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第85話 おっさんVS魔女

29,000ptを越えました。

書籍が発売される頃に、30,000ptになってたら嬉しいな(*^_^*)

ブクマ・評価いただいた方、ありがとうございます。

 ヴォルフは視線を周囲に放った。


 最初に確認したのは、アローラの状態だ。

 玉のような肌には軽度の火傷。それ以外に目立った外傷は見当たらない。

 問題は体力面だ。

 脈拍は早く、血圧も上がっている。脳波の状態も悪い。

 心身共に衰弱していた。


 次にベードキアだ。

 薄い微笑みを讃えた魔女。

 心身共に健康。むしろ別れる前より溌剌としている。

 それ以上に、彼女が纏っていた魔力が変わっていた。

 魔力は精神力に直結する。

 今、ヴォルフが確認できる感情は、“狂”そして“悪”……。

 あれほどの禍々しい心情を、ヴォルフにも悟られず隠していた彼女の精神に敬服の念すら抱かずには入られなかった。


 そしてリック……。


 フロアの中に咲いた氷の華。

 それに寄り添うように彼の彫像があった。

 ヴォルフは集中し、深く五感を研ぎ澄ます。


 まだ心音は聞こえる。


 おそらくリックは生きている。

 生と死の境でもがいているのだ。


 状況から判断するに、ベードキアが裏切った。

 それをリックが命を賭して守ったといったところだろう。


「よくやったな、リック。今度は、仲間を守れたな」


 若い騎士に、小さく賛辞を送る。


「薬屋……さん……?」


 呟いたのはアローラだった。


 フードが消滅し、眼帯すらなくなった男の顔をぼんやりと眺めている。

 意識が半濁としているだろう。

 早く洞窟から脱出しないと、リック以上に危険なことになるかもしれない。


「すまない。アローラ……。少し遅れた。大丈夫だ。リックは生きてる。まだ絶望的な状況じゃない」


「リックが……!」


 アローラの微睡んだ瞳が、リックという言葉に反応する。


「そうだ。すぐに処置すれば、彼を救う事が出来る」


「ああ……」


 アローラの目から涙が流れた。


 ベードキアに啖呵を切りながら、それでも不安と恐怖で一杯だった。

 それを薬屋が助けてくれた。

 嬉しかったのは事実だ。

 それでも涙を流すほど、歓喜することはなかった。


 嬉しい。


 彼が救える。


 そう聞けただけで、ボロボロだった彼女の心は蘇った。


 しかし、ベードキアの次の言葉に、つと涙が止まる。


「薬屋さん。あなた、もしかして……ヴォルフ・ミッドレスさんじゃないんですか?」


 腰に差した刀匠国ワヒトの武具。

 Sクラスに匹敵する【炎嵐王(フレイムロード)】をいとも簡単に切り裂いた剣技。

 とうに冒険者を引退している年齢でありながら、異様なまでの剣気を帯びる精悍な顔つき。


 似ている……。


 ラムニラ教の神殿に掲げられていたおふれの男に、特徴が一致していた。


 ヴォルフは一瞬、言い淀んだ。

 しかし、開いた瞳に迷いはなく、やがて誠実に答えた。


「そうだ。俺がヴォルフ・ミッドレスだ」


 アローラは息を飲む。

 対し、ベードキアはゲラゲラと笑った。


「ひぃぃぃはっはっはっ! 出会った時からただ者じゃないと思っていたけど、まさかご本人とはね。王国があんたを処刑したという発表は嘘だったわけだ」


「うそ……」


「嘘じゃありません、アローラ。本当です。俺の名前はヴォルフ・ミッドレス。ラムニラ教大司祭マノルフ・リュンクベリを斬ったのは俺です」


「そんな……」


 信じたくなかった。

 自分に同行していた仲間が嘘をついていた。

 ベードキアだけじゃなく、薬屋もまた自分をたばかっていたのだ。


 それにマノルフには、何度か拝謁したことがある。

 気さくな人物だった。

 くじけそうになった時、優しい言葉をかけてくれたこともあった。

 その大恩ある人間を斬った人物がいる。

 今、目の前に、だ。


「アローラさん……。今は色々と信じられないかもしれない」


「…………」


「けれど、これだけは信じてほしい。俺はあなたとリックを助けにきたのだ、と」


 いつの間にか俯いた顔を、アローラは上げなかった。

 取り戻したはずの気力がなくなっていく。

 途端、自分の状態が悪いことに気付き、己を抱きしめた。


 もう何もわからなかった。


 そんな中、ベードキアの哄笑は響く。

 獣が取り憑いたように舌を伸ばした魔女は叫んだ。


「あはははは……。笑わせるじゃないですか。2人を救う? わかっているのかしら、元英雄様は。彼らはラムニラ教の宣教騎士なんですよ。いわば、あなたの敵……。救うどころか、後ろから刺されることだってあるかもしれませんよ」


