第十六話
第十六話
「あれ?雷火、あの飛んでるのって嵐と雪か?」
先に南の戦場についていた晴れの日はアナザーの一人の腕を関節技で締め上げながら後ろで警棒を振り回し暴れ狂うようにして戦う雷火の日に訪ねた
声を駆けられた雷火の日は嫌々一瞬だけ晴れの日の指した方向に視線をなげて、銀色の髪から判断して軽く頷いた
月あかりに照らされつつ飛んでくる二人の姿はさながら妖精だが、返り血で汚れているあたり、さすがは偽物だと言えよう。なんとも怪奇的情緒が漂う
だが、晴れの日と雷火の日も十分に返り血を浴びていてかなり服が紅い
「二人とも!!ここ劣勢で大変なのよ!手伝ってくれるかしら!!」
上空に向けて死線は投げず大声で叫ぶ雷火の日
その言葉が聞こえたのか嵐の人雪の日はにやりと笑って一気に下降し始める
そして地面すれすれで急停止。その瞬間風圧で何人もの変革者が吹き飛ぶ。そのお陰でできたスペースに晴れの日達二人はとりあえず集合し四人各方位を向いて背中を合わせる
「正直、正門を奇襲されたのはかなり痛手だったようよ。ほとんどここの味方は壊滅。私達だけと思ってもいいかもしれないわ」
冷静に状況を解析し、現状を説明する雷火の日だが、声に若干の不安と恐怖が聞き取れる
だが、四方を数十人の変革者で囲まれれば弱気になるのも当然だろう。先の戦闘で消耗している双子でさえ先手必勝などという無茶はそうできない
だが、銃を構えた少年はまだまだ余力があるようだ
「雷火、俺が前衛行く・・・三人で援護且つ掃討してくれないか?」
その言葉にいち早く反応したのは嵐の日だった
背中を合わせたまま晴れの日の提案に指摘を入れる
「お前の能力は遠距離向けだろう?前衛は雷火に任せるのが定石だ」
その言葉に雪の日も頷くが、ここで晴れの日を助けたのは思わぬ人、雷火の日であった
彼女は三人に聞こえるか聞こえないかの声で少しだけ笑い、笑顔で晴れの日に答える
「いいわ。やってみなさいよ。ただし、あんたは前衛出来てもわたしは後方出来ないから、できれば共闘がいいわ」
「ちょ!?何言ってるんですカ!!」
「雪、ここは任せてくれないか?俺らだって十分鍛えてきたんだ。今更数十人相手にしり込みなんてしてられない!」
その眼は熱く燃えている
まるで太陽のような輝きとやる気を持った目に思わず雪の日も抗議の声をやめ、小さく頷いた
無論、嵐の日もやれやれと首を振りつつも不気味な笑みで試すようにこう告げる
「分かった。でも、少しでもこぼしたら俺らがお前ら毎葬るからな?」
「そ、そこは敵だけにしてよ!?まぁ・・・こぼさないけどね!」
紅銃を構え、警棒を構え、二人は雄叫びを上あげながら地を蹴って走りだす
それが合図となり、周囲に弾かれた変革者も四人目がけて駆け出した。だが、雪の日と嵐の日が完璧な援護をしてくれる
まず、嵐の日の突風が軽量級の変革者達をさらに後方に吹き飛ばし、雪の日が氷塊で押しつぶしたり、足を凍らせて無力化していく
その援護に感謝を唱えながら晴れの日は背後からついてくる雷火の日の存在を確認しつつ紅銃を正面から走ってくる大柄な男の急所目がけて放つ
「ぐほぅ・・・っ!?」
「雷火!正面頼む!!」
その変革者が膝から崩れ落ちるのを視界の端で確認しつつ、正面から少し遅め、であれど十分に高速で迫ってくる大量の砲弾を雷火の日に託すため、その場でいきなり頭を低くしてしゃがむ
「あんたは右っ・・・双子―!!左頼むわよ!!」
晴れの日の背中を踏み台にして前傾姿勢を取りながら警棒を前にまっすぐ構え砲弾の雨に突っ込む
その行動を確認するより早く晴れの日は紅銃の引き金を引き絞り、右から
迫ってきている変革者をまたも的確に打ち抜き、立ち上がる
砲弾に突っ込んだ雷火の日だが、砲弾の距離が警棒の射程内に入った瞬間無我を発動し、誰の目にも留まらぬ速さですべてを撃ち落とした
「流石だな!」
思わず感嘆の声が上がった
だが、その横を高速で氷の槍が飛び去り、悪寒が全身をかけめぐった
その発射元を目で追うと、双子が軽く手を合わせすまんと苦笑いで誤っていた。戦場でいちいち突っ込んでも居られないと晴れの日は軽く頷いて再び前に集まる変革者に対峙する
「晴れの日!わたしはコイツらの後ろから攻めるわ!あんたは前からお願い!」
「了解!!」
