第八話
第八話
「雨様、あの二人どうなの・・・?」
組手に燃える二人を心配そうにも見守りながらも撫子が尋ねた
視線の先では雷火の日が警棒を大きく振り回し、それを晴れの日が転げまわるようにして何とかよけ続けている様が先からずっと続いている
時たまに晴れの日が熱を放つが、難なく雷火の日は回避して見せ、反撃の隙を与えない
どう見ても力の差が歴然としている。正直組手のくの文字もない
「んー・・・雷火の方はまぁまぁ様になってきてんな。でも晴れ。あれはダメだ、いくらなんでも動きが鈍い、ひどい、哀れ」
「あらら・・・じゃぁ雨様直伝で特訓かしら?」
晴れの日のひどいいわれ様に少し落胆しつつもすぐにいつもの優しい顔に戻りニヤリと笑って雨の日に特訓を促す
「?なーんでお前が楽しそうなの?」
その様子を横目にチラリと見た雨の日は第三者であるはずの撫子が嬉しそうなことに疑問を持ち、その天パの上に?マークを浮かべる
「べっつに~?ただ、雨様がこんなに真剣なのも珍しーなって!」
ふふっと小悪魔のような笑みを浮かべる撫子。確かに雨の日がここまで真面目な状態を見たことがある人は天候荘の歴史でも数少ない事例だろう
だが、撫子とは反対に、雨の日は気まずそうに首の後ろを掻く
「まー、死なれちゃ困るしな。強くなってもらわんと。それに俺を倒す~、とかいっちょ前に言っちゃってくれるしよ」
そう呟いて再び組手へと視線を戻す
相変わらず戦況は一方的だ
雷火の日が空中のスペースもうまく利用し四方に飛び回るため晴れの日はろくに手出しが出来ないまま防戦一方
それでも負けじと必死に熱を打つが、直線的な攻撃に対して当たる程雷火の日も劣っているわけでなく、かすりもしない
「ちょこまかと逃げるわね・・・!おとなしく潰されなさい!」
「ちょこまかはそっちだろ!?ってか潰すな!」
完全に雷火の日の目が殺意を宿している。晴れの日に対して日頃たまっていたストレスだろうか。組手であることを忘れて今にでも殺しにかかってきそうで晴れの日の背筋に悪寒が走る
「いいから・・・潰れなさいっ!!」
地面をえぐる程の一撃が放たれ、晴れの日の足もとから崩れていく
だが流石は変革者用の多目的ルーム。崩れた地面のすぐ下にも同じような地面が顔を出していて、破損が目立たない
耐震ならぬ耐破壊構造だ
「やっべ!?」
足元が不安定になったため、今雷火の日に突撃されたらひとたまりもない晴れの日は苦虫を噛みつぶしたような渋い顔で自分の未熟差を恨む
「もらったぁあ!!」
警棒を水平に構え重力に従って落下して来る雷火の日。晴れの日もなんとか回避しようとするが、足が先の振動とえぐられた地面のせいで満足に動かない
「く、せめて一撃位あたれぇぇ!!」
せめてもの一撃にと距離にして数Mの雷火の日目がけて引き金を引く
銃口から放たれた熱線は空気を熱しながら雷火の日目がけて突き進む。熱線そのものの速度と雷火の日の突撃する速度が合わさり、車の衝突並の速度が見かけ上で生まれる
「んなっ!?やばいっ!」
流石の雷火の日もこの距離では直撃を免れないだろう
苦し紛れの一撃であったが、もしこの熱が当たれば晴れの日の勝ちになるだろう。だが、避けてくれないと怪我では済まないかも知れない
気合がこもってしまったとはいえ、組手で放つにはいささか温度が高い熱線だ。まさに死を想像してもいいレベル
「やべっ・・・!雷火、避けろ!」
自分で放っておいて何を言っていると突っ込みたい気持ちもあるが、実際そんなことを悠長に考えているはずもない
いくら撫子がいるとはいえ、顔面に熱戦を浴びるのはかなり危険。下手すれば命に関わる―――・・・
「はぁ・・・あのバカ共は・・・」
「ほら、雨様出番よっ?」
だがこうなることを予想していたかのように雨の日は既に立ち上がっており、撫子もニコニコと雨の日のその姿を目で追っていた
晴れの日が熱線を放ったその刹那、一陣の風が撫子の横で巻き起こり、雨の日の姿は組手の渦中へと移っていた
「・・・はい、しゅーりょー」
「!?」
「え?えっ!?」
二人の間に割って入った雨の日は、片手で雷火の日を持ち上げ、もう片手の平で晴れの日の熱線を完全に無力化させ、その場に立っていたのだ
組手を行っていた当人たちでさえ雨の日が声を出すまで何が起きたのか理解できなかったのだ
それほどまでに早く的確な行動。脱帽のほかない
「ったく、お前ら一から鍛える必要があるみてーだな・・・特に晴れ。お前ひどすぎっぞ・・・最強には程遠いな」
あきれ顔でため息をつく雨の日
ゆっくりと雷火の日を降ろし、アチアチと熱線を受け止めた手を左右に振る
「雨さん・・・今何を・・・!?」
「今のも見えてなかったんか?」
「速過ぎなのよ、天パの癖に・・・」
持ち上げられたことと、晴れの日の攻撃によってピンチになったことで不機嫌マックスになっている雷火の日だが、自分の実力が不足していることもしっかりと自覚している
「天パはかんけーねーだろ!?ったく・・・うしっ今から特訓開始すっぞ、いいな!」
先の今で急な話ではあるが、二人とも反論しない
たったわずかな時間と言えど、自分たちがいかに不格好な戦闘をしていたのか、先の雨の日の動きで悟らされたのだ
それに、一刻も早く強くなりたい気持ちが二人の仲に強く芽生え、休む選択肢があるわけもなかったのだ
「それにしても、雨様があんなに生き生きと訓練するなんて久しぶりに見るわねー・・・」
ぎゃーぎゃーと騒がしく訓練が進む中、撫子は一人、雨の日のその背中を見て遠い目をしながらふふっと微笑むのであった