第十四話
第十四話
「っらぁ!!」
紅銃で顎を殴り一撃で巨体を沈める。そしてそのまま背後に向けて熱線を一発。その熱は背後約6m先にいた変革者を打ち抜き声も上げずに事切れる
その上空では雷火の日が警棒を残像が生まれるほどの速度で振り回し飛行能力の変革者を次々と地面にたたき付ける。と言うよりめり込ませている
「雷火!俺も上にあげてくれ!!」
「ったく・・・それに掴まりなさい!!」
上空に叫んだ晴れの日の元に一本のロープが投げられた
そのロープを手に結び付けた瞬間、雷火の日の能力でロープが浮かび上がり、それに引き上げられるように晴れの日も上昇を始める。そしてその状態で眼下に広がる戦闘を一望しつつ危機的状況の変革者を助けるように援護射撃で応戦していく
「後十人くらいか・・・?」
「そうね・・・空飛べる変革者はもういないと思うわ。それに地上もほとんどが天候荘の人たちよ?どうする?先に進んで城内を一応見に行く?」
援護射撃を続けながらも晴れの日は少し考える
だが、どうせなら完封して全員で援護に行く方が勝率は確実に上がるだろうと思い立ち、首を横に振った
「いや、ここを防衛しきってから次に行こう!俺は降りるけど雷火はどうする?」
「わたしも降りて戦うわ」
そう言って二人は地上に降りて再び戦いに身を投じた
「そこか・・・俺たちの安眠をぼーがいしやがった野郎どもは・・・」
左腕からポタポタと血が滴るその様は実に痛々しいが、痛覚の無い本人には全く痛みはない
高速で飛ぶ二人の前に戦場が現れ、火の粉が舞って来る
「兄ちゃん、氷塊落とすのデ、お仲間さんの救出お願いしますネ?」
「・・・しかたねーな。ただしやりすぎて誤爆はするなよ?」
ニヤリと笑うだけで雪の日からの返事はない
だがすでに上空に氷の塊が生まれ始めていた。その大きさは現在目の前で争い合っている戦場の半分ほどの大きさで、直径20mの氷塊だ。これをそのまま落とすつもりなのだ
もちろんそんなことをすれば逃げ遅れた仲間の変革者は巻き添えを喰らうだろう。だからこその嵐の日の能力だ
暴風で、氷塊の攻撃範囲内から追い払いアナザーだけを残す、そういう寸法だ
「えーっと・・・アイツはうちの奴で・・・あれ?あぁ、あれはちげーか」
選別しつつ怪我しない程度に吹き飛ばいていく。そして一瞬のうちに全員を吹き飛ばし終えたその時、雪の日の氷塊も完成したようで右手を空に掲げている
「いいですカ?」
「おう」
端的な合図で雪の日は手を振り下ろす。それに呼応して氷塊が落下し始めて夜の名古屋城を震えさせるような振動を生みながら地面に突き刺さった
当然、かなりの数の変革者を下敷きにしただろう。だが、この悪魔のような攻撃にアナザーたちはその手を止める
「ちっ・・・腰抜けばっかかよ」
嵐の日は暴れたり無いのだが、どうやら戦意の大半を失ってしまったようでこれ以上の戦闘が望め無さそうだ
実にあっけない
だが、その中から一人の少女がふらっと現れ雪の日と嵐の日目がけてワイヤを銃のように打ち出してきた
もちろんその攻撃は簡単に雪の日が氷で弾き、なんの傷も負わなかったがその少女の後ろから現れた大群にデジャヴを覚えた
そう、変革者達が洗脳されていた収容所のあの時と同じなのだ
千鳥足に死んだような目。恐怖など微塵も感じていないその顔
だが、二人の目は恐怖でなく歓喜が宿る
「おー来た来た、わりーけど俺らの鬱憤晴らさせてもらうぞ!!」
「兄ちゃん、一応あの人たちはまだ洗脳されて日が浅いようですヨ?気絶にしまショ」
その横槍に顔をしかめながらも仕方ないとため息をついた嵐の日はゆっくりと地面に雪の日と共に降り立ち、足元の砂利を眺めた
その砂利は親指サイズの意志が多く、嵐の日にとっては手ごろな大きさだ
なにが手ごろかというと・・・
「雪、次は俺の番だ・・・ふっん!」
くるっと指を一回転させると突風が嵐の日の周りにある小石を舞い上げ宙に浮かせる
そして回転が加わり始めた
「んー・・・ミゾに入れりゃいーだろ。そら、よっ!」
つきだした指で凸ピンをすると、浮いていた石が猛スピードで加速し、洗脳されている変革者の溝を打つ。もちろん貫通しない程度且つ気を失うレベルの衝撃だ
だが、防御系の変革者が張ったシールドや、なんらかの回避能力を持った変革者はそれを防いだ
軽く舌打ちをする嵐の日
「兄ちゃん、そのチョーシで頑張ってくださいナ。ボクは洗脳の能力者探してきますデス」
「おう、頼んだ」
目を合わせることなく淡々と会話を済ませ、再び嵐の日は石を洗脳された変革者に撃ち始める
雪の日はそれとなく隠れられそうな場所を手始めに探すことにした
名古屋城から少し離れたところは木で生い茂っており隠れるのには十分だ。まずはそこから探そう、と歩き始めた時
「ア・・・なんか来ましたネ」
上空からすごい勢いで迫ってくる気配を感じた雪の日は歩みを止めて自分の上に一枚の盾を作る。その刹那、ガツンと鈍い音が響き雪の日の氷にひびが入る
余裕たっぷりの雪の日ではあるがこのヒビには素直に驚いた
「ほお・・・ボクの氷にヒビをですカ」
「・・・」
