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変革者  作者: 雨の日
第四章~雨降リシ夜二~
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第十一話

第十一話



「まず、花の園A班が周辺1キロ圏内の警備!」


会議室のような、円卓の机に各班の代表者が集まり、真剣なまなざしで雷の日の指さす名古屋城周辺の地図を見つめている

全部で一体いくつの班が参加しているのだろう。かなりこの部屋は広い。だがそうであるにも関わらずすべての席はきっちり埋まっているのだ

そして、晴れの日と雷火の日、双子の四人もしっかり席に腰を下ろし話を聞いている

だが、双子は正直眠たそうだ


「・・・そして残りの全班で城の中の警備!天候組の四人は外を中心的に見まわってて!」


次々と班が呼ばれ、最後にようやく晴れの日達の班の名が呼ばれた。どうやら外からの侵入に備えた布石なのだろう

ここまで大がかりな任務初参戦の晴れの日と雷火の日は雰囲気に圧倒されて口の中が乾く


「はいナ~」


「了解」


流石は場なれているだけのことはある様だ。双子が眠たそうにではあるが返答をしてくれたので緊張している晴れの日には救いの手だ


「じゃぁみんな・・・きっと激しい戦いになると思うけど、ゼッタイ死なないで帰ってきてね・・・!」


その言葉を聞いたとき、晴れの日は気づいた

この任務で全員が確実に五体満足で帰ってくる保証はないと言うことに

雷の日はああいっているがそれはあくまでも願いであって、現実じゃない。戦闘が開始すれば確実に人は何人も死ぬだろう

もちろんその中に晴れの日達が含まれない保証も無い

だが、そのことを皆が分かっている状態であるにも拘らず、全員が拳を高く掲げで雄叫びを上げた


「・・・みんなすごいな、死ぬかも知れないっているのに」


晴れの日が圧倒されながら雷火の日に耳打ちした

どうやら雷火の日も晴れの日と同じようにこの場の雰囲気に圧倒されているようで額に一筋汗をにじませながら口を強く結んだ


「・・・あんたは怖いと思わないの?死ぬことが」


唐突な質問だった

雷火の日は雄叫びを上げた変革者達の方を見ながら晴れの日にだけ聞こえる声の大きさで尋ねてきたのだ。いきなりの質問に晴れの日は困惑した顔をするがすぐにいつもの明るい表情に戻り一言だけ簡単に答えた


「別に。人の生き死になんて・・・一瞬の事だから」


その答えに雷火の日は驚き、目を見開いた

少し前は人の死が嫌なようなそぶりを見せていたというのにこの変わりようは一体何があったのだろう、と。だが晴れの日の目を見た雷火の日は全てを悟ったような微笑みを浮かべた


