第一話
第四章~雨降リシ夜二~
「龍脈は前に霙から軽く聞いたことあるけど・・・?」
一応とはいえ聞いたことのある単語に首を傾げる晴れの日
だが、霙の日から聞いたとは言え、かなりうろ覚えだ。それにかなり重要な案件の様で、雷の日がドアのカギを占めた
「霙かぁ・・・ってこたぁ俺と同じくらいいい加減だったろ?」
ははっと乾いた笑みを浮かべやれやれと首を振る。確かに雑な説明ではあったが雨の日よりかは幾分かましな説明だったと思う晴れの日。もちろん口には出さないが
「なんか、パワースポット的な物って聞いたよ・・・?」
「確かにそうかもねー・・・でも本当はもっと複雑なんだよ?」
自分の机に潜るようにして頭を突っ込んでいた雷の日はそこから声だけ飛ばし、そして何やら一枚の写真を取り出し、晴れの日達の座る席の前に置く
写真には世にも有名な天空都市、マチュピチュが映っている。だが、晴れの日は雷の日が見せようとしているものがマチュピチュではないとすぐに気が付く
マチュピチュの上空に一匹の真っ白な大蛇が飛んでいるのだ。それも∞を描いている。まるでウロボロスだ
「これ・・・なんですか?」
「この白い飛んでいるのが龍脈・・・とは言っても蛇なんだよね」
「ナーガ、ヒドラ、ヤマタノオロチ、アダムとイブに禁断の果実くわせよーとそそのかしたやろーも全部蛇なんだぜ?結構神話デビューしてんのよ、蛇って」
横槍を入れる雨の日。確かに今聞いた神話の怪物たちは皆蛇をモチーフにして描かれている
だが、これが龍脈と言われてもいまいちピンと来ないのが本音だ。見方によってはCG写真にも見える
「雨、ちょっと雷火ちゃん起こしてあげて、そろそろ上気も収まっただろうし」
「へいへーい・・・うーい雷火、起きろー!」
雷の日が雷火の日を指さして雨の日に頼む
半ばめんどくさそうに立ち上がり、顔を覗き込んでぺチペチと頬を叩く雨の日だが、そんなことをすれば当然・・・
「ん、んぅ・・・ッ!?触るな変態天パ!!」
「へぶしっ!?」
見事なアッパーカットが雨の日の顎に吸い込まれ、天井近くまで舞い上がった
そしてそのクルクルの天パが天井に突き当り、反動で落下して来る
「おはよう雷火ちゃん、さっきはごめんね?」
だが、そのことに誰も触れようとはしない
起こしてと頼んだ雷の日本人でさえ、無視している
「あ・・・雷様・・・いえ大丈夫ですよ!」
「雷火、今なんか結構大事な話らしいぞ」
上気させてしまったことを雷の日がはははと笑って謝り、晴れの日がまっすぐ座るように手招きする。いつもならばそんなお誘い蹴るのが彼女の定石だが、その敏鋭な感覚でこの場の空気を察しおとなしく晴れの日の横に着席し机に置かれた写真を手に取る
「あぁ・・・龍脈の話ね」
「あれ?知ってるの?」
「えぇ。前に雷様から聞いたわ」
なるほど。だから最初の話の間は寝かせておいたのか。と晴れの日は一人納得する
写真を机に戻したのを確認すると雷の日が再び口を開いた
ちなみに雨の日はすっかり回復し、部屋の冷蔵庫から苔・コーラを取り出している
「それじゃ再開するね。この龍脈なんだけど見ての通り蛇なんだ。だけど超高濃度のエネルギーを持っている」
写真からは想像もできないことだが、今や世間一般の常識が通用しない世界にいるのだ。何があってもあり得てしまいそう
「基本的には異次元に住んでいて、接触は出来ないんだけどね・・・でも何百年かに一度とか何十年に一度とか、住んでいた次元を再構築するためにこうやって姿を現すんだ」
分かりやすくしてしまえば脱皮という事なのだろう
とそこにグラスに緑色の飲み物、苔・コーラを注いで雨の日が戻ってきた。もちろん緑色なのは仕様だ
「この龍脈ってのは自然豊かなとことか、歴史的に遺産価値のあるとこ好むからなー・・・けっこうその辺にもいんだぜ・・・げぷ」
「あ、雨さんそれ・・・あまりに見た目とネーミングが悪すぎて販売一週間で製造中止になった幻の・・・」
「おう。苔・コーラだ。案外旨いんだぜ?飲むか?」
「遠慮します」
残念、と小さくこぼし再びグラスに口を付ける
緑色のメロンソーダとは違って、むしろ青汁に近い緑色のその飲み物はまさに幻と言われた商品でつい最近発売、そして販売中止になったのだとか
「雨、ちょっと静かに!で、どこまで話したかな・・・っ思い出した」
話が大幅にずれたことに軽く叱咤しつつ、雷の日は話の軌道修正をした
「それでね、この次元再構築の時の数分間はこの龍脈を・・・食べることができるんだ」
「食べる!?」
「・・・それは表現の話なの?」
写真に写る龍脈はマチュピチュをすっぽり覆っている。それなのにこの大きさの大蛇を食べるというのだろうか
いくら大食いでもかなりつらいはず。清楚系大食いタレント、清楚曽根でも食べきれないだろう
