第二十三話
第二三話
「黙って斬られろ・・・!!」
「いやよ!痛いじゃない!!」
口では呑気な事を言っているものの白雨と雨の日の攻防は下に居る誰の眼でも追う事が出来ていないのだ
雨の日が振り下ろす薙刀は白雨が操る水になぜか防がれる。一見するとただの水の滴なのにもかかわらず雨の日の刃が通らないのだ
もちろん本人も雨の日も理由は分かっているが、下に居る雷火の日と晴れの日には理解できていない
「雨・・・さん?」
晴れの日が苦しみから少し解放され朦朧とする意識の中上空で攻防を続ける雨の日を見守る
だが、そんな中でも徐々に龍脈の目覚めは近づいていて、天守閣の下、つまり城内からものすごい力の塊が溢れ出てこようとしているのを誰もが感じていた
「とりあえずボクたちにできることはもうなさそうですネ・・・あの二人の戦いの行く末を眺めるほか二・・・」
「だな。一応龍脈が飛び出した後白さんが近づけないようにしておこう」
深く深呼吸して乱れた息を整えた晴れの日はその言葉に深く頷く
雷火の日も同じ考えの様で、今はただ、震える大気の中二人の決着を見守るだけだった
「あ、雨様・・・」
撫子が心配そうに祈る中、上空では今もなお二人の戦闘は続いている
振り下ろした薙刀は白雨の手に付与された鋼鉄の水によって弾かれる。だが弾かれた隙すら突かせず雨の日は体を回転させ円運動を利用した強烈な一撃を真一文字に叩き込んだ。さすがの白雨も、斬撃を防いだとしても衝撃で大きく体制が崩れる
「この辺で諦めろっ!!」
「ふふっ・・・いやよ!!」
白雨が指を鳴らすと雨の日の真後ろに三人の白雨の姿を模した水人形が現れる
そのどれもが自立した動きをしており、同時に雨の日に襲い掛かった
「ぐぁっ・・・!?」
いきなりの出現に一体目の水人形が放った熱湯の水流に薙刀でのガードを強いられる雨の日
しかも、その隙を突いて白雨本人は天守閣向けて降下していった
「もっとイチャイチャ遊びたいけれど、今日は龍脈食べに来ただけだから・・・ごめんなさい黒?それにあなたは解と結を殺したんでしょう?仲間に思い入れは無いけれど、一応無駄死ににするわけにはいかないの」
「黒・・・じゃねえ!!てか戻ってこい!!」
どうにか水人形の猛攻を薙刀一本で受け流しながら一体を切り裂くことに成功した雨の日は逃げるように去る白雨の背中に叫ぶも、残る二体に邪魔されて中々後を追いに行けない
下では上空から降下して来る白雨を待ち構えるようにして四人がそれぞれ武器を構えた
撫子は非戦闘員なので巻き込まれないよう距離を置いている
「いくわよ晴れの日!!死ぬ気で守りなさい!!」
「あぁっ・・・つつつ・・・」
まだ若干痛みが残る晴れの日は一度胸を摩った後、紅銃を白雨に向けて発砲する
雷火の日も跳び上がり警棒で白雨に一騎打ちを挑んだ
「兄ちゃん!ボクらも!!」
「ああ!!」
「・・・邪魔よ。消え失せなさい」
先までの雨の日に対する態度とはまさに裏と表だ
雷火の日は警棒を突き出して体当たりする勢いで突撃するも、白雨はそれをまるで見ることなくほんの少しからだを斜めにするだけでかわして見せ、その背中にめるで鉄のような硬さを持った水柱を食らわせる
「けほっ・・・!?」
「雷火!!くそっ・・・!!」
雷火の身が気になる晴れの日だがここは冷静に状況を考えて熱線を放つ。だが放った熱線はあろうことか水で打消しにされてしまった。それも一瞬の速さで、だ。よほど冷えた水なのだろう。じゅぅっと音を立てて水蒸気が溢れかえる
「無理だ!!お前らじゃ足止めすら出来ねぇ!!下がれっ!!」
何とか水人形をすべて一掃できた雨の日は交戦を始めた四人に叫び自らの体を水に変換して白雨以上の勢いで降下していく
「もうっ・・・そんなに熱くならないでよ黒ったら!!」
「雨様!!後ろ!!」
降下しながら振り向き指先でクルリと円を描いたその直後撫子が雨の日の背後に巨大な煮え立った水球が現れるのを捉え、無我夢中で叫んだ
その声が雨の日の耳に届き、雨の日はその場で停止し、足元に水の床を作って薙刀の柄の先端近くを持ち肩に担ぎ目を閉じた。そしてその眼を見開くと同時に
「―――斬ッ!」
薙刀を渾身の力で振り下ろした
その衝撃は斬撃を飛ばしたかのようにも見え、水球だけでなく、天に架かった雲すらも切り裂き月明かりを増やして見せた
「・・・誰?あなた」
白雨の怒りは、水球を切り裂いた雨の比でなく、下に居る撫子に向けられる
そう、撫子の一言は白雨を怒らせるのに十分だった
目に殺意が宿り、目標を完全に撫子に向ける。そのことにいち早く気が付いた雪の日は氷の壁を白雨の目の前に二枚作り出すも、手から放たれる煮え立った熱湯になすすべなく溶かされ、さらに拳ほどの鋼鉄な水球が雪の日の鳩尾を叩き、雪の日はその場で膝をついてもがく
「撫子!!逃げろ!!」
嵐の日が叫ぶも、白雨の殺気に充てられてはうごくこともままならないだろう。それは晴れの日も一度体験しているためよくわかる
嵐の日が暴風で向かい風を生むがそれでも白雨の速度は少ししか落ちない。そうやら足から噴出している水がジェットエンジンのような役割を果たしているのだろう
「いかせ・・・ねぇぞ!!」
「珍しく同意よ・・・!!」
白雨の進行方向に晴れの日、肩で息をしている雷火の日が獲物を構えて白雨の進行を止めようと立ちふさがり、お互いに無我を発動した
だが、白雨はなにも臆することなくため息をつくだけだった
「よせ!お前らじゃ・・・」
雨の日は下に向かいながらも必死に叫ぶ
「無我っていうのはこうするのよッ!!」
雨の日が追い付くより早く、白雨の猛攻は始まってしまった
晴れの日、雷火の日が無我を発動したものの、白雨も無我を発動して見せたのだ
そして、その場で急停止した白雨は雷火の日が動くよりも、晴れの日がうごきだすよりも早く手を天にかざしすこし上空から、先に雨の日が切り裂いた水球と同じものを数十発単位で作り出し、流星群のようにして降り注がせる―――
「くっ!?重すぎて風でも動かん!!」
「雷火、これまずい・・・ッ!!」
「ふふふっ・・・たとえ無我が使えようとも、発案者には適うわけないのよっ!!」
そして、水球は全て名古屋城に降り注いだ――――