第十九話
第十九話
「ってて・・・やるじゃな~いか・・・」
獣化した解は蹴られたおなかを摩りながら呻くようにつぶやいて雷火の日を睨む
その眼は既に怒りに満ちている。どうやら気が短いようだ
その隣では嵐の日の突風で地面にたたきつけられ口の中を切った結が血をプッと吐き、天守閣を赤く染めながらながら立ち上がる
「遅れたわ。けど、大丈夫そうね?首から上はちゃんとあるかしら?」
「あるに決まってんだろ・・・さて、多分コイツらがボスでいいよな?」
実に物騒なご挨拶で思わず苦笑いしか出ない晴れの日だが、すぐに真面目な顔つきを取り戻し紅銃を両手でしっかりと握る
その両隣で双子がそれぞれ戦闘態勢を取り、いつでもどこからでも戦える準備をしていた
「まぁ、そうだろうな・・・っと悪い・・・俺そろそろキツイ・・・」
突然足の力が抜けた嵐の日はその場でガクッと膝をつき左腕から流れる血を恨めしそうににらみつける
「兄ちゃん!!だから無理はしないでとあれほド・・・ッ!」
「晴れの日、多分あいつらはわたしとあんたで倒さなきゃならないわよ。双子はどっちも、これ以上戦うには消耗しすぎているわ」
その言葉だけで晴れの日は現状を理解した
嵐の日が、決死の覚悟でこの天守閣まで突風を巻き起こしてくれたことを・・・
もちろん、失血多量で意識が朦朧とし始めただろう。たとえ雪の日がその傷口を凍らせたところで当然失った血そのものは戻らないのだ
「な~んかいきなりおもちゃ一つ壊れちゃった・・・ま、残り三つで楽しもっと!」
かなりの速度でたたきつけられたはずの結はもうすでに復活している。よほどタフなのか、それとも能力か、今のところはまだはっきりとは分からない
「雷火・・・俺個人的に人をおもちゃ扱いするやつにろくな奴はいないって思うんだけどどう思う?」
結のおもちゃ発言に若干怒りをあらわにしている晴れの日は声を震わせながら雷火の日に尋ねる
もちろん雷火の日も人をおもちゃ扱いする人に良い思いをするはずがなく、結の方へガンを飛ばし警棒を横に一振り
「仝§´ΔΦΨ!!」
申し訳ない。公に公開するにはあまりにもNG過ぎた
「ら、雷火、そんなひどいこと言わなくてもいいじゃないですカ・・・」
思わず味方の雪の日も身が震えた。どんなことを言ったのかは少年健全育成法に基づき伏せておくが、この世の女性が吐くにしてはあまりにもおぞましい一言だ
結と解も開いた口が塞がらない
「口が悪いひとだ~ね・・・その口引き裂いてあげる~、よ!!」
「やれるものならやってみなさい?雪!!少しくらいは援護しなさいよ!!」
解がしびれを切らして両手足を器用に操り本物の狼のような走りで天守閣の瓦をはがし落としながら駆け出す
その瞬間を予測していたように雷火の日も姿勢を低く構えながら重力を前に向け頭から落下する
「ハイな!晴れ!ボクがガードするんで決め手は任せまス!」
「おう!!頼むぞ!」
雪の日は嵐の日の体を安静にさせるため横にならして立ち上がり二人が同時に視界に入るよう一歩下がりながら叫ぶ
その声と同時に晴れの日も駆け出しながら紅銃を引き絞り熱線で反撃し始めた
「同じパッシブ同士なかよく殺ろ~・・・っよ!!」
「やっぱりあんたもパッシブよね・・・っでも残念。わたし犬は嫌いなの、よっ」
鋭い爪と強靭な警棒が激しい火花を散らしながら高速で打ち合う
解の攻撃は両手の爪によるいわば二刀流。大して雷火の日は警棒一本だ
だが、それでも十分に互角な打ち合いを繰り広げている雷火の日の動きはもはやだれの目にも留まることはなかった
