第二十一話 水遊びと彼女
【21】
百合との水遊び。
僕は河原で靴を、百合はサンダルを脱いで、川に足を浸ける。
百合は僕の手を引いて、再び恋人つなぎを促す。
僕もそれに応じ彼女と再び手をつなぐ。
「冷たくて気持ちいいわね。なんだか不思議。あなたとこうしてここで遊ぶなんて。白川郷に来る前はこんなことになるなんて想像もつかなかったわ」
「そうだね。うん。僕もまだピンときてない。もしかしたら夢なのかもって」
「いいえ、夢じゃないわ。ほらっ」と急に百合は繋いでいない方の左手を腰をややかがめた状態から水を掬い上げ僕にぴちゃりとかけてくる。
「うわ、冷たいな、百合さん。はしゃぎすぎですよ」
「冷たいってことは夢じゃないわよ」
「そんなの解ってますよ。百合さんの手、すごく温かいですし」
「そうね、でもなんだかかけたくなったわ」
そう言い、もう一度水を控えめにかけてくる。
加減する当たり大人だと思うけれど、どうせなら遠慮なんていらないのに。
「百合さんはいたずら好きですね」
「そうかしら、でも楽しいわ」
そう言うと、僕の手をするりと放し、ワンピースをはためかせながら、楽しそうに歩き回る。
「深いところは服が濡れないように気を付けてね、危ないし」
「わかってるわ~」
そう言いながらも、はっ、と気づいたように慌ててワンピースのスカート部分を少しまくる上げる。
すると、彼女の脚がさっきよりもはっきりと見え、濡れて艶めかしいのが、水面に映っている。
彼女の美しさはどこへ行っても新鮮で、様々な形で現れる。だからこそ一瞬たりとも目が離せないのだ。無限写真集だ。僕の瞳が一枚一枚捉え、刹那に消える。
遊び疲れたのか河原の砂利の上にワンピースの皺を伸ばすように尻から脚へと掌で撫で、腰を下ろした。
「はあ、楽しかったわ。普段プールもいかないし、川もいかなかったから、新鮮ね」
「僕もです。もっとも、百合さんのはしゃいでいる姿がすごく素敵でした。なんというかかわいらしくて」
「もう」
彼女は体育座りの状態から膝と胸の間に顔を埋め恥ずかしそうにしていた。
さっき写真撮った時とは明らかに態度が違う。不意打ちには弱いのだろう。
そんな百合もかわいい。魅力の際限がないくらいに。
「百合さん、あのこれからなんですけど」
「これから」というワードに反応し顔をピクリと上げる。
「夕食前ですが、少しお腹がすいてきたので、この前言ってた串焼きでも食べに行きませんか?」
「へ?」といわんばかりに、肩を落とす百合。
何か間違っただろうか。まあ、なんとなくわかる。
「そういうこと。いいわ。いきましょ」
やや、そっけなくも、平然と振舞う百合はやはり神秘的だが、もう一言いるようだ。
「あの、百合さん。今僕が何を言っても怒ったりしませんか?」
「内容にもよるわね。でも、なにかしらね。気になるわ」
「じゃあ、言わせてください」
そう言い、僕は百合との間にできた隙間を埋めるように肩を寄せる。
百合は一瞬戸惑うも、ノースリーブの白肌を僕の肩に密着させた。
「百合さんと出会って、まだ日が浅いし、まだ互いのことをよくは知りません。でも、百合さんといると幸せで、自分が世の中に対して憂えたなんて嘘だったように思えました。旅先の出会いだけど、 百合さんと別れたくありません。ずっと一緒にいたいです。この白川郷を出ても。もちろん、物理的な意味ではないのであんまり深く考えないでください。あ、そうじゃなくて……」
「そうね、一緒にいましょ。私もあなたと一緒にいたいわ。こんな風にお互いにばかみたいにはしゃいで、でも考え無しってわけでもなく、意外と紳士で、私はあなたが好きよ」
「僕も百合さんが好きです」
河原に二人。他には人はまばらで、そんな中で二人は向き合って、互いに腕を背中にまわし、唇を重ねた。
僕たちは恋人同士になった。
偶然か運命か。
二人の物語はまだ始まったばかりである。
続く




