第十三話
第十三話
その夜、特に変わったこともなく、日が出ているうちはアナザーの姿は見られなかった
それに龍脈も現れる気配もなく、どうにか今日は無事に済みそうだ
就寝前にランタンに明かりを灯し、それを四人で囲む
「さて、これから見張りを交代でやりながら寝っぞ?最初の見張りは俺がやる、後はおめーらで自由に決めてくれ」
少しでも持続的に寝続けたい嵐の日は真っ先に一番最初の見張りに名乗り出た
もちろん、それを否定するものはいない。嵐の日の能力の制約を知っているため、少しでも多くの血を生成してほしいのだ
次に名乗り出たのは雪の日だった
「ボクたくさん寝ないと機嫌悪くなるんデス」
雪の日らしい理由だと思う。特に否定する必要もないので雷火の日と晴れの日は賛成した。そしてその次の見張りを担当することになったのは晴れの日だ
「それじゃ、わたしは最期ね。お先に寝させてもらうわよ?おやすみなさい」
「俺も寝るわ~嵐、よろしくな!」
「任せておけ。まぁこの様子だと今日はこなさそーだがな」
ははっと笑って晴れの日は自分のテントの中に潜り込み、毛布と掛布団をかぶり瞼をおろし、力を抜く
するとすぐに睡魔がやってきて晴れの日を夢の世界に案内してくれた・・・
「あ・・・また明晰夢・・・」
晴れの日はまた明晰夢を見た。自分は宙に浮いていて下を見下ろしている
そこに、前の人とは別の人物が現れる。顔はハッキリと見えないがなんとなく前回とは別だと思う
『違う!拳はまっすぐ、正確に!』
『ぐすっ・・・もうやりたくないよぉ・・・』
親子・・・だろうか
男性が小学生程の男の子に対して必死に空手の型のようなものを叩き込んでいる
子供はというと、どうやら好きであっているわけではないようで半べそ書いて半ば無理やりやらされているのが傍目でもわかる
だがこれはただの夢。明晰夢であろうとも打開策があるわけでもないのだ
晴れの日はその光景を黙ってみていた、すると
『いいか!お前の能力は使い方次第で拳に乗っけることもできるんだ!!お前の中に眠る――は―――』
『それどーゆーいみ・・・?』
何故か途中の単語だけにノイズがかかり聞き取れなかった
だが、そんなことを考えているうちに、意識がどんどん引き戻されているのが感覚でわかった。それに、夢の中のその二人もだんだんと姿が消えている
そして、完全に意識が覚醒した―――
「ふわぁぁ・・・っとそろそろ交代か・・・あれ?なんか夢見たような・・・まいっか」
つい先まで見ていたとはいえ、晴れの日の意識が覚醒したとき彼はついさっき見た夢の内容を覚えてはいなかった
だがいちいち夢の内容を思い出そうとする必要もないため、自分のテントから出る
「うーい雪、見張り交代するぞ~」
テントから出るとランタンの前に座っている若干うとうとしている雪の日に話しかけた
雪の日は晴れの日の声に気が付き眠たそうな顔で振り向く
「おヨ、もうそんな時間でしたカ。では交代しましょうかネ」
そう言ってのっそりと立ち上がる。どうやら相当な睡魔と闘っていたようだ
そして目をこすりながら自分のテントに戻った雪の日を横目に晴れの日はランタンを眺めながらその場に座り込んだ
「さて、と暇だな・・・軽く目覚まし程度に筋トレしつつ見張るかな」
現在時刻は夜中2時と少し。この時間ならばもうアナザーが来ることもそうそうないだろう
それに龍脈も現れそうになく、彼は完全に油断をしていた
すると、つい先まで夜道を照らしていた月明かりが消える。不審に思った晴れの日は上空を見上げると、巨大な雲が現れて月を隠していた
「曇って来たな・・・雨降らなきゃいいけど・・・」
だが、よく見れば不自然だ。雲なのに切れ端の部分が綺麗な曲線と滑らかなカーブでできている。どう見ても雲ではない