「犬、嫌い・・・っ狼と犬は・・・ちが~う!!」
解の一振りが警棒の隙をかいくぐり抜けた。高速の攻防戦においてこの失態は大きな欠損につながるだろう、もちろんそれは、完全に攻撃が当たればの話だが
「雪!」
「セイっ!!」
まるで自分の動きのように完璧なタイミング、大きさで爪の軌道上に氷の盾が現れ寸分の狂いなく爪を弾いた
だが、息の合ったコンビネーションは向こうも同じだ
「解!!」
「んな!?また消えた・・・!?」
晴れの日が打ち出した熱線を難なくかわし、反撃してこないと思った矢先、晴れの日の目先から結の姿が消えたのだ
透明化の能力を疑った晴れの日は腕を胸の前でクロスさせ反撃に備える
だが、次に結が姿を現したのは雷火の日の真後ろだった
「えっ・・・!?」
「壊~れちゃえぇぇ!!」
小太刀を突き出し今にも背後から貫かれそうな雷火の日の姿が晴れの日の目に飛び込んだ瞬間、無我を発動させる
周りの時間がどんどん遅くなりついにはほとんど停止した感覚に陥る
そして、小太刀が雷火の日の胸を捉える前に熱線を結を頭部目がけて打ち放った
その熱線は吸い込まれるかのようにして結のコメカミに迫る。もちろん、時が本当に止まったわけではないので結は熱線に気が付く
大きく見開かれた目には晴れの日の熱線が色濃く焼き付いていた
だが
「はぁ!?」
「あ~たらないよっ!!」
「上デス!!」
無我の速度についてくるなど常人ではまずありえない
雷の日達ならばあり得なくもないが結と解はラスボスという器では無い。つまりアナザーにはこれほどのレベルの戦士がまだ多くいるというのだろうか
心が一瞬折れかける
「晴れの日!スイッチして!!」
「分かった!!」
スイッチ。つまりは入れ替わりだ
雷火の日は警棒で大きく解の爪を弾くと上空の結目がけて重力を反転させ舞い上がり渾身の一振りを放つ
だが、またも紙一重なところで結は完璧な回避を見せる
今度は雷火の日のましたに移動していたのだ
気配が動いたのを感じた雷火の日は反撃を恐れ一度上昇して結を見下ろす。呑気に鼻歌を交えながら落下していく結を見るに飛行能力ではないようだ
そのさらに眼下では、晴れの日と解の攻防が続いている
「ガルゥゥ!グルァァ!!」
「おいおい・・・理性飛び始めてねーか・・・」
言葉もろくに発さなくなった解を不審に思いながらも注意して動きを観察する晴れの日
だが一向に攻撃してこない解とにらみ合いが続く
だが、その沈黙は以外と早く打ち破られることになった。嵐の日の、援護でだ
「のわっ!?」
「グルルルルルル・・・ッ!!」
まさに一瞬の出来事だった。つい先まで晴れの日が立っていた場所には硬質化した尻尾が深々とつきささり、瓦を深くえぐっていたのだ
晴れの日が助かったのは突如吹き荒れた突風のお陰だ
いや、正確には嵐の日の援護のお陰だろう
「悪い・・・油断した・・・」
「全くだ・・・俺はもう、無理だからな・・・?あとはがんばれ・・・」
どうやら本当に残りわずかな力を使ってくれたのだろう
遂に嵐の日は貧血で倒れてしまった。もちろん、死んではいない
「ありがとう・・・さて、遊ぼうぜワンちゃん・・・!!」
嵐の日の援護により解の尻尾にも注意しなければならないと悟った晴れの日はその場から前に飛び出し体を回転させて遠心力を利用した回し蹴りを一気に解の脇に叩き込む
「グ、ルゥゥゥゥ!?」
思わぬ一撃が効いたのか苦しそうな声とむせる音が聞こえた
