第九話
第九話
「休日だったのに災難だったわね~」
撫子の気楽な声で出迎えられた晴れの日と雷火の日
時計の指す時刻は既に夜遅い
だがそれも当然。今日の昼のあの後と言えばかなり後始末が大変だったのだ
晴れの日と青年の戦闘の直後すぐに応援が到着したが、変革者の青年は制約を支払わないで無理やり能力を使ったために消失し、残ったのは民衆のパニックだけだった
だがそれも到着した応援の組『聖騎士』達がなんとか対応してくれたために何とかなったのだが、2人はその場に居たものとして処理や事情聴取などで気が付けば日が暮れてしまったのだった
「本当よ・・・まったく折角の休暇だっていうのに・・・」
「まーまーそうカッカすんなっての。どーせ少しくらい息抜きはできたろ?」
「それは・・・そうだけど・・・」
雨の日に聞かれたことに対して雷火の日は素直にYESともいえないが少なくとも息抜きが出来なかったわけではない。むしろすっきりしているくらいだ
「それにしても・・・雷火どーしたん、そのかっこ・・・可愛くおしゃれしちゃって・・・」
「んな!?いいじゃん別に!!わたしだっておしゃれ位するわよバカ!天パ!」
やはり雨の日もそこに食いついたようだ。改めてもう一度雷火の日の服装をよく見てみようか?
簡単に説明してしまえばショートパンツに肩だしシャツの組み合わせ。そして髪の毛は降ろしていて落ち着いた雰囲気
正直、この恰好なら芸能界でもやっていけそうな気もする
だが本人にその気はないのは当たり前・・・
「ま、年頃だもんな~・・・って世間話しにきたんじゃねーんだった・・・晴れ、雷火。もうそろそろ訓練も佳境みてーだぞ?どーやらアナザーが本格的に動き始めたみてぇだ」
「ってことは雨さん・・・」
晴れの日が武者震いと緊張で声に震えがみえる
雨の日が顎で廊下の奥を指したので四人はとりあえず歩きだし、現状の確認をしあう
「龍脈がもーそろ出てくるからな。前もってお前ら2人と双子と、その他の護衛で名古屋城に張り込むぞ。あぁ、曇りの援護は結構ぎりぎりになるかもしんねーってさ」
「・・・わかった。それはいつごろから?」
「んー・・・と、撫子、日にち覚えてっか?」
自分が直接的にかかわっていない任務は基本的に無関心な雨の日はこの重大な作戦の日どりさえも覚えていないようだ
晴れの日は、まぁいつもの事と苦笑い。雷火の日は頭が痛いわと額を手で押さえていた
だが撫子だけはなんの不満もなくすぐにメモ帳をとりだして答えた
「えーっと四日後だね!」
「だ、そうだ!前日は荷支度とかだろーし、後三日位だけだ。訓練できんの」
もうそこまで期限は迫っていたのだ
雷の日もそれを知っていたはず。なのになぜ今日休暇を取らせてくれたのか、疑問に思う二人だが雷火の日はなんとなく理由が分かっていた
「そう・・・ならできる限りのことをやるしかないわね・・・晴れの日。明日も訓練朝早いし今日はもう寝ましょうか」
「あー、わりぃ。晴れはこのまま俺の部屋来てくれ。渡すもんあっからよ」
呼び止められた晴れの日は頭上に?を浮かべつつも雨の日の部屋についていくことにした
雷火の日はというと、雨の日とは反対方向に自室があるので途中で別れる形になる
「そう・・・だからってあんまり遅くまでつき合せないでよね?わたしのパートナーが不眠で倒れるなんてお断り」
「だーいじょうぶだっての」
それだけ告げて雷火の日はカツカツとヒールの足音を立てながら自室へと戻って行った
そして晴れの日達は雨の日の部屋へと向かって歩き出す
「そういえば、撫子さんも雨さんの部屋に?」
「そだよ~・・・ってもうそろそろため語で話そうよ!同じ変革者で仲間じゃない!」
「そーいや晴れはちょいちょい年上に丁寧語だもんな・・・誰も気にしねーぜ、ため語。むしろための方がやりやすいっての」
2人からため語を半ば強要されているような気もしないでもないが確かに丁寧語よりため語で話す人の方が多いことを思い出し、自分もそろそろそうしようかなと思い始めていたのでこの際思い切ってため語にすることにした
とは言っても・・・
「わかったよ・・・雨さん、撫子」
「さんはとらねーのか・・・?」
若干苦笑い気味の雨の日。だが晴れの日は撫子は平気なのだが自分の教官である雨の日にはやはり少しくらい敬意を払うべきと思ったのだ
