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変革者  作者: 雨の日
第二章~偽物妖精の双子~
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第二十九話

第二十九話


「お前はどうしていつもそうなんだ!!」


「なによ!!あなただっていつも無関心なくせして!!」


わたしの家は、いつも喧騒の声が絶えなかった

少し昔は、笑いの絶えない家族だったのに


「大声だすなよ!!美咲が起きるだろ!」


「知ったことじゃないわ!あんな子供、化け物じゃない!」


そう、わたしが4歳の頃変革者として目覚めた日から家族は変わっていった

文字通り、わたしが、家庭を変革する

変革者に成り下がったのだ







「おはよう・・・あれ?ママは・・・?」


これは、わたしの物語

まだ幼い、6歳のころの話―――


「・・・美咲か・・・ひっく・・・」


父は朝からお酒を飲んでいた

いつもなら仕事に出かけ、母が朝食を作っているはずの時間だ

だが、いつもいないはずの父がこの場にいて、いるはずの母がいない

この事実に感ずく程当時のわたしは大人じゃなかった


「ねぇパパ・・・ママは・・・?」


「・・・せぇな」


お酒を飲みながらつぶやいた声はわたしの耳には届かない。子供だからこそここで聞き返してしまった。それが父の逆鱗に触れる


「え?なんていったの・・・?」


その時だった

手に持っていたグラスを壁に叩きつけ、父は突然立ち上がった


「うるせぇっつってんだよガキが!!あの糞アマならどっかのチャラオのATMになりやがったよ!!もうお前の母親は、どこにもいねぇんだよ!!」


「ひぃっ・・・」


普段おとなしい人柄だった父だけに、ものすごく恐ろしかった

優しい父も、母も、どこにも居なくなって一人になった気がした

この時わたしは涙を浮かべ、泣く寸前だった

だが、父がそれを許さない


「泣くな鬱陶しい!!黙って部屋行くか出ていけ!!てめぇ見てっとあの糞アマ思い出してむかつくんだよ!!」


砕けたグラスを気にもせず、缶のまま酒を一気に飲み干す

そして強く机にたたきつける。乱暴にたたきつけられた机が揺れ、上に積まれた飲み終えたお酒の缶が落ちる


「で、でも・・・ぐすっ・・・がっこう・・・」


「あぁ!?学校だァ!?行くだけ無駄だボケ!金もかかるしな!!分かったら俺の前から消えろォ!!」


「ひぃぃっ!?」


わたしは・・・一人になった






8歳の頃―――

相変わらず父は朝から酒を飲む毎日だ

生活費がどこから出ているのか今思えば気になるが、学校にも通わず、毎日家かその辺の公園にいるだけのわたしにはそんなこと考える余裕も知恵もなかった


「おい」


「・・・な、なに?」


「酒」


空になった缶を横に振り新たな酒を要求する。泥酔を超えもはや病人にも思えるその姿は、ひどく痩せこけ筋張っていて生気もない


「冷蔵庫」


面倒くさそうにつぶやき、わたしも黙って冷蔵庫まで行き、埃の被ったドアを開ける

だが、中には酒はおろか、食材の一つもなかった


「な、なにもないよ・・・?」


「アァ!?」


「ひっ・・・」


目と鼻の先を空き缶が掠める。投げられた缶は掃除されることなく放置され埃のたまったタンスに当たり、上から埃が舞う


「買ってこいや!!ア!?」


「でもお金ない・・・」


「てめぇの体でもなんでも払えや!!」


そういわれ、裸足のまま無理やり外に投げ出される

まさに理不尽極まりない

だが、買って来るまでわたしは家に入れてもらえないのだ

マッチを売る少女の話より過酷で残酷だ


「ぐす・・・もう・・・やだよぉ・・・」


毎度おなじみとも思える回数この惨事は続いていた

ではこんな時はどうするのか

盗み・・・はしない


「・・・またかい?美咲ちゃん」


「ぐず・・・ごめんな・・・っさい・・・」


やれやれとため息をつきながら酒屋の店主さんが酒を何本か分けてくれる

もちろん、期限ぎりぎりの廃棄品だ


「いいっていいって・・・美咲ちゃんのお父さん、怖いもんね?ほら、持っていきな」


この町の人々はほとんど大半が道重家の歴史を知っている

だからこそ、優しく接接してくれる

最初は、やはり変革者ということでのけ者にされかけたが、能力を上手く人助けに使うことで何とかここまでの信頼関係が築けたのだ。もちろん父には知られていない


「ありがとう・・・あの、警察とかには・・・!」


「だーいじょうぶだって!そんなことしたら、美咲ちゃんの身が危ないもんね・・・悔しいけど、おじさんにはどうしようも・・・」


前に一度警察を呼んでくれたことがる

だが、その時父は部屋を片付け、警察に対し、そんな通報嘘だと言い張ったのだ

さらに証拠不十分でなんのお咎めもなし

その代りわたしは1週間外出もろくな食事も禁止された

理由は八つ当たりだ


「大丈夫!頑張ってじりつ?するから!」


「お!自立なんて言葉知ってるのか!えらいぞ~!」


「えへへ・・・」


おじさんに優しく撫でられ、思わず笑顔になる

だが父が怒り出す前に帰らねばならないと思い出し、お礼を改めて言って急いで家に駆けだした








16歳の誕生日。わたしの人生は転機を迎えた


「おい、美咲」


「・・・なによ」


わたしは強くなろうと決めた

