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変革者  作者: 雨の日
第四章~雨降リシ夜二~
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第五話

第五話


「さて!今日はここまでにしようか!もうすっかり日も暮れちゃったしね・・・」


時計の指す時刻は夜8時

途中で軽食を取ったり休息したりと体力的にはまだ続けても平気なのだが、正直長時間に及ぶ集中で神経がすり減っているため、これ以上の訓練は不可能に近かった。

もちろんそれは上官の風の日、上級者の霙の日と言えど例外ではなかった。雷の日は一人ピンピンしてはいるが・・・

とそこに二つの足音が全員の耳に入る


「みんなお疲れのようだな?邪魔ァするぞ」


「ちょーっと嫌な情報がはいりましタヨ~」


偽物妖精の双子、こと雪の日と嵐の日だ

嵐の日が手に持っているのは一束の資料。2人の真っ白な髪が夜の月に照らされて艶やかに光っているのが実に妖精らしい


「ん、どーしたの?」


「アナザーが名古屋城の龍脈狩りを本格的に開始したようだ。まだ一か月以上猶予があるとはいえ、油断していられないな」


雷の日に資料を手渡す。それを受け取った雷の日は月明かりの元その資料に目を通す

スムーズに目が左から右に動いていたのだが、ある一節部分でその動きが止まる


「・・・流石、玉霰。でもこれは聞きたくない情報ってやつだね・・・」


苦虫を噛み潰した顔をする雷の日の剣幕を見た風の日が、手を伸ばして紙の端をつまみ、自分も見やすい異様に角度を変え、覗き込んだ。するとやはり同じように同じ場所で目の動きが止まる


「白さん・・・っ」


「そーなんですヨー・・・少しキツイかもしれないですヨ?白さん直々に仕掛けてきたラ・・・」


白さん。晴れの日には少しだが聞き覚えのある名だ。だが実態は何も分からない

前回は聞くことが出来なかったが今なら聞けるかもしれないと晴れの日は横から口をはさんだ


「その・・・前は答えてくれなかったんですけど、その白さんって一体?」


その途端、雷火の日と晴れの日を除く全員の顔に陰りが見える

だが今回ははぐらかされることなく、キチンと答えが返ってきた


「2人とも知っておいた方がいいよね・・・白雨、いやもう少しわかりやすく言えば白雨の日。元、天候組所属でこの天候荘の創立者だよ」


「えっ・・・!?」


「驚くわよね、普通。でも本当の事よ。晴れの日は確かあの時見たでしょう?あの人が白さん。最強とも言われたことのある変革者、よ」


あの時がいつのことを指すのかは言われずともわかる。それより気になるのは、最強。つまりは雷の日よりも強かったというわけだ

もちろん今どうなのかは分からないが、あの時感じた殺気は尋常ではなかった。並大抵な戦士から感じられる殺気ではない

あの殺気から感じたのは数多くの死線をかいくぐってきた戦士のソレだ

だが、晴れの日の心の中では最強への夢への道に心弾む気持ちも少なからずあった・・・


「そして、お前ら2人が参加するだろー次の名古屋城戦でもしかしたら戦うかも知れねーってわけだ」


この間は敵として出会った。そして次も戦うかも知れないと嵐の日はいった

つまり・・・


「雷様・・・白雨は、天候荘を裏切った・・・?」


「・・・」


無言・・・それ即ち肯定

だがそれだけで十分だった

当時居たわけでもない二人にはいまいち絶望度がピンとこないが、創設者が裏切ったとなればかなり当時の衝撃は大きかっただろう


「の、能力は・・・?」


恐る恐る尋ねた晴れの日に答えたのは霙の日だった

いつになく元気がない。訓練で疲れている、だけの理由でないのは明白だ


「水の性質を操る・・・つまり曇りの水番って事だよ」


曇りの日が使う能力。煙の性質を操る。つまり白雨は水を操り戦うのだろう。まさに「雨」の名を有するだけのことはある

煙の性質を変えるだけでもかなり多様な用途がある分、水なら尚の事その力は強大なのだろう


「対抗できる人材はいるのですか雷様?」


「そうだね・・・俺ら三人なら大丈夫だろうけど、正直みんなじゃまだ真っ向から戦って五分持つかどうか・・・」


そのみんな、の中に霙の日や双子、風の日も含まれているのかと思うとゾッとする

それほどまでに強敵なのだ、白雨は


「俺ら四人で名古屋城まもんのちときちーぞ・・・?」


嵐の日が珍しく弱気な発言をする

その問いに対する答えはすぐに返せるものではないことはその場の全員が空気で察している

だがそれ故に沈黙が一帯を覆い尽くす


「・・・とにかく、二人の強化を進めるよ。それと、当日は曇りあたりに援護をお願いしようと思う。俺は属性的に相性悪いし、雨はその・・・」


言葉を濁してその場の誰かに助けを求めているような目くばせをした

晴れの日にはその真意が分からなかったがこの状況下でおいそれと口は開けないことくらいは分かる


「了解デス。今夜は訓練終わりですカ?」


「ん、終わりにしようかと思って今から解散だよ」


この話はもう終わり、と誰かが言ったわけではないが雪の日の質問で全員が話を切り上げた

月明かり照らす中、訓練が終わり晴れの日に気持ち分の疲労がどっと圧し掛かる


「さすがに一日中軍服は暑かったわ・・・」


軍服の胸元を掴み服の中に空気を送り込む。額にはうっすらと汗がにじんでおり、よほど暑かったのか呼吸も荒い


「今日は私服でよかったのにね・・・さっすが姫。コスプレ大好きだね!」


「霙の日。貴方は後で私の部屋にいらっしゃい?」


口元こそ笑っているが目が全くもって笑っていない。獲物を見つけ殺気で脅すハンターの目付きそのものだ

自分の失言に気が付いた霙の日はひきつった笑みを浮かべて、冷や汗をだらだら流し膝が笑い出す


「じょじょ、冗談だよ!ね、新人くん!!」


「え!?俺!?ちょ、飛び火勘弁!」


「あ!こら逃げるな!責任押し付けさせろー!」


理不尽にもほどがある言い訳だ

本人を目の前にして責任のなすりつけをしようとする。もちろんそれを風の日が聞いているので何の効力も持たないだろうが・・・

わーわーと、どこにそんな元気があるのかと聞きたくなるような走りを見せながら二人はぐるぐるとその場の全員の周りを追いかけ合いだした


「まったく・・・そんなに元気があるならもっと訓練しなさいよ晴れの日」


「いやいやいや!今この状況は俺のせいじゃないだろ!!」


「夜だってのに元気だな・・・俺ぁねみーよ・・・」


「兄ちゃんはいつだって眠いでしょウ?」


「嵐いつも寝てるじゃん・・・どんだけ寝れば満足なの・・・」


天候荘の男は大半が女性にあきれられることの多い人種だと、この時改めて思った。もちろん雷の日や曇りの日はしっかりしているが・・・

だがそれもまたコンビ故の特権なのだろう。一般世界では決して味わうことのないこの世界を肌身で感じている晴れの日は、あの日天候荘にくる決意したことを決して生涯後悔しないだろうと心で呟いたのだった

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