どうやら洗脳されている変革者のようだ。両手で身の丈ほどある巨大ハンマーを持ち、今にも襲い掛かってきそうな勢いで構えている
その眼はまるで生気がなく、ただの殺戮マシーンに等しかった
「兄ちゃんなしでもボクが強いってところ見せないと・・・示しがつきませんネェ・・・」
やれやれと首を振り、二振りのダガーを氷で生成して逆手に構える。それが開戦のきっかけとなったのか、洗脳された変革者はハンマーを勢いよく振り上げて雪の日目がけて振り下ろす
だが、雪の日は全く動くことなく氷の盾を今度は二枚生成して防御する。当然盾にハンマーはぶつかり、一枚を粉砕しながら二枚目に襲い掛かる。だが、一枚目が敗れ二枚目があらわになった瞬間、洗脳された変革者は上体を後ろにそらし攻撃の手を止めた
その行動は半分正しく、半分間違いだ
「テ~イッ!」
緊張感のない声があたりに響き、二振りのダガーが隙のできた体に襲い掛かった
だが洗脳された変革者は避けられない。なぜなら、盾だと思っていたその氷は一枚目が破られた瞬間姿を変え槍になって突き出してきていたのだ
だが、それもフェイク。本当の狙いはこのダガーだ
「ッ!?ハンマーが変形ですカ!?」
地面に置かれていたハンマーの先端の丸い鉄の塊が槍のように変形して雪の日のダガーを弾き飛ばした
間一髪腕までは持っていかれなかったが、一歩間違えれば腕をすっぱり斬り落ちされていただろう
「成るほど・・・金属の操作ですカネ。まぁなんでもいいですけど、ネ!」
再びダガーを作りながらも、洗脳された変革者の上空に氷塊を生み出してそのまま重力に従い落下させる。再び洗脳された変革者のハンマーが姿を変え、氷塊の軌道を反らし雪の日の攻撃をしのぐ
だが当然雪の日の攻撃は終わらない
「そぉっイ!!」
ダガーの刀身を打合せる動きに呼応して左右の地面から氷柱が突き出し鋭い先端を洗脳された変革者の脇腹に突き刺す
流れるような一連の動きに洗脳された変革者は対応が遅れ、その氷柱が直撃してしまう
だが、それでも変革者は怯む様子が全くない
まるでゾンビだ
「ムム・・・面倒ですネ・・・無視して洗脳者探したほうが良さゲ・・・」
腕を組呑気に敵前で考え事をする雪の日に当然、好機とみなした変革者はハンマーの金属で脇腹に深々と突き刺さる氷柱を砕き、そのまま触手のように雪の日に向かって襲い掛かった
だが、雪の日は特に気にすることなく左手で、虫を払うようにシッシとふった
その瞬間雪の日と変革者の間に一門の大砲が現れ、その銃身から氷塊が銃弾の如き速度で打ち出された
「・・・っ!?」
一瞬の出来事で変革者はなぜ自分が宙に舞っているのか全く理解できなかった
だが、すぐに雪の日に飛ばされたのだと思い出し、その視線を雪の日が居る・・・いや、いたはずの場所に移す。しかしそこに見えたのは今変革者を弾き飛ばした大砲だけで雪の日の姿は無い
慌てて探すと自分の吹き飛ばされている進行方向に人の気配を感じた
「ハンマーも手から離れましたシ、これで決着デスネ・・・!」
ダガーを順手に持ち替え迫りくる変革者目がけて突き立てる
その刃は深々と両の肩に突き刺さり、鮮血をまき散らしつつ健を切り裂き変革者の腕を使えなくすることに成功した
「悪く思わないでくださいナ。ボクらの安眠を妨害したバツです」
それだけ吐き捨て、まだ戦おうとして体の節々を痙攣させている変革者に手をかざし、全身をきれいな氷の彫刻に変えてしまう
一応殺しはしていないが、雪の日が氷を砕くまで永遠に氷漬けのままだ
「それにしても・・・どこにいるんですカネ・・・」
その時、ガサっと草木が揺れる音が聞こえた
明らかに風ではない生き物の動いた音だ。だがこん戦場で逃げ出さない動物はまずいないだろう。それが意味することは・・・
「なぁんダ・・・ここにいたんですカ。貴方が洗脳の変革者サン?」
「ひ!?バレた!!」
草陰に居た変革者を雪の日は探し当てた。だがその男は見つかるや否や慌てて180度体を反転させはいつくばって逃げ出す
「ア!コラ!!にがしませんヨ!!」
急いでその後を追う。だがどういうわけかその男はかなり足が速い
普段動かず戦うということを差し引いても雪の日との距離がどんどん離れているのが目視でもわかる
よく見てみればその男は以前晴れの日が戦った宋だ。どうやら爆発から逃れて生き延びていたらしい
「無駄だよ無駄ァ!自分で自分を洗脳して常人以上の筋力が出ているから、ね!」
言い終わるその瞬間膝を深く曲げ、伸ばす勢いを使って10m以上ある木の上に飛び乗った
まさに人間離れしている動きだ
「はん・・・!追ってこられるかな!!」
「くッ・・・」
流石の雪の日も凍らせることが出来ても恐らくその攻撃が当たることはないととっさに理解する。宋は悔しそうに木の下まで来た雪の日を嘲笑い、その後超人的な跳躍力で木から木へと飛び移っていく。氷で足止めは出来ないし、このまま逃がせば天候荘側の勢力にも大きく影響する。まさに大ピンチだ
だが、救いの手はすぐに差し出された
「・・・おいおい、バトンタッチか?」
「兄ちゃん!!」
背後から声をかけられ、勢いよく振り返ると、そこには風を巧みに操りまるで蝶のように舞う嵐の日の姿があった