第二十五話
第二十五話
「りゅ・・・龍脈が・・・!?」
突然龍脈が砕け散ったのをただ愕然と見つめる事しかできない白雨は、雨の日との戦闘さえも忘れてなにも居なくなった虚空の星空を見上げていた
「・・・残念だったな、お前の負けだ白」
勝者なき決戦に雨の日は薙刀を消散させ白雨の落胆する様を黙って見つめる
激しい上空での攻防戦は突然の横槍によって決戦を迎え、この名古屋城龍脈の防衛は形はどうあれ成功。結果的にアナザーの主戦力増大の防止を達成できたのだろう
だが、いきなり龍脈が消え去りはいそうですかと白雨が引き下がるわけもなく、怒りに肩を震わせるのが雨の日の視界に映る
「ふざ、け・・・いで・・・何よ・・・何なのよ!!今の力は一体なに!!龍脈を消せる奴の情報なんて無かったわよ!!」
「・・・見苦しーぞ」
「五月蠅い!!殺す・・・全員・・・殺す!!」
空気が震え気温が下がるような錯覚に陥る殺気が名古屋城だけでなく、この地域一帯に広まった
もちろんそれは天守閣にいる五人にも伝わり、特に雷火の日と撫子には直接殺気が放たれているのか、特に濃厚な殺気が襲い掛かる
「く・・・るし・・・いっ!?」
「撫子・・・気をしっかり持ちなさい。なぜかは分からないけれどわたしたちが狙われているみたいよ」
先の現象の記憶が無い雷火の日にはどうして白雨が怒りに震えているのか全く見当がつかない
だが、このままでは自分が殺されてしまうという恐怖だけはハッキリと理解できた
もちろんそれは非戦闘員の撫子も同様の事だった
「私の・・・龍脈・・・ッ!!」
雨の日が危機感を覚え水の鞭を生み出したときには時すでに遅く、天守閣目がけて振り下ろされた白雨の腕の先からマグマのように煮え切った水の柱が二本、手始めに雷火の日と撫子目がけて放たれた
「兄ちゃん!!」
「分かってる!!」
その攻撃を視界にとらえた二人は雨の日が間に合わないことを把握したうえで二人の身を守るために行動を開始する
まず雪の日が白雨と同じような形状の円柱状の氷の柱を生み出し、それを嵐の日が回転を加えながら白雨の水柱にぶつける
その結果、お互いに反応しあい、力の差を何とか埋めながらも大量の水蒸気をあたりにまき散らすことになり、その結果としてかなり距離のある上空と天守閣が全て真っ白におおわれることになった
「・・・!?雷火ッ!!」
「え・・・っ?」
視界不良の中、晴れの日の声が木霊して、雷火の日を背後から突き飛ばした
その刹那だった・・・雷火の日が立っていた場所に強烈な酸性を帯びた液体が大量に降り注いだのは
「くっ・・・そこか!!」
晴れの日は白雨の殺気だけを頼りに行動を読み、かなりの高速で動き回っている白雨に応用して熱線を放っていく
途中、各方位から水が撃ち込まれるが、雷火の日もなんとか警棒で叩き落としつつ、多くは晴れの日が撃ち落としていた
「視界不良はこちらの分が悪いわ・・・晴れの日。まずはこの水蒸気をなんとかしましょう・・・嵐に頼めないかしら?」
背中合わせになり一応の死角はなくなった
そのまま耳にそっと語り掛ける雷火の日だがその声には焦りもみえる
自分までネガティブになることは無いと言い聞かせながらも晴れの日も同じように小声で返答する
「そうだな・・・俺の視界にゃ雷火以外見えないけど、雷火は誰か見えるか?あ、上から雨さん降ってきてるけどそれ以外で」
怒りに震える白雨の高速移動より少し雨の日の機動力は下回っているようで、雨の日はまだ天守閣に着けていない
つまりこの場で戦える者は自分で自分の身を守らねばならない。しかし晴れの日が言ったように今この場は水蒸気で満たされていて、まともな視野がないのだ。だからこそ、少し前までの訓練鍛えていた気配感知が重要となる
雷火の日と晴れの日は五感に意識を最大にまで集中し、周りの人の様子をうかがう
