第七話
第七話
「結局お前もねてんじゃねーか・・・」
「う、うるさいわね!気持ちよかったのよあの椅子!」
プラネタリウムの上演も終わり、二人は約束通りクレープを食べるために屋台のある道へと歩いていた
2人がしていた賭けの結果はというと、正直者な二人は互いに自分が寝落ちをしたことをきちんと自白し白紙に戻ってしまった
だが例え自腹であってもクレープが食べたい雷火の日は自分で買うために晴れの日を連れまわし始めたのだ
もちろん、恥じらいのある様子だったが、晴れの日にとってしてみれば雷火の日の甘党は今に始まったわけではない
「はいはい・・・そいや、クレープ食ったらどうするよ?」
「そうねぇ・・・どうせすることないなら食べ歩きとかしてぶらぶらしましょうか」
ひとまずクレープを買うにしても、今後の予定を立てるのが前提条件だろう。いやはやそれにしてもまるで恋人のような会話だ
いや、周囲からは確実に恋人として観られているだろう
雷火の日も晴れの日のあまり意識しているわけではないが気を付けないと異性としての意識が働き緊張してしまいそうだ。主に晴れの日が
特に女性との経験がない晴れの日はビジネスパートナーである雷火の日、として認識し続けないと顔から火を噴きかねない
もちろん雷火の日は恐らく何ともないだろうが・・・
「だな・・・っとそこ右に屋台・・・って聞いてねぇ」
流石は甘党、というべきか
晴れの日が場所を説明するよりも早く自分の嗅覚で場所を察知し晴れの日のことなどお構いなしに駆け出していた
「おーい?雷火~・・・?」
若干あきれつつも、かわいらしい一面に心を緩ませながら雷火の日を追って晴れの日も右に曲がる
「・・・何よあんた達」
「おいおいねーちゃんよぉ・・・ぶつかっておいてそれは無いんじゃないかぁ?」
「うっわー・・・雷火なーにやっちゃんてんの・・・」
角を曲がってまず見えた光景はいかにもチンピラのようないかつい男数人に雷火の日が囲まれている光景だった
明らかにトラブル発生だ
「はぁ?ぶつかって来たのはあんた達でしょう?」
正直者の雷火の日が腕を組んで威嚇しながらも引き下がらないところを見ると、どうやら一種の当たり屋のようだ
でも正直言って相手が悪かったとチンピラに同情せざるを得ない。なぜなら相手は変革者で毎日の訓練により人の気配を察し避けることに長けた実力者なのだ
その気になれば一瞬で彼らは意識の底に沈無事になるだろう
「ねーちゃん・・・お前のせいで俺のダチが骨おれたかも知んねーだろ?お?グダグダいってねーでどーにかしろよ?」
どう聞いても頭の悪い奴の理不尽な発言にしか聞こえない。おもわず晴れの日も雷火の日もため息をこぼす
確かに気迫は恐ろしく、一般人ならば反論する気もなくなりつい恐怖で従ってしまうだろう
だが雷火の日には一切脅しはきかない。だがしかし、一つの異変に晴れの日は気が付いた
何故だろう、雷火の日は全く反撃しようとしないのだ
普段ならもっと抵抗するというのにどこか気が引けている
「あれ・・・?雷火もしかして・・・あぁ、やっぱり・・・あいつヒールじゃん・・・」
そう、雷火の日は今日ヒールの靴なのだ
それなら当然逃げることも戦うことも難しいだろう
まさか街中の人通りも多いところでチンピラに絡まれるとは思いもよらなかったため動ける靴はおいてきてしまった雷火の日のミスだ
道理で先から晴れの日に目くばせしているはずだ
「なんとか言えよオラ!?」
「はぁー・・・しゃーね、雷火に珍しく貸が付けられそうだ、な!」
晴れの日はサッと周りを歩く人ごみに紛れ込んだ
人々は雷火の日と男の抗争にまだ気が付いていないようで、晴れの日も動きやすい
その時、男の手が雷火の日の肩に伸びる
「金ねぇなら体だっていいんだぜぇ?威勢のいい女は嫌いじゃねーがこの人数差ってことは理解したほうが利口だぞ?」