「人が助けを求めていれば、俺はあんただって救ってみせるさ」


「またまた笑わせますね。誰にでも平等ということですか。まるでラムニラ教の教義のようじゃないですか」


「教義のことなんて俺は知らん。信徒でも、神様でもラムニラ様でもないのでな。ただ俺は、村の子供でも知っていることを実行しているだけさ」



 困っている人を見たら、助けてあげなさい。



「人を救うことに平等なんて大層なお題目は必要ないんだよ」


 アローラの顔が上がる。


 自分は敬虔な信徒であったと思う。

 ラムニラ教の教義を学び、その教えを説くため宣教騎士という道を選んだ。

 各地を周り、救いを求める手に応じてきた。


 だが、ヴォルフの言葉を聞き、ふとわからなくなった。


 自分は教義の中のことをただ実践してきただけなのか。

 それとも、自らの意志で人を救おうとしていたのか。


 教義がなければ、果たして今ここにいるボロボロの自分はいたのだろうか、と。


(自分に嘘を付いていたのは、私も同じなのかもしれない……)


 その答えを今すぐ出すことは出来ない。

 だから、見守ることにした。

 今、目の前に立つ男。

 ヴォルフ・ミッドレス――その生き様(せなか)を。


 一方、ベードキアは鼻で笑う。


「くさい台詞を……」


「お喋りはここまでです、ベードキアさん……。いや、ベードキア。決着をつけましょう」


「調子に乗らないでくださる、元英雄。あなたの強さのからくりはわかっています。

娘――あの【大勇者(レジェンド)】の恩恵を受けているのでしょう?」


 空間から杖を創出する。

 鴉の跳ね骨のように禍々しく曲がった杖には、黒色の宝石がちりばめられていた。

 かなり貴重で、効果の高い杖なのだろう。


 それだけ【闇森の魔女】が本気を出してきているという証だった。


「おそらくあたくしほどの魔導士を相手にするのは初めてのはず」


「そうだな。だが、斬り伏せてみせる!」


 ヴォルフも構えを取る。

 確かにこれまで戦ってきたのは、剣士ばかりだった。

 唯一例外といえば、アンリに使えていたダラスぐらいだろう。

 彼と戦ったのは、レミニアが村を発って間もない頃だ。

 以来、魔導士との戦いはなかった。


 ダラスは優秀な魔導士だった。

 しかし、目の前の魔女の圧力と身体中に漲っている魔力を見ると、明らかに見劣りする。


 ベードキアの言うとおり、一抹の不安がないわけではなかった。


 ヴォルフの狙いは、短期決戦。

 【居合い】を最大最速で抜き放ち、魔女をうち払うことだった。


「むろん、よく知ってますよ。あなたは我らラーナール教団の敵なのですから」


「ラーナール教団――」


 単語を聞き、ヴォルフは聞き返してしまった。


 一拍遅れる。

 ベードキアは杖を振るった。


 マグマから現れたのは、また【炎嵐王(フレイムロード)】だ。

 今度は2体。


「く……!」


 出遅れた。

 ヴォルフは駆ける。

 襲い来る【炎嵐王】の攻撃をかわした。

 だが、炎の魔獣もヴォルフを近付かせない。


 口から強烈な炎を吐き出した。


 マザーバーンの熱線ほどではなく、その熱もレミニアの耐性強化の前では平凡なものだ。

 しかし、吐き出された風圧だけはどうしようもない。

 【剣狼】の足が止まる。


 その間に、ベードキアは魔法を完成させていた。



 【亡霊貴族の夜行(カースド・カースト)】!



 ヴォルフの周りに現れたのは、無数の手だった。

 皮も肉もない手が、【剣狼】の四肢にからみつく。

 背後からは眼窩が窪んだ亡者が襲いかかり、ヴォルフを地面へと引きずり込もうとした。


(すごい圧力だ……)


 さすがに舌を巻いた。

 単純な膂力では抜け出せない。

 おそらくヴォルフの魔力そのものに干渉しているのだろう。


 迷っていられなかった。


「【強化解放(アヴリース)】」


 全力を解き放った。

 魔力で出来た骨や骸を、無理矢理引っ剥がす。


 さらにヴォルフの速度は速まった。

 地を蹴った瞬間、その姿は場にいた全員の視界から消える。


 現れた時にすでに、2体の【炎嵐王】は切り裂かれていた。


「「おおおおおお……」」


 悲鳴を上げながら、炎の王は崩れ去る。

 再びマグマの中に沈んでいった。


 ヴォルフは手を緩めない。

 走りながら、鞘に剣を納め、ベードキアに肉薄する。

 いかなAクラスの魔導士とて、ヴォルフの全力に反応しきれない。


 彼女の目から見て、すでにヴォルフは自分の脇にいた。


 剣閃が光る!


 ヴォルフの刀は魔導士を切り裂いた。


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