そして、豆粒ほどではあるが大量の何かが降ってくるのが見て取れる
「あれは・・・?」
あまりにも遠すぎて何も分からない。ただ、あの現象が自然現象ではないことは明白
目を擦りじーと凝視し続けていると、遠くで誰かが叫ぶ怖えが聞こえた
「アナザーだぁあ!!全員、戦闘準備ィィィ!!」
「んな!?来やがったか!?雷火!雪に嵐っ起きろ!」
急いで三人を叩き起こす
雷火の日は戦地で熟睡するようなたまではないので軽く声をかけただけで目を開き、すぐに状況を察してテントの上空、異様な雲を見つめた。そしてその正体と大きさに気が付き眼をさらに見開き叫ぶ
「急いで準備しなさい!!奴ら、天守閣をせめ落として城を乗っ取るつもりよ!!多分南口の正門から突破しに来る班と上空から攻める班が来るはず!!」
この短時間でよくそれまでの把握が出来たものだと晴れの日は素直に感心したが、今はそんなことしている場合ではない
雪の日と嵐の日を激しく揺さぶりとにかく叩き起こす
「んだよ・・・まだ寝かせろ・・・」
「デスよねぇ・・・ボクもまだ眠たいデス・・・」
目を擦りのそっと顔だけ出して再び寝ようとする双子
「おい!?いいから起きろって!アナザー来たぞ!!」
その言葉を聞いてさすがに二人も意識が覚醒したようだ
ゆっくりと立ち上がり、ぼさぼさな銀色の髪をなびかせてゆらゆらと立つ。その眼は睡眠不足か、二人とも血走っていてさながらホラー映画の殺人鬼誕生シーンの様だ
そして安眠を妨害されたことに対する苛立ちを見せ、体の周りに冷気と空気が纏わり出す
「俺と雷火で西の方までを倒してくる!2人は東でいいか!?」
「殲滅スル・・・」
「氷漬ケパーリナイ・・・!」
なにやら恐ろしいことをぶつぶつと呟きながら二人はひたっ・・・ひたっとふらふらな歩き方で歩き始める
そして、数歩歩いたあたりで嵐の日がポケットからカッターのようなものを取り出し自分の左腕を切りつけて、血を流した
「行くぞ・・・」
「さっさと終わらせて寝ましょう・・・二人も早めに終わらせてくださいナ?」
その血が一瞬光り、嵐の日と雪の日の体を空気が包こみフワッと上空に舞い上がる。そして少し上昇したときに雪の日が晴れの日達に声をかけた、と思ったときにはもうすでにその場から消えたかのような速度で飛び立って行ってしまった
「・・・俺、まだ何も返事してねーよ」
なんだか取り残された気がした晴れの日だが、西の方から聞こえた爆音と断末魔で再び戦場に赴く気持ちを改める
「早く準備しなさい。わたしたちも行くわよ」
「おう・・・走るぞ!!」
紅銃を右手に構え、西で起きている戦場に加勢しに駆け出した
名古屋城の周辺の地面は砂利のような石が敷き詰められており、少しだけ走りにくく戦闘にも向かなさそうだ
だが、遠距離攻撃の晴れの日には関係ない。つまり加勢できれば形勢は一気に天候荘に有利になるだろう
そして数分ほど走ると、名古屋城の角が見えてきた。そこを曲がれば戦場だ
「わたしは上から行くわ!!あんたは援護と負傷者の救助をお願い!!」
このアナザーの戦闘方法はいわゆるゲリラ戦だ。これだけ急に攻められてはいくら鍛えられた戦士たちと言えど負傷者なしに防ぐことは出来ないだろう
「分かった!!んじゃカウント合わせて飛び出すぞ!3――2――1――GO!」
カウントダウンに合わせて足をそろえた晴れの日と、GO合図で飛び上がる雷火の日
軽くスライディングしながら左手を地面に着き、ブレーキ代わりにしながら右手で紅銃を構える。と、そこは既に激しい攻防戦で数十人での攻防が繰り広げられていた
まず視界が捉えたのは鎌を持った男が背中を向けて別の男と戦っている天候荘の変革者に切りかかろうとする瞬間だった