スッとナイフを取り出し、周囲に見られないようにさり気なく雷火の日の背中に峰を押し当て威嚇する
雷火の日はその男の肩越しに晴れの日の存在を感じていたのでここは演技をすることに徹する
体の節々に力を入れ自分の体を震わせあたかも怯えた様子を醸し出す
「い、いやよ!わたしは言いなりとかなったりしないわ!!」
でも強気な姿勢はやめない
そうすればさらに雷火の日に注目が集まり男たちの背後を晴れの日が取りやすくなるからだ
「おいおい・・・ボス、さっさとしないと騒ぎになりますぜ?」
チンピラの一人がそう呟くとほぼ同時刻の事だった
「安心しろ・・・騒ぎにはならないさ」
雷火の日にナイフを押し当てる男の耳にチャキっと銃のリロード音が飛び込む
そして背中に何やら筒のような形状のものが突き当てられるのを背中に強く感じ額に汗がにじみだした。殺される、その純粋な殺気が体を蝕み身動きが取れない
さらに周囲の他の男たちも殺気を感じたらしく、身動きを取ることさえ忘れていた
「おま・・・誰だ・・・!?」
「俺が誰か?そんなことどうでもいい・・・振り向くな!そのままゆっくりその子から手を放せ」
振り向こうとする男をドスの利いた声が男の顔を真正面で固定する
静かに放たれるその言葉はさらに男の恐怖を駆り立て、恐怖が周りの空気さえ支配しそうだ
長年の訓練の成果だろうか?気配の操作が上手くなっている
そしてようやく男は雷火の日の肩に乗せられた手を静かに上の上げた
「他の仲間を連れて今すぐここから消えろ。出なきゃ死ね―――」
最期の一言を放つ瞬間、晴れの日は渾身の無我を発動し男に絶対的恐怖を刻み込んだ
それは当然取り巻きの仲間にも影響があったようで、一人は泣きだし、一人は何やら股を濡らしていた
見るだけで情けない。雷火の日は演技を続けた怯えた顔のままで内心呆れ果てていた
「わ、悪かった!俺らが悪かった!だから見逃してくれ?な?お前もこんなところでそんなもんぶっ放したらただごとじゃねぇぞ!?」
「大丈夫さ。逃げ足には自身があるからな」
「ひ、ひぃぃぃぃ!?」
果たして問題はそこなのかと疑問に思うがこの場においてその一言は確実にチンピラの戦意を奪っただろう
チンピラたちは言い終わるや否や猛ダッシュでその場から離れるためにふらついた足取りで去って行ってしまった
ちなみに、晴れの日が銃と思わせて使っていたのは本物のリロード音の代わりにポケットに小銭を入れてこすり合わせた音に、先のプラネタリウムのチケットを丸めて筒状にしたものだった
「・・・余計な手間かけたわね」
「ん、気にすんなっての!それより大丈夫か?ヒールだからだろ?何もできなかったの」
足元の靴を指さしながら晴れの日は尋ねる
苦笑いをしながら雷火の日は自分の足元に視線を落とした
「えぇ・・・それに街中で乱闘はまずいから、ね。悔しいけれどあんたに借りが出来たわね」
「お、珍しいな!雷火がそんなこと言うなんて」
物珍しいこともあるものだと晴れの日は心底関心しつつこの場を和ませようとわざとおちゃらける
「あのねぇ・・・わたしだって女心あるんですからね?」
「わかってるよっ、まぁ貸とか借りは今はおいておこーや!ほれ、クレープ買うだろ?」
「はっ!そうだったわ!クレープーーーー!!!」
当初の目的はクレープだったことを思い出し、雷火の日の目に輝きが戻る
そして目と鼻の先から漂って来る甘い香りに、まるで磁石のように吸い込まれていく雷火の日。幸いにもお客は少なくすぐに並べばかえるだろう
だがそれでも雷火の日は一般人にばれない程度に能力を使い、誰にも抜かされることなくクレープ屋の列に並んでいた
まさに神業、いやある意味反則技だ
それにしても甘いものを前にした雷火の日は本当に別人にしか見えないものだと、おそらく全人類が共感してくれるだろう―――