9歳の誕生日に、私は町の人から勉強道具と参考書を貰ったのだ。不憫に思っての事だろう。本当に感謝の気持ちでいっぱいだった。それから毎日図書館で勉強をした

口調も、その時たまたま通りかかった電気屋さんの店頭テレビでやっていたアニメのヒロインにあこがれて真似をしている

何度か父に生意気だと怒鳴られたが、不思議とこの口調とそのアニメのヒロインのお陰で耐えられたのだ。強くなれた気がした

だが、それと同時にあまり感情を表に出さなくなった


「なによ、じゃねーよ今日は16歳の誕生日だろーが」


今日までの幾年もの間まともに会話すらしなかった父から誕生日という単語が出るなんて思いもよらなかった

そういえば、父が酒を飲んでいない


「そうね・・・それが何か?」


「ほれ、ケーキでも買ってこい」


くしゃくしゃの1000円札を投げ渡され父はぶっきらぼうに言う

目が点になるわたしを見てさらに父は付け加える


「そうだ、夜まで帰ってくるなよ?理由は聞くな?」


酔っていない父と話すのはいつ以来だろう

わたしは上機嫌になり、力強く頷き玄関を飛び出していく

だが部屋に残った父は下唇を怪しく舐めた―――








小さなケーキとジュースを片手に鼻歌を交えて軽い足取りで家に向かう

わたしが上機嫌なことがよほど珍しいのか、すれ違う知人全員に誕生日が嬉しいかい?と微笑みかけられる

もちろん、そうだ

何年ぶりの優しい父だろう

何年ぶりの誕生日だろう

わたしの心は躍っていた


「ただいまっ」


アニメヒロインの口調など一切頭から抜け落ち、わたしは笑顔でドアを開け放つ

家の中は、真っ暗だ

クラッカーがなるのだろうか

そんな楽観的なことを考えていた

だが、いくら待っても何も起きない。不審に思ったわたしは部屋の中を恐る恐る眺めた


「パパ・・・?」


だがその呼びかけに返事はない。あるのは静寂


「居るの・・・?」


ゆっくりとリビングに向かう

そこにも誰もいない

なぜなら父はこの時―――

背後にいたのだ


「きゃあっ!?」


「美咲・・・美咲ぃ!!」


突然後ろから羽交い絞めにされ身動きが封じられる

突然の出来事にせっかく買ったケーキがなすすべなく床に落ちる

ぐちゃり、と嫌な音が鮮明にわたしの耳に届く


「ぱ・・・ぱ!?」


「今日で・・・16歳だなぁ!?んん!?」


その眼は

血走った獣の目付きだった


「まったく・・・こん、な色付きやがってよぉ!!」


「ひぃっ!?」


父の力が一層増す

そしてそのまま押し倒される


「ほら・・・こちとら大分我慢してたまってんだよ!!娘だろ!?パパの言うことは聞かないとなぁ!脱げやオラァ!!」


「いや・・・いや・・・!」


なんとか抜け出そうと試みるが、父の体重からは逃げられない

能力を使えばよかった話だが、あまりに急な出来事に冷静さを失っていたのだ


「ふふ・・・ふふふふ・・・誕生日・・・おめでとう美咲・・・!」


「いやぁぁぁあぁぁああ!!」


『ったく変態ジジィが、自分の娘襲ってんじゃねーよ』


ドアの向こうから男の声が聞こえた。ひどく乱暴な口調だ。それにため息も交じっている


「アァ!?」


突然の訪問に一瞬父の動きが止まった


『雨、あの最低な野郎は頼んだ。俺は美咲ちゃんを』


今度は違う人の声。今度は落ち着いた優しい声だ

どうやら二人いるようだ


「人の家の前でゴチャゴチャうるせーぞテメェラ!今いいとこなんだから黙ってろ!!」


『おーおーいいところ、ねぇ?なら俺も混ぜろやコラ。3秒以内になぁ!!』


『雨・・・そんなこと言ってる場合か・・・』


わたしは父に裏切られた悲しさと、現状の恐怖で声も出ない

成之に流されるしかなすすべがない

父が、苛立ちを抑えきれず私をその場に残し近くに置いてあったゴルフクラブをもってわたしに鋭くいやらしい目を向けた後玄関に向かい、外の二人に怒鳴る


「黙れって・・・言ってんだろぉ!!」


『テメェが黙れ豚野郎』


『お前が黙ってろ』


ここまで濃い殺気をわたしは後にも先にも感じたことがない

二人同時に放たれたと思われる殺気は父に向けられたはずだが、わたしにまで余波があった


「か・・・はっ・・・!?」


あまりの殺気に息が詰まる父


『さ、て・・・ぶっ壊すしかないか?』


『よろしく雨』


動けない父に関心がないかのように、二人は会話を続ける

そして、身が飛び上がるほど大きな音が聞こえドアが粉々に砕け散り、父の断末魔の悲鳴をわたしは耳にした―――









「美咲ちゃん、だね?もう大丈夫だよ。君の父親も多分死んではないはずだけど雨がぼっこぼこに制裁してくれたから、ね!」


真っ暗な部屋に明かりがさす。そして差し出された手は

これまで握ったどんな手より

これまでかけられたどんな励ましより

暖かかった・・・






















「ん・・・んぅ」


「雷火!!気が付いたか!!」


そしてわたしの前にいるこの男。銃の引き金を引いて熱を生むこの男

晴れの日が今の私を認めてくれている。一人じゃないと叫んでいる

雷様とはまた違う認め方をしてくれるこの男こそ

名前通りの太陽のように、暖かい存在なのかもしれない―――


「五月蠅い・・・見ての通り、よ」





In this 「変革者」

      第二章~偽物妖精の双子~

             the end

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