「させっかよ!!」
地面が砂利のせいで中々停止せず的が定まらないが、晴れの日は男をじっと見据え引き金を引く
放たれた熱線は寸分狂わず鎌を持った男の背中を貫き、鮮血を吹きだしながら貫通した
「ふぅ・・・っと!負傷者探さなきゃ!!」
「晴れの日!!10時の方向に二人負傷者!!」
その時数メートル程上空から雷火の日の声が聞こえた。だがわざわざ雷火の日の顔を見ることなく、指示された方向にまっすぐ走る
「おらぁぁ!!」
まっすぐ駆け出した瞬間横からアナザーの変革者が放った波動のようなものが晴れの日目がけて襲い掛かってきた。だが、それは当たることなく、消散していった
「まったく・・・援護はあんたの担当でしょうが!」
警棒で波動を打ち消した雷火の日が皮肉ったような口調で罵る
だが晴れの日は軽く笑うだけでいちいち突っ込みはしない
戦場において余計なおしゃべりは禁物だからだ。もちろん雷火の日も晴れの日からの返答を期待しているわけではない。すぐに飛び上がりつつ、目の前に居た男を蹴りあげて脳を揺らし意識を刈り取る
「さて、どこに負傷者が・・・っ!!」
背後に二人の気配。それも殺気。距離は右後方の方がやや近い
そのことを瞬時に察した晴れの日はわざと一歩ステップで後ろに下がり右足を右回りに振り蹴る。その蹴りは見事読み通り男の脇腹に吸い込まれ、相手の走ってきた勢いと晴れの日の蹴りの勢いが合わさりあばらを砕いた
「もらったぁぁ!!」
その隣から男が右ストレートを放つ
もちろんそれも予想していた晴れの日は、軸足の力を抜きその場に仰向けに倒れ込む
そして空を切った男のストレートを鼻で笑いながら見過ごし紅銃の引き金を引き胸を打ち抜く
「悪く思うな?」
それだけつぶやき倒れる男を横目に負傷者を探した
すると少し先に肩から流血している二人を見つけ、急いで駆け寄る
「おい!大丈夫か!!」
「あ、あぁ・・・なんとか・・・」
止血しないとやばそうな流血だ。一人はもうかなり失血していて顔色も白くなってきてしまっている
「とりあえず安全なところへ!!んと・・・向こうなら戦闘がすくないからそっから逃げろ!その後は北へ行けば戦闘はほとんどない!」
「あ、ありがとう・・・でも、こいつはもうさすがに・・・」
先まで少し息があった男の息はもうかなり浅い
それに出血の量からしても助かる確率は無いだろう。だが、見捨てることは出来ない
何とかならないかと晴れの日は知恵を張り巡らせる。そして一つの賭けに出た
「とりあえず、傷口はふさぐ・・・あとはこいつ次第だ!!」
「どうやって・・・?」
晴れの日は紅銃を取り出す。そう、熱して傷をふさぐのだ
かなり強引だし、成功しても助かる保証はない。だが黙って見過ごせない
「頼む・・・我慢してくれ・・・!」
引き金を引き絞る。じゅぅぅぅっと肉が焼ける音が鳴り、それと同時に男の顔が悲痛にゆがむ
だが、確実に傷口は塞がった
「あ・・・うぅ・・・」
「っつ・・・あとは頼んだ!俺はまだここに残るから!!」
「助かった・・・気を付けてな・・・」
男は意識のほとんどない男を怪我のない肩で支えながら歩き出す
それを少しだけ祈るように見つめた後、晴れの日は再び戦地に戻る
「晴れの日!ざっと見てきたけどどうやら救護班が着いたようよ!負傷者は任せてわたしたちは掃討に加勢しましょう」
「OK!とりあえず・・・」
何を考えたかゆっくりと引き金に指を構え、紅銃をまっすぐ雷火の日の額に向ける
そして雷火の日も警棒を居合斬りのように腰にさす
「しゃがめ雷火!」
「飛びなさい晴れの日!!」
息の合った二人の動きが、互いの背後に忍び寄っていた変革者のそれぞれ意識を刈り取った――――