第四話
第四話
晴れの日達が懸命に訓練に明け暮れる中雨の日と曇りの日、それから撫子の三人はなにやら重苦しい空気を纏って雨の日の部屋の奥、隠された研究場のようなところで眉をひそめていた
「・・・ラスト・ワンの正体って・・・」
「雨さん、これは確かな情報なのか?」
2人が驚きに打ちひしがれている中雨の日は一人ゆっくりと首を縦に振る
「じゃ、じゃぁこの世界の人はどうなるの!?」
驚きの後は恐怖。撫子の顔には絶望にも似た哀愁が浮かび目の前の現状を飲み込めずにいた
だがそれは雨の日と言えど同じ。ラスト・ワンについての研究を前から行っていた張本人としてはある程度予測していた結果ではあったが、その結果に恐怖の色を隠せない
「わかんねぇ・・・前に起こったのは千年も前だからな・・・」
「ならばアナザーは何故このラスト・ワンを・・・深髪は目的を知らずにいたようだが」
以前晴れの日と雷火の日が確保した深髪の尋問を担当していた曇りの日は顎に手を当て思考に沈む
「雨様・・・ラスト・ワンが『扉』なら『鍵』は一体・・・」
扉、鍵。謎が徐々に明るみになっていく
アナザーの狙い、ラスト・ワンの謎。そしてそれがどう絡み合うのか
それは誰にも分からない・・・
場所は変わってアナザー本拠地、四皇帝の間
円卓にそれぞれ四か所椅子が用意され綺麗に東西南北に分かれている
そのうちの北に白雨は腰を下ろす。すでにその場には東と西に一人ずつ座っていたが南の一人がまだ見えない
「・・・珍しいわね、会合に遅れるなんて」
「なぁに・・・時期、来るであろう」
この部屋は薄暗く、お互いの顔がハッキリ見えない。素性はお互いに知っているもののこういう会合ではなぜか顔を隠す。アナザーのボスの方針らしいが、白雨含め四皇帝全員は不思議に思っている
と、そうこう考えている間に窓の外が騒がしいことに気が付いた
「あら、窓からとはダイナミックな登場ですわね」
クスリと微笑んだような気配がした。女性は開いている扇子をパチンっと勢いよく閉じる。とその動きに合わせて人魚の絵がかかれたステンドガラスが粉々に割れ外の景色が飛び込んでくる。さらにもう一つ、何かが飛び込んできた
「おぉ~と!助かったぜ!ちょーっとノラに襲われちまってよぉ・・・」
四皇帝最後の一人だ
見れば白い服は真っ赤に染まり、裾から赤い血が滴っている
だがこの場の誰もそのことを大事に気にしようとはしない
「ご苦労。白雨、洗ってやれ」
「はいはい・・・動かないでね?」
汗のように返り血が滴る男に向けて指を指しくるっと円を描く
その瞬間、水がどこからともなく溢れだし、服や体に付いた水をすべて洗い流した
「さんきゅ~!お前もう洗濯機に転職しろよ、売れるぜ?」
「お断でーす。それより早く始めるわよ?」
嫌味を軽く受け流し再び自分の席にしっかりと腰を掛ける
男も特に気にすることなく自分の席についた
「さて今回の議題はこちらよ」
四人のちょうど真ん中の位置にプロジェクション映像が映し出される
そこに映し出されたのは天候荘にいる雨の日、雷の日、曇りの日の三人だ
リアルタイム映像ではなく、ただの写真のように動くことなくその場にあり続けている
「俺らにとって一番厄介な三人だからなぁ~、はやめどうにかしねぇと」
視線が一瞬で白雨に集まる。目こそ暗くて見えないがそれでも気配でハッキリとわかる。全員が白雨に無言で訴えかけている
「・・・わかってるわよ?ちゃっちゃと龍脈食べてその三人ヤればいいんでしょ?」
「分かっておるのなら早急にな。おそらく近いうちに名古屋のほかにも龍脈は目覚めそうじゃ。じゃがチャンスはその二回。ゆめゆめ忘れるな?」
「はーいはい」
小言は聞き飽きたと耳をふさぎ声を遮断する
「ま、お前がいなくても俺だけで十分だろうがな!」
調子のいい男が声高々に叫ぶ。他の三人は見慣れた光景にため息が漏れるだけだ。だが誰も咎めようとはしない
この男の実力は本物。それを誰しもが理解しているからだ
「だとしても戦力が大きいことに越したことはないであろう?」
老体の渋い声が机に反響して木霊する
「さいですか~・・・まぁ、期待してまっせ!白雨の、日さんっ?」
その瞬間部屋が殺気で溢れかえった
その場に一般人がいれば確実に意識を失っただろう。それだけ濃厚な殺気だ
「・・・やめておいた方が身の為よ」
「無駄に殺気立てるな・・・死にてぇのか?」
「お二人共!ここで争うのは御法度ですわよ」
その鶴の一声がこの場の殺気を一瞬で沈める
「若気の至りというやつじゃの・・・まぁよい。次の議題に移るぞ」
「雷さんと風さん動きましたね!!あと雷火も!」
「おぉ!すごいじゃないか!」
だるまさんが転んだによる訓練は何時間も続いた
その結果、晴れの日と雷火の日はただのだるまさんが転んだで格段に気配を察する力が上昇しただろう
特に目覚ましい成長を遂げたのが晴れの日だった。掲げた志の高さ故だろうか、はじめはからっきしだった気配察知も回数を重ねるうちにどんどんと上達し、今や確率9割を超える的中率を見せた
もちろん雷火の日も負けてはいないが、それでも6,7割が限界だ
もちろんこれも十分すぎる成果なのだ。やはり若さとは武器。吸収が早い
「悔しいわね・・・晴れの日に負けるだなんて」
「はっはっは!雷火の気配はばっちりだぜ!癖のある気配だからな!」
腰に手を当て、片方の手で髪をかき上げる。なんともイラッとくるしぐさだ
だが伸びた天狗の鼻はすぐにへし折られる
「・・・とぉっ」
「いでぇぇぇぇええ!?」
チョキで両目突き。さすがは雷火の日、問答無用の手加減知らず
流石に潰しはしないが、少しの間は目を開けられないだろう
雷火の日は突いた指を服で少し拭い痛みでしゃがみ込んだ晴れの日を見下ろす
「調子に乗っていると、痛い目見るわよ?」
「ツンデレちゃん、上手いこと言ってないで再開するわよ?」
「つ、ツンデレ言わない!!」
気配を消すことは存外体力を使うし体温も上がってくる。最初の方はきちんと着ていた軍服も若干着崩してクールビズモードに切り替えている風の日が冷やかすかのように雷火の日をツンデレと呼ぶ
呼ばれたツンデレこと雷火の日はこっぱずかしいのか珍しく赤面しつつ反論した
「つ~んでれちゃんはツンデレだよ~!」
いつの間に背後に回り込んだのか、声が聞こえた時にはすでに霙の日は雷火の日の腰に抱き付いていた
「きゃっ!?ちょ、霙!!」
「ウエストほそーい!足も長いしいーなーいーな!!」
ぐるぐると腰を振り回し抱き付いている霙の日を振り払おうとするものの、まるでフラフープのように霙の日もぐるぐると回る
雷火の日のハーフアップと共に揺れるその様を雷の日は愛娘を見るような暖かな目で見守っている
・・・晴れの日は一人痛みに悶えているが