あれ、本当に歓迎してるの?
半年以上ぶりの更新になりますね。その節は申し訳ありません。
「起床ーー!!!起きなさーーーい!」
気づくと、源がおたまとフライパンをガンガン打ち鳴らしていた。んー…もう朝か。
「おはよう、源」
「うん、おはよう要君。訓練の前に、顔洗って歯磨いてきて」
朝やることは表も裏も大して変わらないらしい。洗面所に行くといつの間に買ったのか、『要』と書いた歯ブラシが用意してあったので、それを使って歯を磨く。
歯磨きが終わり、地下の訓練所に行こうかと思ったとき、正と鉢合わせした。
「…よう」
「あ、うん…」
な、なんか気まずい。昨日ボコボコにしちゃったしなー…
「その…なんだ。一つだけ言っておく」
「え?」
「私乃は渡さねえからな!」
正はそう言うと、ピューっと逃げるように洗面所に入った。
「…なんだったんだろう?」
深く考えないようにして、訓練所に行くことにした。
訓練所入ると、源が待っていた。ちょうど良いや。さっきの事を聞いてみよう。
「源。さっき正に『私乃は渡さねえ』って言われたんだけど、正ロリコンなの?」
ストレートに聞くと、源は「ぶふぅ!」と吹き出した。
「ロリコンっていうか…。彼らは兄妹以上の感情は持ってないよ」
「あ、やっぱそうなんだ。よかったー。てっきり正は変態なのかと…」
しかし、僕は源が小声で「シスコン気味だけどね」と呟いたのを聞き逃さなかった。僕と正はどこまでも対立する運命にあるようだ。
その後、源と他愛もない話をしているとすぐに全員揃った。源が立ち上がって仕切る。
「よし、皆揃ったね。これから今回の訓練の内容を発表する!」
「あーちょっと、大声出さないで。あたし二日酔いで頭痛いのよ」
すごい。話の腰を叩き折った。なんて空気の読めない反応なんだ。
「あー…こほん。今日の訓練は、勝ち抜き戦です」
源が少し声のトーンを落として発表した。この人苦労してるなあ…
「チームは、要君VS他の皆で行こう。審判は伊織。じゃあ準備して」
「「「りょうかーい」」」
「あれ、この状況をおかしいと思ってるのって僕だけ?」
1対4とか袋叩きにも程があると思う。いや、勝ち抜きだけども。
「あ、それと要君。大剣だけど、やっぱりあの重量制限じゃ無理だね。別の案は無いかい?」
「別のかー…それなら、こんなの作れる?」
ごにょごにょごにょ。なんとなく耳打ち。
「どうかな?」
「…いいんじゃないかな?面白いよ。じゃあ今日はとりあえずあの中から適当なの使って」
源が指差すのは、昨日入団テストに使った木製武器たち。せっかくなので、昨日と同じナイフ二刀流にしておく。ついでに周りを見てみた。正は昨日と同じ文字通りの相棒。源は木刀。私乃は…木製で分かりにくいけど、先が尖ってるし槍、かな?
「じゃあ、第一試合、私乃VS要。両者定位置について」
やる気がないのがありありと感じられるなあ。若干テンションが下がる思いをしながら位置についた。
「始め」
ビックリマークも付かないような声で伊織が合図した。
槍はその長いリーチが最大の利点であり特徴だ。反面、インファイトには弱い。
というわけで。
「よっ、と」
ササッとこっちの間合いに入り、首を狙う。入る!
しかし、その攻撃は後ろからの一撃で防がれた。
「がっ!?」
後ろから、槍の持ち手でぶん殴ってきたのだ。な、なかなかアグレッシブだなあ…。
「くう…」
迂闊に入ろうとしたのは間違いだった。やっぱり、狙うべきはアレか。
ヒュンヒュンと音を立てて槍を回す私乃は、自分から飛びかかる気はないらしい。
「ごめん、私乃。ちょっと技使うね」
僕は、もう一度突っ込んで行く。しかし、さっきとは狙いが違った。
狙うべきは、その槍。
「須藤流戦闘術、『堅脚』!」
須藤流戦闘術は、多くの武術を取り入れたものだ。その中にはもちろん中国拳法もある。
『堅脚』は、硬功夫を使い、脚を固くした上で渾身の回し蹴りを放つ、端から見ればただの蹴りだ。
本来これは相手に直接当てるものだが、槍というのは両手で持つ。つまり、固定されてるわけなので、槍に当ててみた。
狙いは完璧、槍はボキボキと音を立ててまっ二つ。
「え、な、…え?」
「ごめんっ!」
謝りながら突撃。両足で私乃を押し倒して、左手のナイフを捨てて私乃の両手を一気に掴み、右手に残ったナイフを首に当てた。
「そこまで。要の勝ち」
…やる気無いなー。
「要、そろそろ降りなさい。なんか襲ってるみたいな感じに見えるわよ」
「う…確かに」
いや、襲ったといえば襲ったんだけど、なんかニュアンスが違う『襲った』になりそうだよ。