「まぁ、食べるね。むしゃむしゃと。それでね・・・その龍脈を食べると、龍脈の力を宿すことが出来てパワーアップするんだ。しかも制約なしで能力が使えるようになる」
話だけ聞くと素晴らしい特典だ
だが、当然そんなものにはリスクがあるのだろう。晴れの日は苦い顔で尋ねる
「それって、副作用は・・・?」
「・・・何時の日か、内側から龍脈に食い破られる」
「え・・・!?」
つまりは死、だろう
だが、確かに高濃度のエネルギーを寿命まっとうまで体内に入れておけるはずもない。当然いつかは自分の身が滅ぶことは容易に想像できる
「もって五年かな・・・それに喰われた龍脈の近辺はその龍脈の強弱次第で崩壊したり荒廃するんだ」
やはり、色々と副作用が多いようだ
その話を聞いて、そういえば霙の日も似たようなことを言っていたと晴れの日は思い出す
「それで・・・そんな危険なものをアナザーは狙っているの・・・?」
「うん・・・しかも幹部の何人かは食べてるね・・・どうやらボスは最上級の龍脈を狙ってるみたいだけど・・・ボスに関する情報は全くと言っていいほどないいんだ」
「ま、俺らが龍脈が脱皮するたんびにで見てやつらにくわれねーよーに守ってんだ」
苔・コーラを飲み終えた雨の日が再び会話に割り込んでくる
だが今度はまともな事を言ったようで雷の日からお咎めはない
「そうだね。それで、このことを話したのは他でもない・・・君たち二人にこの防衛任務のメンバーに加わってもらいたいんだ」
「俺たちが、ですか!?」
いまだ任務達成数一件の二人がまさか声をかけられるとは思いもよらなかった晴れの日は驚きで声が大きくなる
それにこの任務に就くということは確実にアナザーとの全面抗争も避けられないであろう
そうなれば当然今の力量ではすぐに負けるだろう
「うん・・・難しい話かもしれないけど、今の天候荘で戦闘面に長けているのは双子ちゃんと君ら位なんだよ・・・頼む!」
深々と頭を下げ懇願する雷の日
日本の変革者のボスである雷の日が頭を下げるなどよほどの事だろう。そしてもちろん二人に断る気などなかった
例え勝機が薄くとも、逃げ出したくないのだ
「頭上げてくださいよ雷さん・・・俺らの答えはもちろんYESですよ!!」
「そうね。このバカが大口叩いて最強目指すとか言ったからには、この役目蹴るわけにはいかないものね」
雷火の日、晴れの日共にやる気十分だ
その眼に宿る決意の眼差しには、雨の日も関心の頷きを見せた
「よしきた!ならさっそく訓練しかないだろ、雷?」
雷の日の肩をバシッと叩き何やら不敵な笑みを浮かべる雨の日
その笑顔を見た雷の日は即座に嫌な予感がした
そして一目散に逃げ出そうとするが肩をつかまれ逃げ場を失う
「ま、まさか・・・」
「よかったなー!2人とも!これからはこの天候荘のTHE・ボス雷の日が訓練してくれるってよ!」
どう見ても今雨の日が勝手に決めたようにしか思えないが、それはそれで二人としても助かる
それに実のところ雷の日の実力もいまだ未知数なのでその実力を知りたいとも思っていたのだ
「ま、まじか・・・俺アムリカ大統領の護衛任務あるんだけど・・・」
さらっとものすごい任務を口走る雷の日
アムリカと言えば、世界最大の軍事国家だ。地方によっては紛争が起こるところもあるらしいが、首都の栄え様は凄まじいという。そんな国の大統領の護衛任務だなんてさすがに任を外せないだろう
だが・・・
「そこはほら、お兄ちゃん率いる天泣と風花にお任せってことで・・・」
初めて聞く名に少し興味がわいた晴れの日だが、この場で聞ける状況ではない
後で霙の日やフレディあたりに聞こうと胸にしまうのであった
「あ!ずるいぞ雨・・・ってやっぱ俺訓練監督かぁ・・・わかったよ。その代り玉霰には連絡しておいてね?」
「ほいよ~」
「ってことは!!」
一番に弾けたのは雷火の日だった
まぁ、当然と言えば当然なのだが。机に両手をバンッとたたきつけ目を爛々に輝かせている
「俺が訓練してあげる!さぁお前たち覚悟しろ!!」
「・・・もちろん!なんたって俺は最強目指してますから!」
「雷様と訓練・・・ふわぁぁ・・・!」
約一名昇天しかけているのを見て全員が苦笑いするしかなかった
その横でガッツポーズで決める晴れの日だが、ふと気になったことを思い出し折角なので聞いてみることにした
「あ・・・そういえば、白さんって誰なんですか?」
「・・・っ!?それは、その・・・」
どうやら聞いてはいけなかったようだ・・・雷の日は雨の日の方を何度もちらちらと見ながら言葉を濁らせた
だが、対する雨の日はふぅっとため息を一つついて吐き捨てるように言った
「晴れ、お前にはまだ早い」
「それ・・・どういう・・・」
「晴れの日、止めましょう」
雷火の日も触れてはならないと判断したのか晴れの日を宥めゆっくりと首を横に振った―――