すると、白雨らしき殺気を纏った一人が、なんの気迫も感じられない一人に襲い掛かってる気配を二人同時に感じた
「撫子があぶねぇ!!」
「嵐ッ!!!早くこの水蒸気消しなさい!!」
とっさに二人同時に叫び、二人して違う行動に出た
晴れの日は撫子の気配がする方に駆け出し、雷火の日は警棒を投げる覚悟で足を前後に開き、いつでも援護できるようにしながら嵐の日に聞こえるように叫ぶ
「了解した!!」
端的に答えた嵐の日は暴風を巻き起こし一体の水蒸気をようやく吹き飛ばす
晴れた視界の先には右手を振り上げた体制のまま微動だにしない白雨と、その体をはさんで向こう側で蹲って恐怖のあまり頭を抱える撫子
そしてその間に・・・
「・・・たたっ斬るって、言ったろ?」
「く・・・ろ・・・!!」
「雨様!?」
つい先まで上から急降下しており、まだ間に合わないであろうと思われていた雨の日がその薙刀を振り切っており、その付近には胴を斜めに切り裂かれた白雨の血が舞っていた
「・・・天パ皇子も伊達にトップ名乗ってる訳じゃないって事ね」
その様子に雷火の日はほっと胸を撫で下ろし、撫子の無事とこの戦いの幕引きを安堵の溜息で迎えようとしていた
「速すぎだろ・・・雨さん」
晴れの日も、紅銃をホルスターに差し肩の力を抜いた
「黒・・・どうして・・・じゃま、するの?」
「邪魔してる訳じゃないけどな。とにかくコイツに手ェ出そうとしたのがお前のミスだ。どうせその傷もすぐ治るんだろ?さっさと引きあげろや。どうせ俺らがサシで戦っても決着はつかねーよ」
雨の日が薙刀を消散させ白雨の傷口を軽く顎で指し示すと、白雨は自分の血液を自分の能力で操作し、これ以上の出血が無いようにしているのだ
これでは切っても失血死はまずありえないだろう
「見逃すんですカ?」
雪の日がそっと白雨に近寄る。その数歩後ろからは嵐の日が歩み寄る
「まぁたとえ見逃しても誰も文句言えないがな。俺らじゃぁ足手まとい過ぎたさ、この勝負」
珍しく弱気な嵐の日だが、晴れの日もそれは同感だ
結と解の時と言い白雨との戦いと言い、まだまだ自分が未熟だと思い知らされたのだ
「俺らは正直お荷物だったしな・・・雨さんに任せる」
「・・・そうね」
雷火の日も同意見のようだ
雨の日は腰の抜けて座り込んでいる撫子に手を差出して立ち上がらせながらも痛みに倒れかける白雨を軽く蔑んだ目で睨みながら全員に軽く目くばせした後、白雨にすぐこの場から立ち去るよう指示する
「・・・私の負けね、敗者に口なし。さっさと退散するわよ」
思った以上に白雨も理解のある人の様で、切られた傷口を軽く抑えながら体を全て水に変換し、多少不安定ながらも先の戦闘よりさらに上空で待機しているヘリに乗り込んだ
「雨様・・・いいの?だって彼女は雨様の・・・」
不安げな撫子の言葉を遮るように、雨の日が口を開いた
「昔の話だ」
晴れの日には意味がよく分からなかったが、首を突っ込める体力もなく、ただ聞き流すことしかできなかった
「さて、お前らもお疲れ様。帰るか!天候荘によ!」
雨の日のその言葉に、誰も首を横に振るものはいなかった
そして気づけば名古屋城の天守閣に立つ6人の姿を、昇る朝日が照らし出していた
「もう・・・朝なんだね・・・雨さんが来なかったら俺たち全員、この朝日は見れなかったのか」
晴れの日がしみじみと生きていることを実感する中、雷火の日もまた、自分の命のありがたみを深く重んじているのであった・・・
ヘリ船内。白雨の様子はいたって健康的で、一時は痛みに苦しんでいたがヘリの乗車している変革者の治療により痛みも引き、何とか体は動くようだ
そして、先の戦闘を思い返しながら怒りに拳を握りしめ呟いた
「・・・黒は私の物よ・・・たとえ誰であれ渡さない・・・私が・・・殺す」
アナザーの本拠地へ向かうその白雨の頭には、雷火の日の晴れの日の謎の力の根源など微塵も疑問に思う余裕が無かった――――




