悪の組織が熱海観光バスを襲うまで
「機械化獣ゾンビーカー!玉川上水の浄水施設を服従ゾンビ薬発生装置に改造することなど、このレオラインが絶対に、させるか!」
光輪獣士レオラインが構えた。妖魔団長エンドミルはニヤリと笑う。
「レオライン!今日がお前の最期の日だ!ゾンビーカーよ、奴を血祭りに上げてやれ!」
ゾンビーカーは浄水施設の改造のみならず薬液を用いた高い戦闘力を誇る。妖魔団長エンドミルは心の奥で笑った。さしものレオラインも、この強力な機械化獣に勝てる道理などない。
そして、エンドミルは今日はノー残業デーなのだ。
「後は任せたぞ、ゾンビーカー!」
エンドミルの転移魔術、一種のテレポートはどのような場所でも移動できる。これにより、エンドミルが月9ドラマを見逃す心配はない。
「で、失敗か、将軍センバーンよ。ゾンビーカーは倒されて服従ゾンビ薬発生装置も破壊され」
声は、暗い大広間に深く深く響いた。
魔神エクスマシン。大広間で、まるで神像ような威厳を放つ巨大な影の主である。
対峙するのは将軍センバーン。甲冑を着込んだ厳しい戦士である。
「いえ、それは・・・・・・エンドミルにはよく言って聞かせますので」
センバーンは無意識に自らの胃の周辺をさすった。
「ですが、ご安心ください。来週までには、そのレオラインを滅ぼし、日本をエクスマシン様に捧げる作戦を立案してご覧に入れましょうぞ」
センバーンは深く頭を下げた。
「期待しておるぞ。将軍センバーンよ」
魔神エクスマシンの単眼がギラリと煌いた。
「という経緯があってだ」
将軍センバーンは机に手を置いて立ち上がった。
ここは、魔空要塞ファクリトアの第三応接室である。
応接室ではあるが、空調が利くため現在はもっぱら会議室としての利用が多い。
「つまり、こう」
センバーンは後ろのホワイトボードには魚の骨の絵のようなものがかかれている。魚の頭蓋骨に当たる部分は「レオラインを倒す作戦」と枠に書かれていおり、背骨のような太線から、小骨のような小さい線が何本か突き出ている。
「どうすればレオラインを倒せるのか?ということだ」
ホワイトボードに目を向けたのは、妖魔団を取り仕切る妖艶な鬼女エンドミルと、機械団を率いるガンメタル色のガンマン ヴァリトリーだ。
「ちなみに、私がここにいることで製品の出荷が止まっております」
「俺ガ・ココニイル・機械修理・止マル」
「うむ、分かっている。早めに切り上げるから、とりあえず案を出してくれ」
(やはり、戦場での叩き上げリーダーに出荷や機械修理を兼任させるのは無謀であったか・・・・・・いや!まずは行動だ)
心の中の弱気な独り言をセンバーンは拒否した。
「では、円滑に進めるために意見を募りたい。どうすればレオラインを倒せるのか!はい!」
エンドミルが右手を上げた。
「熱海とか狙ったらどうですか?温泉とかお好きでしたよね」
「観光行きたいだけだろそれ!何で熱海でレオラインと戦うんだよ!?」
ヴァリトゥリーが手を上げる。
「観光バス・オソウ」
「お前も観光か!まずは、倒さねば並んだろうレオラインを!」
センバーンが叫ぶ。
「レオラインを倒せたら、熱海でも伊香保でも好きなところ連れてってやるから!経費で落ちるから!お土産代まで!」
「そういうことなら」
「シカタ・ナシ」
センバーンは簡易胃薬を飲んで、ため息を付いた。
確かに、熱海観光は魅力的だ。センバーンは温泉が好きだった。出来ることなら24時間入っていたい。いつか引退したら熱海あたりに別荘を買って緩やかに生きるそんなことも考えている。
だが、断腸の思いで熱海でくつろぐ自らを振り払った。
断たれそうなのは腸でなく胃の方だが。
「と、いうことで。作戦会議に戻るぞ。レオラインの倒し方だ!」
「フフフフ」
その時、室内に不気味な笑い声が響いた。
「なにやら低レベルな会議をされているようですな」
部屋の隅には甲虫を思わせるシルエットの男が佇んでいた。
「お前は傭兵フライス。良くもオメオメと!」
エンドミルは傭兵フライスを睨みつけた。
「せっかく機械化獣ゾンビーカーが手傷を負わせたレオラインを追い詰めておきながら、逃がすとはどういうことだ!」
「あの程度の相手、俺がその気になればいつでも倒せる。お前たちでは無理だろうから報酬は上げさせてもらうがな」
「何ィ!」
「それよりも」
エンドミルを無視し、傭兵フライスはセンバーンに視線を送る。そしてその後ろのホワイトボードに。
「これはQC七つ道具の一つ特性要因図のようですが、将軍」
「ぬ」
QC七つ道具とは、品質管理においての科学的な統計手法である。その中でも特性要因図は魚の骨のようなモデル図を元にアプローチする統計手段であるが、
「特性要因図の目的は解析であり、間違っても作戦そのものへの立案に使うものではありませんな。つまり!」
傭兵フライスのブレードランチャーの風圧がホワイトボードに書かれた文字を消し去る。ホワイトボードの表記が「レオラインを倒す作戦」から「レオラインを倒す」へと変化した。
