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変革者  作者: 雨の日
第三章~轟く雷、火災を起こさん~
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第七話

第七話


「いーっチにーっさーんシっ!」


「ごぉぉぉろぉぉぉぉくしぃぃぃちはぁぁぁぁぁつぃっ!」


翌日の朝。元気にラジオ体操に励む二人の姿を少し後ろの方から見守るように眺める晴れの日

声の主の二人は毎日欠かさず元気にラジオ体操に取り組む雪の日と雷の日だ。前に立つ雨の日には存在しない、あふれ出る活気の限り声を大にして額に汗を流し懸命にラジオ体操に励んでいる。本来、ラジオ体操で汗をかくことはそうないはずなのだが・・・


「あ、あの二人に眠気ってものはないのか・・・」


その光景に苦笑いをするしかない晴れの日

その隣では声こそ出さないがきっちりと手先までピンと伸ばし全身の固い筋肉をほぐしている雷火の日がいた


「雷様は疲れなんか感じないのよ。それだけ素晴らしい人なの」


「さいで・・・」


今日も変わらず雷の日を持ち上げ続ける雷火の日。だがその眼の下には若干の隈が見て取れる

これまでほとんど毎日ラジオ体操の時に雷火の日の顔を見てはいるが、クマができていたことなど一日もなかった


「なぁ、その隈どうしたの・・・?」


何気なく聞いてみたが、それの何がいけないのか鋭い目つきで睨まれる


「・・・あんたたちが昨日放り込んでくれたおかげでほとんど徹夜でガールズトークよ!!」


「あ・・・そ、そういえば・・・」


そういえば昨日、宴会の途中で雷火の日を霙の日と風の日の下に無理やり放り込んだのだ

それ以来姿を見ていないと思えばそんな目に合っていたとは


「そういえば、じゃないわよ!まったく、どれだけ大変だったか・・・」


「ま、まぁまぁ・・・楽しめたろ・・・?少しはさ!」


下がってしまったテンションを何とか取り戻そうと晴れの日が懸命に言葉を探し、ひねり出す

原因は晴れの日にあるが、見たところ雷火の日も心の底から嫌がっていたようでもなく、ただどうにも自分のキャラが素直になれない自分を出していたのだろう

だからこそ少し棘のある言い方が目立つだけで、実際は十分に楽しんでいたのだろう


「楽しかったけど!でも!!」


どうやら思惑通り、内心では楽しんでいたようだ

なら先の怒りはなんなのか。それはどうやら隈ができてしまったこと自体に怒っているらしい


「な!やっぱ楽しめたろ!隈は俺のせいじゃないはずだ!!」


「五月蠅い。晴れの日はもう少し反省しなさい」


あまり言及するとダメなようだ

雷火の日はあの任務の一件以来晴れの日の事をちょくちょく晴れの日と呼ぶようになった

距離が縮まったと喜んでいた晴れの日だが、ここで余計な口出しをすればまたあんた呼ばわりされてしまう事になるだろう。あえて何も言わない


「すみまそん・・・」


「はぁ・・・そういえば、今日から新しい訓練するんでしょ?私も雷様に呼ばれたのだけれど、担当が誰かって聞いてる?あんたと一緒に訓練受けるようだけど・・・」


表情では嫌と語っている。だが今になればもう慣れたこと。なんの嫌悪も抱かずに晴れの日は質問の問いを自分の記憶から引っ張り出す

そして一人のあの男の名前を出す


「俺はー・・・雨さんに頼んだよ?」


その瞬間、雷火の日の時間そのものが止まったかのような気がした・・・


「いぃぃぃぃぃぃぃやああぁぁああ!!あんたバカなの!?いや、バカはしっているけれど、えぇと・・・嫌!とにかくいや!!なんであの鬼に頼んだのよ!!」


思った以上に騒ぎ出してしまった

何が原因かは分からないが体全身が震えている。何かあったのだろうか・・・


「お、落ち着けって・・・まぁ聞け!俺は決めたんだ・・・この天候荘でいっちばん強い変革者を目指すってな!」


晴れの日の宣言を聞くと同時に今度は真顔に戻る雷火の日

実に表情豊かだ


「は?あんた一度病院に行った方がいいわよ?え、なに?最強?最強は雷様だけよ?かとうっての?無理よ?確実に無理よ?諦めたら?いえ諦めなさい?大体あんた近接すらまともにできないじゃない」


怒涛の罵倒ラッシュに思わず心が砕かれそうになる晴れの日だが、何とか耐え抜いて反論を述べる


「だからこそ雨さんに修行してもらうんだよ!あの人、教えは雑だけど腕は確かなはずだろ!!」


実のところ、晴れの日はまだ雨の日の戦闘どころか能力すらも知らないのだ。だからこそ一抹の不安は残るのだが、頼れるのは雨の日しかいないと自分の勘が告げているような気がして、その勘に従ったのだ


「確かに実力はたしかよ。でもあの天パ、本当に雑なのよ。雑すぎて訓練になっていないほど。あんなのに訓練されるとは絶対嫌!!いやったら嫌!!」


日頃きっちりしている雷火の日からすれば雨の日の教え方に嫌悪を抱くのも当然だろう

だが、それを差し引いても雨の日に頼む価値はあると晴れの日は思う


「いいからやるぞ!!俺は最強の・・・」


「あーもう分かったわよ!・・・わかったからその決め台詞みたいなのやめて」


折角自分の目標が定まったというのに冷たくあしらわれてしまった

だがめげない晴れの日は涙目ではあるが何とか負けん気を現す


「いいだろ!いつか全員倒すんだ・・・!そんで変革者最強になってやるっての!!」


「・・・わたし、朝食摂ってくるわ」


「はい、わかりました・・・」


見事なスルーにより晴れの日の敗北が確定したその時、ラジオ体操は終わった―――








雷火の日にあきれられた晴れの日もラジオ体操を終えた後、食堂でフレディのお手製食事も済ませる。そしてこれからいよいよ訓練が開始するのだと晴れの日は気を引き締めこれからの訓練に心を弾ませつつ緊張感も忘れないように足を運ぶ

