第一話 到着
この旅の出逢いこそ、人生でも最も重要な転換点だったと思う。
だからこそ皆に、この嘘みたいな現実の話を聞いてほしいんだ。
そして、一歩踏み出す勇気を与えられたら……いいや、その機会を与えられたらいいなと思う。
山道を走り、トンネルを抜けると穏やかな緑溢れる山々に囲まれた広大な土地が視界を埋め尽くした。
今日からここで暮らすのか。彼は広い車内で期待を胸一杯に膨らませながらハンドルを切った。
ここ「白川郷」へは観光客用の駐車場からも行けるのだが、今回は少々長い期間滞在する予定なので、別の道から行った。
下宿先への道は人通りが少ないものの、ちらほらと観光客が見られる。
宿の駐車場を見つけると、エンジンを切り、少しばかりの静けさを感じた後、勢いよく車のドアを開けた。
都会から持ち込んだ自分の空気が田舎の空気と入れ替わるのを体感し、心地よい自然溢れる力が自分を満たす。
(懐かしいや、やっぱここはいつ来ても心が洗われるよ)
ついたばかりの今、宿へいくとおそらく疲れがどっとでて、すぐに休んでしまいそうなので、先に 少し観光がてら、村を回ってみることにした。
駐車場から少し歩くと、とてもいい匂いがした。
それも、肉の匂いだった。
自分の体は今、大自然のエネルギーよりも、食物のエネルギー、特に肉を求めていた。
「いらっしゃい!!」
夕刻になって暇で仕方なかったのか、やけにやる気がある店員だ。
この店でなくとも、大抵ここらで肉といったら決まっている。
だから、メニューは見なかった。
「はい、おまち!!」
肉汁が滴る串焼きを白いトレーの上にのせると、すぐにそれを受けとる。
そして、挨拶も忘れて、勢いよく頬張った。
炙り立ての肉にはスジなどがあまりなく、内包している肉汁が口の中で滝のように溢れだした。
どうやら食べる勢いがすごすぎたのか、
「お客さん!!旨そうに食いますねぇ~!!」と店員は嬉しそうに笑いながら言った。
すかさず「腹が減りすぎて、まさにお腹と背中がくっつきそうだったもので……」
「そうですかぃ、なんでしたら、もう一本いきますかい??」
「ははっ、商売上手ですね」
「いえいえ、お客さんが、お客さん上手なんですよ」笑いながら上手いことを言う、にしても肉は旨い
店員は自分が肉を喰らっている間に、あらかじめ二本目をやいていたようで、それを差し出しながら
「お客さんのうまそうに食う笑顔に特別サービス、半額でいいですぜ!」
「では、喜んで一本お願いします。」と言ってお金を手渡す、そしてすぐに肉を受けとるが……
一本目は急いで喰食べてしまったので、二本目は味わおうと思い、ゆっくりと噛み締めるように味わった。
この串焼きはまるでこの場所のようだ。
一度、二度と回を重ねるごとにその良さがわかってくるように、串焼きも二本目で一本目ではわからなかった味が伝わってくる。
そんなことを思っていると
「今日はこれからどうなさるんですかい?」と店員が唐突に尋ねてきた。
普段、自分のことを知られると、不利になると思い言わない性質
余計なことも話していたら、すっかりと日が暮れてしまった。
店員に別れを告げると、私は宿への道へ歩みを進めた。
そんな道中の私の脳裏には、地元の食材を使った宿の飯のことばかりが浮かんでいた……
続く