「・・・気合入れてきたのね。目付き、男らしくなったじゃない」


「え・・・!?」


思いもよらない一言に晴れの日は思わず声をあげてしまった

当然、全員の視線が晴れの日に向けられた


「あ・・・なんでもないです・・・」


しゅんと小さくなる

その光景を隣で見ていた双子が面白そうにニタニタと笑っているのが視界の端に移り込んでいた

何か言おうとも思ったが今のは完全に晴れの日が原因であり反論も訂正の余地もない

顔を伏せて雷火の日に先の言葉の真意を問う


「なぁ・・・雷火さっきの・・・」


「・・・てなわけで解散!みんな荷物纏めたり色々大変だと思うけど、よろしくね!!」


だが残念。ちょうど会議が終わってしまい自室に戻る変革者達の騒音でかき消されてしまった

こうなってはタイミング的にも聞き出しにくい


「さて、わたしたちも戻りましょうか。今夜はゆっくり寝ましょう?」


「ですネ」


「や~っと寝れんのか・・・」


雷火の日を筆頭に双子も立ち上がり自室に向かって歩き始めた

そして晴れの日は完全に雷火の日に今の言葉の意味を聞き出すチャンスを失ってしまった・・・









「さて、ととりあえず食料とかは現地で貰えるし紅銃は腰に装備だし・・・服くらいしか持っていくものないな」


キャリーバックを前に、自分の荷物が少ないことに若干の不安を覚えつつも、着替えを詰め込んでいく

話によれば、現地で服も洗濯可能らしいので、さらに荷物は減るだろう

制約が消耗品でなく、助かったともいえる

だが、なにか一つくらい戦闘において役立つ武器が欲しいところだ

と、その時部屋のドアがノックされた


「はーい?」


「ハレ!フレディだよ!」


どうやらフレディのようだ

晴れの日は荷作りをする手を一度止めてドアを開けた

そこには何やら大きな箱を両手で抱えたフレディが満面の笑みで立っている


「突然どうしたの?」


「ふっふっふ!実は、ハレにpresentだよ!」


そういいながら箱を開けて中から黒い腕時計を取り出した

文字盤はアナログ式で、重さはとても軽量だ


「かっけぇ!これ、買ってくれたの!?」


だがフレディは指を左右に振りながらウインクをかます


「友人に頼んでmakeしてもらったよ!これ、すごく固いんだ!タテにもなるよ!!」


試しに晴れの日は思いっきり腕時計を殴ってみた。すると、ガキンっと弾かれる音がして晴れの日の拳が逆に痛んだ

確かにかなりの強度だ


「す、すげぇかてぇ・・・いてて・・・フレディ、ありがとう!!」


「NO!ハレ、任務頑張ってね!!」


「おう!」


フレディと拳をコツンと打合せ、激励の言葉を受け取る。そして今貰った腕時計を装着し、軽くコツコツ叩きながらその硬さと設計に感心する


「すげぇな・・・うしっ!明日の任務頑張っぞ!!」


再び荷作りを再開しながら晴れの日は気合を入れ直し明日からの任務がどうなるのか、不安と楽しみで入り混じっていた―――








そして、その夜

晴れの日はまるで遠足の前日の子供の様な気持ちの高ぶりで寝付けず、なんとなく散歩に出かけていた

今日は半月。半分しか出ていない月だが、それでも十分に明るい。晴れの日は薄暗い中月を見上げながら外の冷たい風を感じていた

と、そのはるか先に人影が見える


「あれ・・・?雷火?」


よく見ると雷火の日だ

寝巻きなのか、ダボダボしたピンクのトレーナーに、白い長ズボンでベンチに座り月を見始めた

話しかけるか悩んだが、思い切って話しかけることにした


「雷火も寝れないのか?」


「晴れの日・・・そうね、なんとなく」


となりに座る

だが、珍しく何も言わず、ただ黙って月を見上げている

晴れの日も空を見てみた。すると、いつもは見えない星がたくさん見える


「・・・綺麗だな」


「そうね」


会話が続かない。別に続かなくてもいいのだが、なんとなしに気まずいのだ

なんとかして晴れの日は知力を振り絞りなにか会話のきっかけを探す


「あー・・・明日からの任務さ、頑張ろうぜ!アナザーなんかに龍脈は渡せねーもんな!」


「・・・晴れの日、あんたは最強を目指しているのよね?そのために死んだら?どう思う?」


「ん?あぁ・・・それはそれで満足だ。夢の為に死ねるんだからな!」


珍しく雷火の日の声に覇気が無いようにも思える

だが、そこに触れはしない。とにかく今は会話を長く続かせたいのだ


「そっか・・・ならわたしも頑張らなきゃならないわね。あんたのアホ面見てたらなんとなく大丈夫な気がしてきたわ」


「んだとうっ・・・って何が大丈夫?」


雷火の日は立ち上がり、こう言った


「・・・たとえ死ぬようなことになろうと、わたしは確かにここで生きた。それだけで十分よね」


晴れの日には何が言いたいのかよくわからなかったが、ここはおとなしく黙っているのが賢明だろう

きっと雷火の日だって死が怖いのだ。そりゃ、十代半ばで戦場に行っているのだ。そう思わない方がおかしい

だが、どうやら雷火の日は自分の中で決着がついたようだ


「・・・そう、かもな」


「さて、わたしはもう戻るわ。あんたも風邪ひかないでよね?バカは風邪ひかないけれど」


「だーかーら!一言余計だ!!」


ふふっと雷火の日は笑った

そして月明かりの下、天候荘の自室に帰っていくその姿を晴れの日は目で追いながら、心の中で

何があっても、俺が全員助けるから

と、叫ぶのであった――――

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