だが、解が俯いた瞬間尻尾が晴れの日に向けて一直線になり再び硬質化して襲って来る。空中で回し蹴りをしてしまった晴れの日はその攻撃を紅銃で受け流しながら反動で大きく右に落ちる
「重い一撃だな・・・!」
だが、それにより解の不意を突けるであろう死角に潜り込めた。このチャンスを逃すわけにはいかないと晴れの日は無我を再び発動し、磨き上げられた熱を心臓目がけて放った
だが・・・
「グルゥッ!!」
「がふっ・・・ッ!?え・・・!?」
完全に死角を突いたはずなのに解の右手がその熱をきれいに上空に弾き飛ばしその手に生えた鋭い爪で晴れの日の腹を貫く
「まずいデス!!せいヤァァァッ!!」
晴れの日の危機的状況に慌てた雪の日は氷の槍を解の頭上に数本生み出し、そのまま落下させる
だが、その氷は全て落下し始める前に解の尾で粉々に粉砕されてしまった。さらに、破片を目にも留まらぬ速さで左手に収め、その欠片を雪の日目がけてぶん投げる
「ナ・・・あうっ・・・う」
まるで散弾のように放たれた氷は、すべて雪の日に着弾し、全身に小さな穴をあけた
ダメージが大きすぎたのか、その場で崩れ落ちる
「グル・・・っともうそろそろ無我お~わり!!」
ついさっきまで理性を失っていたかのようなうなりだったのが一瞬で元通り。さらに今、確かに解は無我と口にしたのだ
貫かれた腹の痛みに意識が朦朧としながらもその言葉を聞いた晴れの日はアナザーが無我を使いこなしていることに驚愕と絶望を覚え、思わず孤軍奮闘状態の雷火の日を半開きの目で見ると
「は~い、さらにおもちゃ一つ壊れました!!」
何とか一太刀浴びせたのだろうか
結の右手に大きなあざが見えるが、それ以外に目立った傷は無い
それどころか、雷火の日は全身から出血し、天守閣の瓦を吹き飛ばしながら地面にたたきつけられたようでかろうじて意識があるレベルだった
「お疲れさ~ま。こっちも終わった~よ!」
ごみを投げ捨てるかのように晴れの日を投げる解
その痛みに思わず目が限界まで見開かれる
もう、ここで死ぬのだろうか
今更ではあるが正直勝てる気がしない
最初は威勢よく勝負を挑んだが、まさに一瞬のうちに形勢は逆転され、自分たちの未熟差、いや、敵の圧倒的戦力になすすべもなかった
意識が遠のく
「さ~て!白さんくるまで残ったおもちゃで遊ぶか!」
「だね!折角だし・・・ッ!?」
そこで結と解の血相が変わった
恐怖だ
恐怖そのものが二人を締め付け、今までの余裕を消したのだ
一体なんの恐怖が・・・晴れの日は閉じかけた目を懸命に見開き、その眼で天守閣にそびえる金のしゃちほこの上に立つ一人の男を捉えた
「曇り・・・さん・・・?」
出撃前の話では曇りの日が援護に来る予定だった
だが、月に照らされたその姿は、朦朧とした意識でも、曇りの日でないとハッキリとわかった
「ははっ・・・来るのが・・・おそいの・・・よ」
「ま~だ生きてるの!?」
雷火の日が途切れ途切れではあるが捻る出すように声を上げた
殺したと思っていた結はその出来事に思わず振り向くが、その行為はある意味自殺に近いものだ
そのしゃちほこの上から感じる殺気を背中に受けては、気の持ちようがない
恐怖でその身がすくむ
「さて・・・ボクらの、勝ちですネ・・・」
雪の日もまだ生きているようだ
そして、その男はそっとしゃちほこから飛び降りてこう告げた
「あー・・・ちと遅れたな。わりぃわりぃ!でもまぁ、俺が来たからにはもー安心だぜっ・・・って生きてるか?」
飄々としたその口調
くるんと回ったその前髪
そしていつでも余裕そうなこの笑み
雨の日―――――ここに参戦っ