だが、トレーニング用の多目的ルームの入り口に来て再び雷火の日の足が止まっていた。そして晴れの日の顔を見て一言、


「ねぇ・・・本当に天パ皇子じゃなきゃだめなのかなぁ・・・」


何時の無く弱気だ

晴れの日の記憶では雷火の日は雨の日に対して敵対心を持っていてこういう時こそ皮肉を言う人だったのだが、今目の前に居るのはまるで鬼を目の前にした小さな子供の様だった


「珍しく乗り気だったし、多分この先には雨さんがいると思うよ・・・?」


「晴れの日、いままであいつの訓練適当だったでしょ?」


「え?あ、うん」


突然の問いに戸惑うが、確かに半人前の頃受けた修行は適当且つ乱暴で、かなり苦労させられた思いでよぎる


「それは多分遠距離の訓練だったから。あいつの本職は接近。教えるとなるとかなりキツイわ。しかも雑なところは健在。わかる?覚悟、決めなさい」


以前にも曇りの日に言われたことがあると晴れの日は思い出す

だが日頃の姿から厳しさの欠片も感じられないのだ。覚悟の仕様がない


「ま、気楽にいこーぜ!開けるぞ」


おびえ気味の雷火の日を押し切り、扉に手をかける

扉は音なくスムーズに奥に開き、中で待っていたのは雨の日と撫子の二人。大方撫子は雨の日にくっついてきたのだろう

多目的ルームのなかは、いたってシンプルな作りの体育館で、特にこれといった特徴はない


「来たかお前ら・・・っとまぁさっさと始めるから準備運動だけしてくれや」


「あ、私は暇だから来ちゃった!」


やはりいつも道理欠伸をしながら告げる雨の日と元気に手を振った撫子。さすがは雨の日のファンというかなんというか。いつでも一緒にいる気がする晴れの日

2人は返事より早く屈伸や腕を伸ばしたりなどして体をゆっくり解していく


「そいやなんで雷火は雨さんが怖いの?嫌いなんじゃないの?」


ふと、そんな疑問を投げかけてみた


「わ、わたし昔あいつに近接教わったのだけど、その時は厳しすぎて死ぬかと思ったわ。だから嫌いなの・・・ようするにトラウマみたいなものよ・・・もちろん、今思えばすごく適当な内容だったけれどね・・・」


「お、おぉう・・・」


あの強気で勝気な雷火の日がそこまで言うなんて雨の日の訓練は一体どんなものなのだろう。無謀ともいえる気楽な心構えの晴れの日だが、彼はすぐに現実を見ることになる―――


「さて、準備運動終わったよ雨さん。何から始めるっ!」


グッと腰を曲げ腰回りの筋肉を一解して雨の日の下に駆け寄る

雷火の日も一歩後から追いかけた


「早速だけどさ、二人の今の近接の実力しりてーのよ。組手してくんね?」


当然と言えば当然だ

訓練と言えば地道なランニングよりもこういった実戦経験の方が大事だから必然的にそうなるのだが突然言われては用意の仕様がない


「仕方ないわね・・・晴れの日、構えなさい」


「え、ちょ、能力は・・・!?」


だが思った以上に雷火の日が乗り気だ。すでに警棒の準備もしている

晴れの日の問いに少しだけ悩む仕草をした雨の日だがすぐに顔を上げる


「能力。あり」


「大丈夫よ!怪我しても治してあげるから!」


心強いセリフではあるが怪我をすること前提なのが怖い。確かに能力ありならば怪我することもあるにはあるだろうが、痛いのは嫌いだ。たとえ撫子が治してくれるとしても嫌なものは嫌だ


「準備はいいかしら?さっさと始めましょ」


警棒を片手でクルクルと振り回し低く構え開戦の合図を待っている。よほど晴れの日との組手がしたいのか、目には殺意まで伺える

しぶしぶ晴れの日もホルスターを腰に巻き、銃を構える


「んじゃ、てきとーにやっちゃってくれや」


「雨様・・・もうちょい開始っぽく言おうよ・・・」


雨の日の隣で撫子が肩を落として苦笑いを浮かべている

だが当の本人はなんら気負うことなく平然とその場に座り込み、二人の組手を眺め始めた

その視線の先では、いい加減な開戦の合図をしっかりと聞き取り、さっそく駆け出す戦士たちが居た


「せい、やぁぁぁああぁあ!!」


能力で宙に浮かび、高速落下しながら警棒を晴れの日の腹部目がけて的確に打ち込みに来た雷火の日を、晴れの日は手に持つ拳銃一丁で受け止めようと防御用に手を突き出す

狙い通り雷火の日の警棒は晴れの日の拳銃に吸い込まれるが、なにせ威力が大きすぎる

当然晴れの日の体は大きく後ろに吹き飛ばされ情けなく地に膝をつく


「まじか・・・こんな重い一撃だったのかよ・・・!」


「はんっ、舐めないでよね。ほら、立ちなさい。まだまだ勝負はこれからよ」


二人の目付きが完全に戦いのモードに切り替わった――――







「撫子、俺ねみぃから寝てていい?」


「ダメだよ!?」


・・・雨の日にやる気があるのかないのか、全くもって謎である

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