第二十二話
第二十二話
「これで・・・ラストっ!!」
「うぐっ・・・あ・・・!?」
縦に一閃の血しぶきが舞い、天守閣は死体の山で瓦もほとんど見えない地獄絵に変わり果ててしまった
長年の経験で慣れた雨の日はどうやら何の心境の変化もないようだが、あまりの酷さに、少しは死体には慣れてきていたはずの晴れの日でさえも思わず何かが逆流して来るのを感じ思わず口を手で押さえる
「うぷっ・・・雨さん・・・この光景はっ・・・」
「・・・あーわりぃ。やっぱ気持ち悪くもなるわな。ちょい待て」
雷火の日達を覆っていた水の防御を分散させ、今度は上空高くにこの天守閣をすっぽり覆えるほどの水球が出来上がる
そして天に手を突き出しその手を下に振り下ろすと、その水球は天守閣目がけて落ちてくる
そして、驚く四人を飲み込みながら天守閣にぶち当たりその水をぶちまけた
「ぷはっ!!何すんだ雨さん!!」
「何って、お前が気分悪そうだから片付けたんだよ」
そういわれて晴れの日は周りを見渡すと、そこには死体はおろか、血も、先の水も一切残っておらずただ、交戦の跡が瓦に残り、月明かりが不気味に照らすだけだった
「あ・・・ほんとだ・・・」
「んな?っと撫子着いたみてーだぞ。ちょっくら連れてくるから雷火達診ててくれ」
それだけ告げると雨の日は体を水に変換して天守閣から文字通り飛び降りて行った
そして残された晴れの日は言われた通り傷を負った三人に駆け寄る
「大丈夫か・・・?」
「えぇ・・・あの天パが止血してくれたから痛みさえ堪えれば何とか」
「二人は?」
雷火の日はどうやら無事なようだ
「ボクらも平気ですヨ~ボクは自分で傷口凍らせたんで大丈夫でス。兄ちゃんはただの貧血ですからご心配なク」
どうやら三人とも無事なようだ
だが、それにしても先の死体を見てもなぜこの三人は平気なのだろうか。そんな思いが表情に出ていたのだろう
嵐の日が口を開く
「・・・俺と雪は見ての通りこの国生まれじゃない。紛争のひどい地域で生まれたんだ。だから殺しも死体も日常茶飯事だったのさ」
「え・・・あ・・・」
自分が尋ねたわけではないのでどうとも返事しにくい晴れの日だが、それでもそんな生い立ちを聞くのには心の構えがなっていなかった
動揺して上手く言葉が紡げない
「わたしは、他の変革者の任務に就いていったことが昔あってね。繰り返してるうちに慣れたわ。でも最初はあんたみたいな可愛いもんじゃなかったわよ?吐きまくったわ全く・・・」
「そう・・・なんだ・・・」
雷火の日も壮絶な光景を目にしてきたのだろう
人の死をこうも多く見る機会など生涯無いと思っていた晴れの日には先の死体の数はかなりのトラウマになりそうだったが、あんがいそこまで思い悩むほどの心的ダメージは無かった
「うーい、連れてきたぞ。撫子、後は頼む」
「まっかせて!それじゃ雷火から治すわよ!晴れの日君は見たところ後回しで大丈夫そうだし!!」
さらっと酷いことを言われたような気もするが、確かに晴れの日の傷の具合はそこまで劣悪でもない
むしろ、放置していても問題なさそうだ。よほど傷口が浅かったのだと勝手な自己解釈をしておく
撫子は三人纏めて治癒の光で包み、一気に細胞を活性化させて回復させる
「さて、とこれでひとまずは防衛完了かな」
撫子の治療が済んだのを確認すると晴れの日はほっと胸を撫で下ろし呟いた
「まぁ、だろーな・・・でも残念だが奴がすごい速さで近づいてきてるぞ。たぶんヘリだあ」
「・・・ボスがまだって訳ね」
やつ、それが白雨の事を指しているのは晴れの日だけでなくその場に居た全員が察したことだ
虚空を見つめる雨の日。だが、その時再び晴れの日の胸が激しく痛み出した
それも、先の比ではない。何かが胸を引き裂くかのような痛みだ
「ぐ、あぁぁぁぁあ!?」
「晴れの日君!?」
様子の異変に気が付いた雨の日は急いで晴れの日の服の前を切るが、そこには先の傷跡があるだけで他に何の異常もない
「ちょ、どうしたんですカ!?」
雪の日も心配になって駆け寄るが、晴れの日の叫びは一向に収まらない
さらにタイミングが悪いことに嵐の日はあるものを視界にとらえてしまった
「・・・最悪だが、白さん来たぞ」
冷や汗を流しながら嵐の日が月明かりに照らされた真っ白なヘリコプターを見据える
「ア・・・ウアァァアア・・・ッ」
されど一向に収まらない晴れの日の謎の痛み
だがこの場で優先すべきは晴れの日ではなく、白雨から龍脈を守り抜くこと
しかも、さらにタイミング悪く大地が、大気が鳴動し始める。この現象は・・・
「天パ!!これってまさか・・・!」
「・・・龍脈を回収するためだけにアイツは来たみてぇだな」
薙刀をまたも構え塚を瓦に打ち付け仁王立ちでヘリを睨む
その様子を見た雪の日と嵐の日は撫子に晴れの日を連れてしゃちほこのそばで身をひそめておくように告げて雷火の日と共に雨の日の一歩後ろに並ぶ
「あら・・・すごい振動ね・・・名古屋城の龍脈はかなりおいしそう・・・」
ヘリの中から一人の気品高い、ストレートな髪をおろし、白い正装に身を包んだ女性が円盤状の水の上に乗りながらゆっくりと降下して来る
「晴れの日君・・・落ち着いて!!」
意識が朦朧とする晴れの日を優しく抱きかかえ、脳の副交感神経に作用する細胞を活性化させる。その制約として撫子はそれ相応の分若返るが、そんなこと気にしていられない
「アァアア・・・う・・・あぁ・・・」
どうやらうまくいったようだ
ゆっくりと晴れの日の痛みが緩和され、飛びかけた意識が戻り目を覚ます
「折角来たところ悪いんだが、龍脈諦めて名古屋観光でもして帰ってくんねーか?」
雨の日はそんな晴れの日に構う余裕なく、白雨に声を投げる
「あら、黒雨じゃない。久しいわね!!元気かしら?」
黒雨・・・確かに白雨は雨の日に向けてそう呼んだ
しかし呼ばれた雨の日は渋い顔で口をきつく結ぶ
「はんっ・・・黒はもうやめたんだよ。今はただの雨の日だぜ、白?」
「あら残念・・・私達の白黒は永遠に不滅じゃなかったの黒?」
口元を手でわざとらしく隠しながら白雨はショックを受けたような顔をする
だがその様子を毛嫌いするかのように雨の日は苦い顔してこたえた
「いつの話だバーカ」
「ひっどい!私達・・・愛し合ってるのに・・・!」
その一言が聞こえた瞬間、雨の日の姿はその場から消えた
そして全員が一斉に視線を泳がせていると、雨の日の姿は白雨の背後に現れていた
「・・・昔の話に興味はねぇよ」
「そう・・・本当に残念・・・」
そして雨の日が振り下ろした薙刀は白雨の能力である水に打ち止められ、水だというのに火花を散らした・・・