第五話 眠れない夜に
月明かりに照らされ埃が雪のように舞う初夏の夜。
私は敷布団の上で睡魔の訪れをじっと待ち構えていた。
目を閉じても頭の中には小松田さんに次会うときにどういう顔をすればいいのかとか、そんな余計なことばかりが脳裏をよぎる。
きっと私が殺人者であろうと、神であろうと、異星人であろうと…彼は満面の笑みを浮かべて私を歓迎してくれるだろう。
その一方で…
あのとき私がもう少し早く来ていれば…。
寂しそうな女の顔はなんとも艶かしく、憂いを帯びた瞳は魔性すら孕んでいたようであった。
揺れる漆黒の髪はどんな光をも阻み、ただでさえ白かったであろう肌の色はコントラストにより一層白さを際立たせている。
そんな思いが身体を駆け巡り、既に小松田さんのことは頭になくなっていた。
早く彼女に会ってみたい!この私をここまで落ち着かない気持ちにする彼女に私は…。
しかし、冷静に考えてみると…私は一体何をしにここへ来たのだろうかと…心身の疲れを癒すためだろう!!
私は自分の間違いを正そうと自問自答を繰り返していたが、そうしているうちに睡魔はすっかり寄り付かなくなってしまっていたようだ。
気づいたときには私は夜風を感じながら数多に輝く星達と月の明かりに照らされながら突っ立っていた。
初夏の、白川郷の夜風は布団にこもった熱気をすぐさま冷やしてしまうほどに涼しく、先程まで高鳴っていた鼓動も少し落ち着きを取り戻した。
時刻は午後10時。
蛙の鳴き声は騒がしくも田舎の風情を感じさせていて、それがまた夜空の星々を賛美する盛大なオーケストラのようにも感じられる。
私は鼓動を再び高鳴らせる。
その曲は始まったばかりのここでの生活を激励するかのように力強く、絶えず私に活力を与えた。
ここへ来れば例の女に会えるかもしれないと僅かに邪な気持ちを抱いていた私が馬鹿らしくなり、この激励に応えようと努力することを決心し踵を返し宿へと戻る。
それでもやはり蛙の鳴き声がやむことはなかった。
考えながら思い付きで割り込ませた文章もあって読み辛い箇所があるかと思われますが、その時は教えていただければ幸いです。
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