第一話
第3章~轟く雷、火災を起こさん~
「迷惑かけたわね」
自分の体の本調子を確かめるように肩や首をぐるぐると回し、筋肉をほぐしながら雷火の日が患者用のベッドから立ちあがる
「全くよ・・・情けないわね~?」
雷火の日が目を覚ましてから数日後、体の調子も戻り、すっかり元気になりいよいよ退院の日
とは言っても入院と呼べるほど大したものではなく安静にしているだけの自宅療法みたいなものだった
体の調子を確認した後、いつものように髪をハーフアップに纏め上げ一応の礼を撫子に告げる
対する撫子もライバルである雷火の日には少しばかり敵意をむき出しにして白衣のポケットに手を入れたまま返答した
「くっ・・・気に障るわね・・・」
自分の失態を突かれ言い返せない雷火の日
「ふふっ・・・あぁ、ちゃんとみんなにもお礼いいなさいよ?総動員だったんだから」
「・・・えぇ。分かってるわ」
今回の件では風の日霙の日雪の日嵐の日、それから晴れの日と、かなり多くの人の助けがあった
どれか一つでも欠けていたら今頃雷火の日はこの場に居なかっただろう
そのことが雷火の日にとっては少なからず重圧だった
「・・・晴れの日君にも、よ」
「・・・」
その問いに対する返事はなく、雷火の日の足音が響くだけであった・・・
「・・・ご迷惑かけました雷様」
「いーよいーよ!!雷火ちゃんが無事で何より・・・!」
晴れの日と雨の日を除く関係者全員に謝罪と謝礼を済ませ、最後に雷の日の下を訪ねた雷火の日
分かってはいたものの、雷の日は何のお咎めもしない
風の日や霙の日は少しばかり怒った顔で『無茶しないの!』と言ってきたが、やはり雷の日はやさしい
任務失敗の事にも一切触れようとはしないのだ
「・・・そういえば、懐かしい夢を見ていました」
呪いで苦しんでいる間にみたあの悪夢
幼いころの記憶と、悪夢から逃げ出せたあの人生の転機
そのことを雷の日に話すと、やはり雷の日は黙って最後まで話を聞いていてくれた
「そっか・・・懐かしいね・・・もう数年か~・・・」
遠い目で雷の日は答える
「あの日以来雷様はわたしのこと、妹のように優しく、娘のように大切にしてくれました・・・本当に、ありがとうございます」
深々と頭を下げる
だが、雷の日がすぐにやめさせる
「頭上げなよ雷火ちゃん?そーゆー大事なことって、案外言わないほうが相手に伝わるってもんだよ!」
「・・・はい」
やはり優しい
雷火の日のとって雷の日は
父であり、兄であり、あこがれなのだ
とその時、雷の日の部屋に来客者が現れた
ドアをノックせずに開け放ち、部屋に足を踏み入れながら入室の許可を取るこの男
「うーい雷、いるか?」
雨の日だ
部屋に入るとほとんど同時に、雨の日と雷火の日の視線が交差する
その瞬間雷火の日は大慌てで雷の日の後ろに隠れる
「雷火・・・!!そこに居たかぁ!!」
「ひぃっ・・・!?」
何時もの雨の日とは打って変わった形相。つまりは真面目な顔で雷火の日を叱咤する
その声を聴いた雷火の日も、今までとは打って変わった年相応の幼い声をあげて小さくなる。これまでの威勢は見られない
「ま、まぁまぁ雨・・・落ち着こう?ねっ?」
どうどう、と雨の日を宥めようとする雷の日だが、雨の日は歩みを止めることなく雷火の日に向かって歩き出す
一歩また一歩近づくにつれて雷火の日は小さくなる
今までならば天パだのなんだの言う癖に、今だけは何も言わずおびえている
「落ち着けるかぁ!!雷火!で、てこいぃぃ・・・!!」
腕をつかみ引きずり出そうとする雨の日
だがその体はピクリともしない
「嫌!絶対やだ!雨怖いんだもん!!」
