表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

一人でワルツは踊れない

いつも閲覧ありがとうございます!

…なんて、意気込んでいた時が俺にもありました。


攻略サイトの赤字で表示されているはずの地雷ワード。もちろん、赤字で表示されていた。いたのだけど、いるにはいるけど、激しく文字化けしている。『@2862¥8+9074486258=36987』

なんだこのパソコンのキーボードの上で寝落ちした後のツイートみたいな怪文は。

人通りの少ない廊下でサイトを開いたのはいいが、こんなことになっているとは思いもしなかった。すがるような気持ちでルシアのプロフィール欄を見ても、なにもかかれていない。

正直、ルシアルートは中盤に攻略したから、ゲームシステムに慣れてきていたこともあって、俺はバッドエンドはスチル回収でみただけだ。詳しくどうやったらそのエンドを迎えたのかは、全く覚えていない。

全身の力が抜けて、廊下にしゃがみこむ。

周りのモブは本当になにも考えることができないのだろう。全員が全員、自分たちの決められた方向に歩いていく。俺のような異物には干渉もしないし、興味も示さないようだ。


「お前こんなとこでなんでしゃがみこんでんの?」


パックジュースを飲みながら廊下を歩く池田は、一度俺をスルーしたが、見過ごせなかったのか後ろ歩きで俺のしゃがみこんでいるところまで帰ってくる。


「池田…俺は今悩んでるんだよ」


「お前いきなり杏ちゃんと恋愛したいとか身の程しらずのこと言うから、悩みないタイプの人だと思ってたけど意外に悩んでるんだなあ」


池田はお詫びだと言わんばかりに、飲みかけのジュースを差し出してくる。俺はそれを目線で断ると、池田はつまらなそうに窓にもたれかかる。そして、俺を冷たく見下ろしながら、なにかを考えている。


「この間のお前と杏ちゃんが会話した時から、月永ルシアと杏ちゃん微妙に距離があるんだよ。なんか、嫌な予感するよな。また、刺されるのはやだよなあ…痛いし…」


「池田お前そんなループの達人みたいな目線で振り返るなよ…」


俺と杏の会話でルシアが不機嫌になるのも、無理はない。ルシアにしてみたら、俺は大切な幼なじみのラブレターを冷やかしで晒した最低な男だ。杏が少し、怯えたように俺たちを見つめるのもきっと俺のせいだろう。

そんな相手が何事もなかったかのように杏と話していたのだ。それはきっと、ルシアの心の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜているはずだ。


「あつ」


ジュースがなくなったのだろう。ストローから口を離した池田が俺の後ろをみて、声を上げる。

その声に促されたような気がして振り返ると、そこには俺を文字通り見下すようにルシアが立っていた。


「真中」


画面越しに聞いていたやけに耳に残る低音に、名前をよばれる。これは女の子でなくても、一度愛の言葉でも囁かれたら、しばらくその幻想に酔ってしまって立ち直ることはできないだろう。


「ちょっといいか?」


ルシアは俺を見下している。それは視線とか体勢とか、そういうものだけではなく、きっともっと深い部分で。それはきっとルシアが意識して行っていることではない。無意識のうちに行われている区別だ。杏の恋愛対象にならない俺と、杏の恋愛対象になるルシアの

間にある明確な線引きだ。


「…ここでいいなら、いいけど」


その白線で引かれたような線引きを足先で消すように、俺はできるだけ冷静な振りをして声を絞り出す。ルシアはそれに一瞬、たじろいだが、すぐにもとの表情に戻る。


「じゃあ、ここでいい。お前佐藤に変なこと言うなよ。つーか、無駄に近づくな。変な期待するなよ」


杏のことを佐藤とわざとらしくよぶのはきっと、ルシアの意地だ。

こいつ、乙女ゲームのキャラのくせに以外とそういうところが、余裕がなくてばかみたいだ。

乙女ゲームのキャラにも独占欲とかそういう汚い感情があるということがわかっただけでも、すごい謎の優越感に浸ることができる。



「最近まで別に変な期待はしないと思ってたけど、佐藤さんが俺に話かけてくれたのは少しは許してくれたのかなって期待してる。それになにが言いたいのかはわからないけど、別に俺はルシアに何か言われてどうするかを変えるつもりはない。だって、これは俺と杏の問題だろ」


ルシアが動揺したように目を見開いて、そのあと、視線が揺らぐ。動揺とかそういう感情があからさまに透けてみえて、いっそ清々しい。

幼なじみという立場から進展できないルシアにとって、昔杏が好きだった男の登場は、安全な自分の守ってきた水槽に立つはずのない波風が立っているようなものだ。


「…そうだな。俺と杏は関係ない。悪かったな」


ルシアは俺に背を向けて去っていく。同じ方向に歩く人波とは別方向に、波打って落ち着かない心の水面を整えることもなく、歩いていく。


「ツンデレっていうか、不器用なんだよな」


池田の吐き捨てるような誰にあてたものでもない呟きは俺と全く同じ考えだった。

ルシアという男について俺が思うことは、それだけだ。ルシアが杏に「お前のことが心配だからあいつとは関わるな」なんて伝えることはないのだろう。それを彼は伝えることができないのだろう。

ツンデレで素直じゃない幼なじみ。それが、ルシアに与えられた割り振りだ。でも、こうして関わってみると彼はただの優しい正確の青年に見えた。

ただのゲームのキャラに、しかも恋敵に、こんな風に感情が揺らぐのはおかしいのだろうか。





乙女ゲームのサイトに習ってルシアのプロフィールでものせときます。


月永 ルシア(ツキナガ ルシア) 17歳

主人公の隣の家に住む腐れ縁の幼なじみ。なにかと主人公の世話を焼く。クラスメイトからはその文武両道さから、信頼される好青年だが、主人公にはきつい物言いになってしまうのがたまにキズ。

祖母がロシア人のクォーター。

好物:ハンバーガー

嫌いな物:甘ったるい物

好きな科目:数学

嫌いな科目:特になし


池田のコメント:典型的なツンデレ幼なじみだな。ただ、周りからはツンデレだなあ〜で終わっても、ヒロインには伝わらないんだよな。たぶんだけど、朝とかも起こしに来てくれるタイプの幼なじみ(*´꒳`*)ノところで、この顔文字かわいいな

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