エンドミルは目を見開いた。
「確かにアレなら何に対してアプローチすればいいのかが明確で分かりやすいわ!悔しいが傭兵フライス、ヤツめQC七つ道具を知り尽くしている・・・・・・」
「マズ・作戦ノマエニ・原因ノ・追求カ」
センバーンは簡易胃薬を飲みながら、汗をかいた顎をさする。
将軍センバーンは、このミスをあえて行った。二人の団長を鍛えるために「あえて」である。だが、今、まったく予期しない人物の行動のせいで失敗してしまった。
将軍センバーンは判断した。せめて、そこはかとなく自らの名誉を回復しなければ。
「あー、分かってたんだがなぁ。本当は知っていたんだがなぁ。ワシはー。そっちのほうがいいてぇー」
「うわぁ」
何故かエンドミルが眉根を寄せる。傭兵フライスは肩を竦めた。
「そういうことにしておきましょう」
ドヤ顔である。
センバーンは簡易胃薬を飲んでもう一度特性要因図を睨んだ。
「というわけで「レオラインを倒す」ということを議論したい」
「特性要因を考えるのにあたり、人、設備、方法、材料の四つのMを考えるのが基本では在りますので今回はそこから議論を始めるべきですな、将軍殿」
「ああ、ウム」
簡易胃薬を飲む。
「では、まずは材料からアプローチしましょう。レオラインのスペックを材料に見立てアプローチを行いたい」
「レオラインノ・戦闘力・戦意・ソグ」
「なるほど」
「あ」
センバーンは声をかけようとした。が、
「その為のアプローチとして、人質作戦などが有用でしょう」
「なるほど」
「ダガ・有用ナ人質ナド」
「いや、レオラインはいわゆる正義などという下らぬ感情で――」
センバーンは首を振って部屋の片隅に体育座りをすることにした。
「と、いうわけで、来週の作戦は『熱海の観光バスを襲う』に決まりました」
「何でだよ!」
センバーンは叫んだ。
「途中まで良い流れだったろう?何だ?なんでそうなった」
「いえ、レオラインの知人を福引とかで熱海に招待し、人質にすることでレオラインを呼び、奴の正義感や優しさを」
「熱海じゃなくても出来るだろー!それ!」
「なんか、会議のときは口出さなかったのに今不満出しまくるっておかしくないですか?」
エンドミルがセンバーンを不服そうに睨む。
「うぐ!」
センバーンは簡易胃薬を口に含んだ。
「と、とにかく、もう少し、別の案を頼む。ホントマジ」
「・・・・・・」
と、
『俺は荒野の黒い風~俺はフライス黒い嵐さ~』
着メロである。フライスは携帯を懐から取り出した。
「傭兵フライス。会議中は携帯は」
センバーンをヴァリトリーが制した。
「ん?」
ヴァリトリーの体には当然通信傍受システムが組み込まれている。
ヴァリトリーがセンバーンの耳元でささやいた。
「・・・・・・」
携帯を懐にしまい、フライスは一礼した。
「失礼しました。将軍殿。では説明に戻りますが――」
「フライス。今すぐ田舎に帰れ」
「・・・・・・」
フライスがヴァリトリーを睨みつけた。ヴァリトリーは肩をすくめる。
「労組ノ執行委員ナノデナ」
「傭兵といえど私の部下であるフライスが、大事にも仕事に気を取られていたなどと士気にかかわる。今すぐ田舎に帰れ」
「・・・・・・しかし、オレの故郷はここからでは・・・・・・」
エンドミルはため息をついた。
「つまり、私はお前を何処に転移させればいいのだ?」
「と、言うような話がありまして」
将軍センバーンは、胃に違和感を感じながら、汗を流した。
「結局フライスのお母上はご無事でありました事は喜ばしく、また我らのいざという時の結束の確かさも見れたわけで・・・・・・」
ズキン!響くような痛み。無論錯覚であるはずだ。この眩暈もそうだ。
「今週の作戦は、未だ出来ておらず・・・・・、この度の失敗は私のリーダーシップの欠如が原因であるため部下やフライスは・・・・・・」
魔神エクスマシンがセンバーンに単眼を向ける。
「センバーンよ・・・・・・。部下の大事を放置する上司は士気を落とすと言ったな」
「は?」
魔神エクスマシンはギラリとその単眼を輝かせた。
「それも踏まえて、次の作戦は熱海の観光バスを襲うとかはどうかのう?」
補足させていただくと、
特性要因図は魚の骨のように一つのテーマに対する要因を列挙し、さらにその要因を連想ゲームの要領で分解する(例:「レオラインを倒す」←「戦力・戦意をそいで倒す」←「人質をとって戦力・戦意をそぐ」)アプローチ方法です。
ただ、特性要因を列挙するのには向いていますが、その中での最適解を導くのには適さない気がします。
また、QCとは無関係ですが「マインドマップ」という特性要因図に良く似た思考方法もあります。
分かりにくければ申し訳ありません。また私の誤解や勘違いも混ざっているかもしれません。読んでくださった方が、少しでも特性要因図のことを心の片隅において、何かの一助となれば幸いです。