「ま、まぁその辺はいーじゃんか!んで、渡したいものって?」
「はいよ・・・っとちょっと待ってろ。あぁ時間は取らせないからそこで待っとれ」
「ほいよ~」
雨の日は自分の部屋の奥にある机の上においてある長方形の箱を手に取る
そしてそれを晴れの日の前に突き出した
箱はどうやら特筆することの事はないただの箱のようだ
「これは?」
「ふふっ、それはね~雨様が特注して作ったのよ!設計図も自分で作って!ほら、開けてみて!」
撫子が何やら楽し気に説明してくれた
だが中身が何なのかは教えるつもりはないようだ。雨の日に一応確認を取ろうと視線を投げるが顎で箱を刺されたので今開けてみろ、という事なのだろう
「んじゃ、遠慮なく・・・っとと」
箱は上にあくタイプのもので箱自体が落ちないように片手でしたから持ち片手で箱のふたを持ち上げた
すると中には梱包紙でくるまれた何やら金属製の何かがはいっていた
そっとそれを持ち上げてみると思っていたより軽量だ
ゆっくりと梱包紙を取り除くと中から姿を見せたのは・・・
「紅い・・・銃・・・!」
その銃はベレッタ92と呼ばれる銃で、恐らく世間一般的にハンドガン、と聞いて想像するもっともメジャーな銃だ。全長は217mmと持ち運びも楽だ
だがこんな一般的な銃をわざわざ特注した理由は色の他にある
それは弾が装填できないようになっている、ということだ
「それな、弾はいらねーから万が一一般人に見られても誤魔化せるし、奪われても全くもって大丈夫だ。弾でねーからな」
「なるほど・・・銃身が紅いのは・・・?」
その時撫子が元気よく手を挙げた
「それは私が決めました!晴れ、の日だから太陽をモチーフに!」
つまり色はおまけという事なのだろう
だが十分うれしいしかっこいい
年相応、高校生の心をくすぐられる気がした
「ありがとう撫子!よし、試しにうつぞ・・・ていっ」
さっそく試し撃ち、ととりあえず廊下の雨の日の部屋の反対側にある窓から外の気を狙って最小限の力で引き金を引き絞る
だが・・・
「うぉぅ!?」
「あー、その銃お前の力引き出すようにいろいろ改良してあるから・・・扱い慣れるまでがんばれ?」
放たれた熱線は想像していたより数倍威力が増加しており、数十メートル先の木がジュウッと音を立てて焦げてしまった
贈り物をするだけしておいて最後はいい加減だ
でも確かにこの銃は扱いやすい。軽量かつ頑丈で、おまけに引き金を引く力も少なくて済み、連射がやりやすくなっている
「おう!ありがとう雨さん撫子!」
「私は色選んだだけよ!その銃で、目指してね・・・?」
目指す・・・一体何のことだろうと一瞬晴れの日は首を傾げたがすぐに撫子の言わんとすることが理解できた
「・・・もちろん!この銃で俺は雨さんも雷さんも曇りさんも倒して最強の変革者になってやる!」
「おーおー言ってくれるねぇ・・・楽しみにしてっぞ?」
「おうよ!こうしちゃいられねぇ!さっさと部屋戻って筋トレと明日の訓練の準備しなきゃ!2人とも、本当にこの銃ありがとう!」
テンションが上がり気持ちが跳ね上がっている晴れの日はきちんとお礼を告げた後すぐに猛ダッシュで自室へと駆けて行ってしまった
その様子を雨の日と撫子は穏やかな笑顔で見送る
「・・・雨様、晴れの日君は将来有望ね」
「みてーだな・・・あの銃でどこまで登ってくるか・・・楽しみだ」
「それにしてもこの銃かっこいいなぁ・・・あ、せっかくだし名前付けよっかな・・・んー・・・」
部屋でベッドに寝ころびながら銃を眺め名前を考える
これから先長い間お世話になるパートナーだ。それなりにかっこいい名前を付けて上げたいと、晴れの日は脳をフル回転させる
「ジェニファー。るーふぁす。んー・・・やっぱ和名かなぁ・・・魔弾、とか?」
自分でいって置いてなんだが、まったくあっているとは思えないしどれも中二臭い
だがしかし睡魔が現れ徐々に意識が遠のいていく。どうやら本格的に眠気が晴れの日の体を支配し始めたようだ
だがせめて名前を付けたいと必死で耐え、そして一つの名前を思いついた
「シンプルだけど・・・紅銃・・・こーじゅぅ・・・こー・・・すぅ、すぅ・・・」
新たな銃、紅銃と共に晴れの日はこれから先数々のてきと戦うことになるだろう・・・
そしていつかは、最強の変革者になることを夢見て晴れの日は今日も眠りについた―――