第三話
第三話
雷の日の部屋から出た後、晴れの日に会いに行くのかと思われた雷火の日だがやはり気が乗らず、一度自室に戻って警棒を手に訓練しようと考え現在、廊下を縦断中だ
だがその足取りも重い
「・・・はぁ」
複雑な心境で思わずため息が出る
今回の事で皆に多大な迷惑をかけたのは重々承知している。その中に晴れの日がいて、彼が命がけで自分を助けるために危険な任務に就いたことも聞いた
だからこそ余計に気が重い
「ほっといてくれてもいいのに・・・」
助けてくれたことに感謝はしている
が、雷火の日にとって晴れの日はビジネスパートナー。それ以上でもそれ以下でもないのだ
だからこそ、こういう時どうすることが正解なのかが分からない
いや、頭では分かっているが心がそれを否定する。高いプライドがあるせいだ
「わたしがあいつに、お礼かぁ・・・」
結局それを迷っていてまだ顔すら合わせていないのだ
呪いが解呪され数日は眠っていた雷火の日の様子を見に来たこともあったようだが、退院の日には運悪くか意図的にか来なかった
理由が何故かは知る由もないが、そのせいもあって余計に会いにくい
とにかく会える心構えが作れないのだ
「おヨ、雷火じゃないですカー」
「どーした?顔色が悪いぞ?」
俯き悩む雷火の日の前に白い髪に色違いの目をした二人が通りすがる
実は偽物妖精、と謳われるこの2人と雷火の日は面識そのものは少ないのだ
雷火の日も最近ようやく一人前になったのだが、実は天候荘自体にはもう数年居るのだ。だがしかしこの2人は自由奔放
それ故任務でよく海外を選び中々天候荘に居ないのだ。だから面識が少ない
「大丈夫よ、少し考え事をしていただけだから」
「そうデスか?」
「考え事ってのは晴れの事か?」
2人して勘が鋭いと雷火の日は肝を冷やす
だが隠していてもしょうがないので部外者であることも考えて雷火の日は観念してため息を吐きながら心の内を晒す
「勘鋭いわね・・・えぇそうよ。まだ顔すら合わせてなくて、礼も言えていないの。というか言うのに躊躇ってるわ」
「おヨヨ?なぜデスか?」
首を傾げる雪の日
雪の日はパット見少女だが、言動は男の子に近い
いや、ぱっと見ても男の子かも知れない、否やはり女の子・・・あれ?でも男の子・・・ここはもう男の娘かもしれない
ちなみに雷の日に聞いた話だと、雪の日の性別は
雪
・・・なのだそうだ
「ほら、わたし日頃礼とかしないから・・・なんか小恥ずかしいというか・・・なんというか・・・」
「モォー・・・素直になりまショ?」
「ツンデレもここまで来るとシャイにも見えてくるんだな・・・」
嵐の日が何か口走るのをばっちりと聞いた雷火の日は渾身の殺気を込めてにらみつける
嵐の日は一瞬身震いしてお口チャックのジェスチャーをする
「・・・はぁ、素直と言われても・・・」
「以外と、会ってみればどうにかなるもんですヨ。ほら、噂をすればナントヤラ・・・」
背後に人の気配を感じた雷火の日は弾かれたように振り返る
「な、なんであんたがここに!?」
そこにはトレーニング用のジャージを着て額に汗をにじませていた晴れの日が立っていた
何時から居たのだろうか
いくら戦闘中でないからと言って背後をまったく警戒しないわけではない雷火の日だが、完全に後ろを取られてしまった
「あー・・・そのー・・・」
何故だか晴れの日は言葉を濁す
「お前も素直じゃねーなー・・・ほれ、お前が俺らに偶然装って雷火捕まえてくれっていっただろ?」
「はい!?」
ここでまさかのカミングアウト
どうやら雷火の日は騙されたようだ
「あ!?ちょっなんで言っちゃうか!?」
羞恥からか晴れの日は少しばかり耳が赤い
「おっとすまん。口が盛大に滑った」
絶対ワザとだ、と嵐の日以外全員の思いがシンクロする
だが顔にはその思いが現れていても誰も口には出さない。特に当事者二人は気まずくてそれどころではない
「ま、まぁ兄ちゃんの言う通りお互いに素直じゃないんですヨー?少しは素直に、ネ?」
そういって嫌な微笑みを浮かべ二人はお邪魔しちゃいかんとさりげなく吐き捨て見えないところまで一瞬で消え去ってしまった
血の匂いがしたところから考えるに、わざわざ能力まで使ったのだろう
「・・・」
「・・・」
沈黙が募る
「・・・あのっ」
「・・・ねぇっ」
2人が声を発したのは全くの同時だった
思わずお互いに顔を見合わせて譲り合う
「ら、雷火からどーぞ・・・」
「いいわよ、譲るわ・・・」
このままでは関西おばちゃんよろしくの押し付け合いになってしまいそうだ
そうなっては収拾がつかないことになる、と晴れの日が口を開いた
「じゃ、じゃぁ・・・とりあえず、久しぶり」
「・・・そうね。わたし的には寝てただけで一瞬だけれど」
雷火の日の言葉には棘がないようにも聞こえる
「そうだな・・・無事でよかったよ」
言いたかったことが言えたのか、晴れの日は少し肩の力が下りる
「ん」
対する雷火の日は短く言葉を返し、今度は自分の番だと少しこわばって口をゆっくりと開く
あまりにも久しぶりに口にしようとする言葉かのように緊張している
「あ・・・あ、ありがと・・・」
「え、あ、おぉ!?」
「何よ・・・人が感謝してるんだから・・・失礼ね」
何を言われるかと晴れの日はドキドキしたが、帰ってきた言葉が予想外の感謝の言葉でつい声に出して驚いてしまった
「ご、ごめん・・・」
「まぁいいわ・・・うん。まぁ、それだけよ」
「そ、そっか・・・」
そこで会話が再び途切れる
気まずい空気が流れた
なにも黙り込む必要はないというのに・・・
「あー・・・そうだ、動いたから腹減ったな」
「はい・・・?」
突然の告白にあっけにとられる
どこか遠くを見ながら晴れの日は独り言をいうかのようにつぶやいたのだ
「そーいや、天候荘の近くに旨いクレープ屋台があったなー・・・?」
そこでチラリと雷火の日を見る
ここまで来て意味の分からない程雷火の日はバカではない
ふふっと心の中で笑い、いつも通りのツンとした態度でこう答える
「どうせ一緒にいく友達なんていないでしょ?しかたないからわたしが一緒に行ってあげるわ」
「んな!?友達位いるっての!!」
歯に衣着せぬ物言いに反論しつつもいつも通りの関係にもどれてほっとする晴れの日
「あぁ、もちろん晴れの日の奢りよね?」
「えぇ!?ちょ、なんでそーなる!?」
それだけ言い先頭を歩き出す雷火の日。その後を追うように晴れの日も足を踏み出すが、あることに気が付く
「あれ、今晴れの日って・・・?」
「ほら!もたもたしない!!」
何時の間にかはるか先まで進んでいる雷火の日の声で我に返り、晴れの日は駆け出した―――
「はぁ・・・もう分かったって・・・てかそんなにクレープが早く食べたいのかっ?んっ?」
「今度はアンタがベッド行きかしらね・・・?」
「ごめんなさい。」