賊だ。

灰食の熊殺し(グレム・グリズミィ)】という名前を聞けば、おそらく誰もが震え上がるだろう。

 ストラバールを股に掛ける大盗賊団だ。


 彼らの狙いは、人族、獣族、エルフ――つまりは人だ。

 美しいもの、貴重なもの、珍しいものこそが、【灰食の熊殺し】にとってお宝であり、金銀財宝よりも優先すべきものだった。


 そんな彼らがゴミ箱と称する街に咲いた一輪の花を、逃すわけがなかったのだ。


「ホント……。お前、綺麗だな。いっそ俺の女になるか?」


 男が手を伸ばした時、ひやりと背筋が凍った。

 ハッと顔をあげ、振り返る。

 いつの間にか家の戸板が開いていた。

 そこからひんやりとした夏の夜気が入ってくる。


 そして同時に鼻を突いたのは、むせ返るような血の匂いだった。


「おい! いつの間に入口が――」


 男は娘の上から立ち上がる。

 すると、入口の影に隠れて何かがいた。

 仲間だとすぐ気付いたが、様子がおかしい。

 その腹から、何か鋭利なものが伸びていた。

 切っ先からはどす黒い血がポタポタと垂れ、すでに足元は溜まりが出来ている。


「たすけ――」


 今際の際に言葉を残し、仲間は絶命する。

 ゆっくりと刃は引き抜かれ、そいつ(ヽヽヽ)は刀身を払った。

 戸板に血の線が引かれる。


 男は恐れおののいた。

 1歩、2歩と引き下がり、気付けば家屋の壁を背にしている。


「て、てめぇ、何者だ……」


 影と一体となった長い黒髪。

 柄を握った手は白く、細い指も繊細だ。

 袖口がゆったりとし、一枚の衣をつぎはぎしたような服装はワヒト王国の伝統的な着物によく似ている。

 その衣の色は血に濡れてもわからないぐらい、(あけ)に染まっていた。


 顔はわからない。

 ふざけているのか。

 猫の面を覆っていた。


「【灰食の熊殺し(グレム・グリズミィ)】の熊殺しだな」


「あ、ああ……。てめぇ、う、うちにこんなことをしていいと思ってんのかよ。だ……大幹部様が黙っちゃいねぇぞ」


「そうか」


 猫の仮面を被った謎の人物が動いた。

 一瞬にして、男の距離を詰める。

 そのまま花でも添えるかのように刃を心の臓へと押し込んだ。


 男は喀血する。

 意識を朦朧としながらも、朱の衣を掴んだ。


「てめぇ、なにも――」


 男の瞳が虚ろになっていく。

 刃が引かれると、頭から倒れた。

 そこに生気はない。骸だけだ。


 横でエルフの女が両手を震わせていた。

 歯をガチガチと鳴らし、乱暴した男に復讐する意志すら失っている。

 ただひたすら、家屋に闖入した猫の面の人物に、恐れを抱いていた。


「ありがとうございますありがとうございますありがとうございます」


 娘の母親が甕の水をぶちまけた地面に額を付けて、感謝していた。


 謎の人物は再び刀身についた血を払う。

 片刃で、わずかに反りがある。

 ワヒトに伝わる伝統的な刃であった。


 やがて鞘に収める。

 いや、それは杖だった。

 いわゆる仕込み杖というヤツだ。


 仮面の人物はその杖でそこらを叩きながら、歩き出す。

 まるで入口の場所を探っているかのように見えた。


「あの……。お名前を……教えてくださ!」


 謎の人物がそれ以上何もしないことを理解すると、溜まらず娘は尋ねる。


 仮面がこちらを向く。

 ただ一言こういった。


「ヴォルフ……。ヴォルフ・ミッドレスです」


公式にてイラストレーター様が発表となりました。

『生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい』などでお馴染みのox先生に担当していただきました。

ヴォルフも、レミニアもカッコいいけど、とにかく背景がめちゃくちゃ素晴らしい先生のイラストを

是非に楽しみにしていて下さい。


近々書影の方をアップするつもりです。

よろしくお願いします。


また新作『ゼロスキルの料理番』が始まりました。

おかげさまで、2日目にして日間総合29位をいただきました。

こちらで作品のことを知り、ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。


アラフォー冒険者の書籍ともども新作よろしくお願いします。

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