ようこそ、裏世界2
いやー、2つ同時連載ってきついですね…ほんとに。
「ほら、早く来て!こっちだよ!」
「いや、なんで真っ当な世界の子がこんなに足速いの…?」
僕は今、フードコートを爆発させた猟奇的美少女を匿っている。このショッピングモールは、非常用の地下通路があるから、そっちを通れば見つかることは無いだろう。
と思っていた矢先。
「……あっ、そういえばバクたち、駐車場に迎えに来るって言ってた…」
ずでんっ!
僕はこれまで体験したことがないくらい綺麗にずっこけた。[バク]というのは多分仲間だろう。今から駐車場に行くと間違いなく警察に見つかる。しかし仲間を置いていく訳にもいかないだろうし…ああもうっ!
「ほら、行くよ!」
僕は反対方向に向き直る。もちろん駐車場に向かうためだ。
「ご、ごめん…ありがとう。」
「お礼はいいから!」
おずおずと礼を言う少女を一蹴し、全力で走る。ついてこれるかなあ…?
「ま、待ってえ~…」
案の定ついてこれないようだ。まあ、さっきの速度ですらついてこれてなかったもんな…
「よっ…と。あ、軽い。」
少女の頭と脚を抱え、ダッシュする。まあ、お姫様抱っこというやつだ。少女の体は羽のように軽かった。少し僕が着ているパーカーのフードが邪魔そうだったが、仲間を置いていくよりはマシだろう。…息、苦しいのかな?顔真っ赤だけど…
「は、速…。」
少女が驚愕している。そもそも僕は色々面倒だから表舞台でやらないだけで、本気を出せば100Mなら10秒、フルマラソンで1時間58分という記録を持っている。まあ、2年前師匠であるじいちゃんの前で計ってみただけだから、今はどうか分かんないけどね。
「ちょっと怖いかもしれないけど、我慢してね~」
「…表世界にこんな子がいたんだ…私とあんまり変わんないくらいなのに…」
ちなみに、僕は一般からすればスタミナも半端ではない。ま、フルマラソン走れる時点でものすごいと思うけど。
そんなこんなしている内に、駐車場には着いた。
「…やっぱり警察がいるね。どうする?」
隣の少女に聞いてみる。こっちの方がこういう状況には慣れているはずだ。
「そーだねー。どっちにする?警察蹴散らして進むか、警察に見つからないよう進むか。」
ふむ…見つからなければそれが一番だけど…って。
「バク…だっけ?その人の車ってどれ?」
「あれだよ。」
少女が指さした先にあるのは、バカでかいキャンピングカーだ。…この子の仲間はどれくらい居るのだろうか。
「あれか。よし、じゃ、見つからないように進んで、見つかったら蹴散らして行こうか。」
「了解!」
一応、顔を隠すためにパーカーのフードをかぶり、巻いていたマフラーを口元まで上げる。少女は着けていたウエストポーチから漫画の悪役がつけているような、洒落た仮面を出して、顔に付ける。そんな様子を見ながら、僕は場違いながら思っていた。
この子やっぱりかわいいな。
今は隠れているが大きな目、通った鼻筋、小さな口、僅かに赤みのある頬、細身ではいるが、決してガリガリでない体つき、雪のように真っ白な肌、薄くて綺麗な茶髪のボブカット。服装は、赤いチェックのシャツの下に黒いTシャツ、ハーフパンツにウエストポーチ、釣りの時に着るようなベストを着ていて、それら全てを覆い隠すように黒いマントを着ている。普通の人がやっていたら謎ファッションだが、美少女がやるから何でも似合うし、そもそもこれは機能性を重視しているのだろう。というか、マントで隠しているだけで、多分もっと装備してる。爆弾の入るスペースが無いし。
「どうしたの?早く行こうよ。」
少女に急かされる。そうだった。すぐ行かないと。
「うん。ごめん。さ、この辺の警察全員撒くには…ねえ。ちょっと爆弾貸して。」
「うん、いいけど…あ、そこのボタン押した10秒後に爆発するよ。」
「ありがとう。…よっと。」
ボタンを押して、球形の爆弾を投げる。すると少しして、ものすごい爆発音がした。
「おいっ!あっちだ!行くぞ!」
警察の方々が揃って爆発の方へ行く。さ、この間に行こう。
「さ、行くよ。」
そう言ってもう一度担ぎ上げる。キャンピングカーにはすぐに着いた。
「さて…ここだよね。」
少女と一緒に車に入ろうとする。すると…
「だめ。ここですぐ私を降ろして、君は乗らないで。」
そう言われた。
「なんで?」
「だってここに入ったら、君は今日からこっちの人間、裏の人間になるよ。入団テストだってあるよ。それで死んだっておかしくない。任務で死んでもおかしくない。だから…」
少女の言いたいことは分かる。危険な世界だから来るな、と言ってるのだろう。しかし、僕は裏世界に入るつもり満々だった。
「……昔の人はいい言葉を残してるんだよ。」
「え?」
少女がきょとんとしている。
「チャンスの神様には前髪しかないんだよ。」
そう。僕は知ってしまった。僕の技能を余すことなく使うことができる世界を。そして、かわいくて気さくで優しい少女を。僕はこの子とここで別れたら、多分一生後悔する。
「……わかったよ。バク!任務完了!うん、倒してきたよ!はい、首!あと、入団希望者!ものすごい強いよ!ほら、テストして!」
少女が中に入りながらバクという人(まあ偽名だろうけど)に話しかけている。多分報告と、僕の紹介だろう。
「え?入団希望者?うそ、え、すごい。3年ぶりかな…」
「さっき助けてくれたの!バク、この子だよ!」
少女は僕を指さしてはしゃぐ。3年ぶりって…まあ、裏世界っていうくらいだし、知名度が低いよね。
「君が入団希望者?ぼくはバク。本名は後で教えるよ。よろしくね。」
そう言って気さくな笑顔で話しかけてきたのは、剣道する人が着てるような服に身を包み、刀を腰に刺した男の人だった。
要君は滅茶苦茶なステータスです。学校で喧嘩したらまあ負け無しでしょうね。