「お前の・・・無茶のせいだろう!てか口調戻ってんぞ・・・っがぁああ!って重いわ!!」
雷火の日は地面が抜けない程度に限界まで体重を引き上げ雨の日に対抗している
腕をつかみ全身全霊で引きずり出そうと頑張るが当然と言えば当然。雷火の日が動く気配はない
「ふ、二人とも落ち着いて!?ね!?」
このままだと何か壊しかねない力み具合の二人を見かねた雷の日が間に入って雷火の日の腕から雨の日の手を引きはがす
「らいさまぁ・・・っ」
涙目でゆっくりと立ち上がる雷火の日
まるで今までのとげがすべて抜け落ちたかのようだ
だが、雷の日は気に留めない。これが雷火の日の素だと知っているからだ
「ごめんね雷火ちゃん・・・雨は俺には止められない・・・」
「そんなぁ・・・ぐすっ」
見放された子供の様に再び座り込む雷火の日
しかし座り込み切る前に雨の日が腕をがっしりと掴んだ
「と、いうわけだ雷火・・・さぁそこに座れぇ!!」
「やーだー!!」
だがもうどうしようもない
能力を使われる前に、と雨の日は雷火の日を軽々と持ち上げ雷の日の部屋の中央にあるソファに座らせ、自身は向かい側に深く腰掛ける
雷の日はというと、この場の空気には一切関与しないとでも言いたげな顔で自身専用のいすに座り遠い目をしている
「やだじゃない!いいか!?任務に行かせた俺たちにも責任はある!ってか俺らにしか責任はない!」
向こうでは雷の日が力強く頷いている
どうやら雷の日も思うことを雨の日が言っているのだろう
「だからこそお前の生還を誰よりも喜んでんだよ、俺らは。だからそんな申し訳なさそうに礼とか謝罪とかしてまわるなっての!」
「え・・・?いつものお説教じゃないの・・・?」
俯いていた顔を上げて不思議そうに尋ねる雷火の日
組んでいた腕をゆっくりと雨の日は解き、前かがみになって雷火の日に話しかける
「ある意味じゃお説教かもな。あれだ、辛気臭い顔してねーでもっと明るく、『ただいま帰還!ツンデレ雷火です!』位いえってことだ、どーせお前の事だから強がって『心配かけました雷様』と言ったんだろ?がきのくせに大人ぶりやがって!四年早いわ!」
先までの真面目な雰囲気はどこへやら。いつもの雨の日だ
「んなっ・・・言えるわけないじゃない!!バカなの!?」
雷火の日も服の袖で涙らしきものを拭い、いつもの調子に戻っていた
「なによ・・・またお説教かと思ったじゃん・・・」
「雷火ちゃんは雨のお説教がトラウマレベルだもんね・・・」
ここまで客観をしていた雷の日がこぼすように言葉をかける
「ち、違います雷様!!こんな天パの事なんか・・・!」
びしっと雨の日を指さし立ち上がる雷火の日
だが雷の日は、はいはいと笑いながら流すだけでまともに取り合ってはいないようだ
「あ!お前天パをバカにしてっと天パになるぞ!!」
「ならないわよバカ!!」
「バカとはなんだ!バカっていう方がバカなんですー!」
―――君が、美咲ちゃんだね?
雷様はお母さんみたいで、お兄ちゃんみたいだった
―――バカやろっ!強くなりたいのと無茶するのは全くの別もんだ!!
あの天パ野郎は手厳しく口うるさい父親のようなものだ
そう。私にとってはあの悪夢から助け出してくれたヒーローは二人
一人はやさしくて大好きで、もう一人は厳しすぎて嫌。怒ると私でも元の弱い私になってしまう。でも2人に弱さは見せたくない、つまるところ反抗期なのだ
だから、親しみと感謝を込めて私は二人のことをこう呼ぶ
「全く・・・でもまぁ一応言わせてもらうわ。わたしは死なない。ただいま雷様、天パ皇子」
「うん!」
「おう」
雷火の日、完全復活!