ぼくはひとをたすけない
つぎにぼくは、お腹に穴が開いた人に会いました。
そのひとは、道端に座り込んで、悲しそうにお腹の穴を見つめてすすり泣いていました。
ぼくはその人のことを、確か誰かの小説の中で読んだことがありました。
それは、大砲の弾が当って、向こうが見える大きな穴が開いた人のはなしでした。
ぼくは。
知っている人に出会ったようで、うれしくなって声をかけました。
こんにちは。 穴の調子はどうですか?
その人はむっとした顔で、ぼくをみました。
この穴の出口を、王様の部屋の隣あたりにつなぐ事ができればいい気味なんだが。
そうですね、恨むべきは戦争を起した王様ですよね。
ぼくは調子に乗って相槌を打ちました。
そのひとは、なに言ってるのという顔をしました。
けさ、ベンが硬くて硬くて、出したいのにいくら気張っても出なかったのさ。
そして、力任せに気張ったばかりに、お腹に穴が開いてしまったのだよ。
ああ、この穴の出口が、私の目の前でなく宮殿の中にあれば、
わたしも、私の家族も、この穴のことを嘆くことなく、幸せに暮らせるのに。
ぼくは、彼にさよならをいい、彼の穴の向こうの景色に向かって歩き始めました。