それだけ告げると雷火の日は一度双子に振り返り、右手で双子の背後を指し、こちらへの援護でなく、背後に迫る自分たちへの攻撃に備えろと伝えた
その伝達はうまくいったようで、双子は素早く反転し、氷のマシンガンを撃ち始めた
「さて、晴れの日に前は任せてっと・・・!」
その場から跳躍し、変革者の上を難なく飛び越え背後を取る
そして呆気にとられつつも戦闘態勢の変革者達に警棒を叩き込み、次々となぎ倒していく
その反対側では、晴れの日が変革者の能力を紙一重のギリギリな回避でなんとかかわしつつも、瞬間瞬間で無我を使って殴り気絶させたり、熱線で貫いたりと見事な立ち振る舞いで数を減らす
「こ、コイツら強いぞ・・・がぁっ!!」
「こ、こんな危険な任務なんて聞い・・・ぐふっ・・・」
「逃げるなら・・・今の内だぞ?」
月夜の下不気味に戦闘を楽しむ妖精二人は一歩も変革者を近づけることなく圧倒していく
そのかいあってか、恐れをなした変革者達が次々と尻尾を巻いて逃げ出して行った
「あっけないデスネ・・・とはいえ、疲れましタ・・・」
流石の偽物妖精の双子と言えど連戦による消耗には勝てない
嵐の日は特に失血の危険があるのだ。とりあえず今は雪の日が凍らせているものの、今後も連戦が続けばすぐに気を失うだろう
「あの二人に頑張ってもらうしかないな・・・」
視界がふらつき、思わずその場に座り込んでしまう嵐の日
それを心配そうに見ながら雪の日は視線を晴れの人雷火の日に向けた
視界の先では、ついに残る変革者も数人となり、月に照らされ返り血で少し不気味見える二人の姿が
「これ・・・で!」
晴れの日が変革者の腹に二発引き金を引き
「さい・・・ご!」
雷火の日は脳天に警棒を500kgで叩き込む
「・・・選べ、死ぬか逃げるか」
最期の一人になった変革者の額に晴れの日は紅銃を突きつける
おもわず反射的に両手を上げる変革者だが、さらに背中に何か突起が当たるのを感じ一瞬体を痙攣させながらも振り返る
その突起は雷火の日の警棒であり、背後からもまた威圧の目が投げられていたのだ
「あ・・・いあ・・・その・・・う、あっ」
最期まで何も言わないまま、二人に脅された変革者はあまりの殺気と恐怖にその場で立ったまま泡を吹いて失神してしまった
「ふぅ・・・流石に疲れた・・・ってか血やべぇ・・・夜中に血まみれって怖いな」
冗談交じりに晴れの日が自分の体に着いた返り血を気休めに手で払う。だが落ちることもなく、ホラーな絵面は残っている
雷火の日もかなり汚れていて、いつもの雷火の日の恐怖とはまた別の、本格的な狂気を感じるほどだ
警棒から滴る血など、まさに恐ろしい
だが、これで正門の掃討及び外周の防衛は終了だろう。だが、すでに中にもアナザーが居る事は間違いない
「そうね・・・選択しても落ちないかしら・・・ってそれよりこれからどうするのよ」
「そうですネ・・・城内から救援信号が出ない限りはここで見張っていた方がいいと思いますヨ」
雪の日は少し考えたが、今のところ中から何も連絡の類が来ないので恐らく蹴散らしたのだろうと信じ、全員死んだ可能性を半ば強引に脳内から排除する
「雪、救援信号ってどんなんだったかな」
「兄ちゃん、あれですホラちょうど今上に上がって行ったあの緑色の花火のようナ・・・あ」
「・・・あれ、だよね」
丁度話始めた瞬間、四人の頭上に緑色の花火、というより照明弾が打ち上げられた
もちろんこれが表わす意味は・・・
「城内がやばいのよ!急いで援護に向かいましょう!」
「雪と嵐!走れるか!?」
見るからに消耗している二人の身を案じ晴れの日が尋ねる
「あったりめーだ・・・」
「だい・・・じょぶデス」
正直、意地で立ち上がったようにしか思えないが戦士の意を汲んで晴れの日はあえて何も言わない
雷火の日も晴れの日に習い、黙ってうなずく
「じゃぁ走るわよ!!あの救援信号はかなり上層だけれど天守閣ではなかったわ、まだ間に合うかも知れない!!」
「よし、行くぞ!!」
正門をくぐり、観光用に整備された道を駆け出し城内に突入していく四人
すぐ近くで血の匂いが充満していて、すこしばかり気がめいりそうだが戦場であることをしっかり意識してその思いを断ち切る
―――その時一瞬、晴れの日の中で何かが跳ねたような気がした