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変革者  作者: 雨の日
第三章~轟く雷、火災を起こさん~
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第十四話

第十四話



「おえっ・・・」


「ちょっと・・・また乗り物酔い?」


今回の任務先である華厳の滝へは当然と言えば当然新幹線を使うことになる

曇りの日や、人の運搬を担当する変革者がいれば乗り物に乗らずとも現地まで行けるのだが、新米の変革者にその機会が回ってくることはほとんどないだろう

そのため、晴れの日はふたたび乗り物酔いという窮地に立っているのだ


「悪い・・・ちょっと寝るわ・・・」


寝てしまえばこの気持ち悪さもなくなるだろうと踏んだ晴れの日は雷火の日に一声かけると体を丸くして自分にとって楽な体制を取り、瞼を降ろす


「そ。まぁ吐くよりはましね」


「少しは心配してくれても・・・するわけないか・・・」


「当然」


一切晴れの日の方向を向くことなく手元の本に視線を落とし、凛とした態度を崩さない雷火の日

ただ乗るだけでも酔ってしまう晴れの日からすれば雷火の日の本を読む好意など正気を失っているとしか思えないのだが、そんなことを考えていると再び酔いの波が襲って来る

何とか吐かないよう、眠りにつくことにした晴れの日はゆっくりと全身の力を抜き呼吸を深くリズムよく刻む

すると思った以上にすんなりと眠気が晴れの日の体を支配し転がり落ちるように夢の中に入って行った


「・・・すぅ・・・すぅ」


「・・・寝たのね」


規則正しく寝息を立て、肩を上下させる晴れの日を目の端にとらえると、読んでいた本に栞をはさみ、閉じた

そして新幹線の座席にしては珍しいことなのだが、常備されている毛布をそっと膝元にかけてやる

その行動をもし天候荘のメンツが見れば天地がひっくり返ったかのようなリアクションを取るだろう。あの雷火の日が毛布を掛けてあげるだなんて・・・

だがすでに夢の中の晴れの日にそのことを知るすべはない。ぐっすりと熟睡しているのだ

雷火の日はその後、何事もなかったかのような顔で本を二再び開く


そして、晴れの日は夢を見た







「・・・あれ?ここどこだ・・・?」


気が付けば周りは狭い室内で、晴れの日は宙に浮いている。眼下に広がるのは金属の床。見たところ鉄だろう。年季が入っているのかところどころさびている


「見覚えが・・・あるようなーないような・・・」


どこかで見たことがある気もするがまったく思い出せない

それよりも、本当に見たことがあるかも疑わしい

そんな晴れの日が部屋をぐるりと見渡すと一つの小さな正方形の机が目に留まった

いや、正確にはその上のフラスコ、だ


「何か入ってるな・・・?なんだあれ。マリモか?」


苔の集合体であるマリモにも似たその球体からは泡が出ている

フラスコの中は青い液体で満たされており、コポコポと音を立てていた

まるで何かの実験のようだ


「どう?この子の調子は」


そこに白衣を着た女性が現れる。夢だからか、他に何の情報も得られない


「順調ですね。この調子なら明日にでも―――くんに注入できることかと」


「そう。ようやく完成するのね?まったく、あなたの能力って面倒なのね。制約が大げさすぎるのよ」


不満げに呟いているのがハッキリと晴れの日の耳に飛び込む

ここでもう一つの事実に気が付く。その女性は妊娠しているのだ。それもかなり大きい


「すみません・・・変な制約ですよね・・・マリモを成長させるだなんて」


どうやらフラスコの中身は本当にマリモだったらしい

まさかと思っていった晴れの日自身も驚きだ


「マリモが制約・・・ほんと、変革者って色々いるんだな・・・」


夢を見ている割には意識がハッキリしていて言葉もはっせなれるがそれ以上に何かできるわけではない。ただ眺めているだけだ

だが、そんな夢も徐々に崩壊が始まる

部屋が急激に崩れ始めたのだ。まるでガラスが砕けるかのように―――・・・






「なさい・・・起きなさい、この寝坊助」


肩を揺すられているのがわかる。どうやら駅に着くようだ。さすがは最新新幹線、あっという間というほかならない


「もうつくのか・・・」


夢のことなどすっかり忘れ、安息が終了してしまう事に不満を募らせる晴れの日

任務地が近場だというだけあって新幹線での移動もほんの少しですむ。小一時間かからないうちに目標の華厳の滝がある栃木県にたどり着いたのだ


「ほら、こっからはタクシー使うわよ。また酔うでしょうが頑張りなさい?」


「げっ!?」


まさかの乗り物連ちゃん。先は寝たからなんとか耐えられたのだが、もう寝れる余裕はないのだ。十分に睡眠をとったのが間違いだったと気付くがもう手遅れ。覚悟をきめる


「とりあえず、改札から出ましょ」


「お、おう・・・」


まるで激戦に臨むかのような険しい顔をして晴れの日は重い足を無理やりに前に進ませる

反対に、雷火の日はなんの弊害もなくいとも簡単にタクシー乗り場にたどり着く


「くそう・・・ここまで来るのはえぇな・・・」


恐怖からか前に進めない晴れの日だが、意を決して一気に突き進んだ

その結果―――・・・


「やっぱ・・・うぷっ・・・タクシーも無理だ」


「お客さん!?ダイジョブかい!?」


「ほうっておいて平気です・・・すみません・・・」


当然と言えば当然の結果だ。だが不幸中の幸いにも華厳の滝まではそう遠くないらしい

十数分で行けるとのこと。吐き気をなんとか耐えきれる距離ではあるが、正直見ているだけで気分の悪さが移りそう。そんなレベルで酔っているのだ


「と、とめてくれよ・・・」


「あんた、最強目指すんでしょ?乗り物に負けてどうするのよ」


「俺は・・・乗り物には・・・勝てる気がしねぇ・・・!!」


情けないその一言は青白い顔の晴れの日から聞こえた最後の一言だった・・・

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