第二十五話
第二十五話
「いっくぞぉぉっ!!」
そう一叫びする霙の日。雄叫びに身の危険を悟る変革者は表情こそ動かないが体を低く構え、どの方向からの攻撃にでも対応できるようにする
「・・・」
「んもー・・・なにか反応して、よ!!」
「洗脳受けてるから無理だよおねえちゃん!」
返事がないのは想定内。だがどこからか助言のようなものを入れてくれる男の子の声が聞こえた。誰が言ったのかは分からないが肝の座っている男の子なのだろう
感心しながらも掃いて捨てるように言い放ち、大きく上に飛躍する。もちろんここは室内で、空中戦などまず不可能だ
だが霙の日の狙いはそれではない
「ふふっ・・・一撃あれば十分」
霙の日の目付きが鋭くなる。まるで獲物を見つけ急降下する鷹のようだった
だが洗脳された変革者は獲物になる気はさらさらない様子
「・・・壁よ、私の足元になって!」
「な、なんと!」
驚きのあまり一人のおじいちゃんのいればが飛び出す。汚い・・・
だがその光景に目もくれず小さく呟くと、霙の日の足元、つまり空中にいる霙の日の足元にコンクリート製の柱が地面と平行に突き出てくる
それを足場にさらに変革者の上に跳ぶ
「・・・!」
自分の真上を飛ぶ霙の日に対し苛立ちと不安を感じたかのような挙動。銃を打つが当たる気配すらしない
もちろんこれも作戦の内だ
「前!横!下!前!!」
声に合わせて次々と柱を作り出し、それを足場に蹴って飛んで着地してまた蹴る
ほんの少しでも柱の位置がずれれば落下するであろうこの空間内で寸分狂わずにコンクリートを素材に合成した柱を作る
その速度はどんどん加速する
「もっと・・・もっと速く・・・!!」
徐々に霙の日の体がぶれ始める
それだけ高速度で飛び回っているのだ
室内とはいえ、変革者を収容しておく場所。それなりに広く、大量に柱を作ってもまだスペースに余裕がある
「・・・!?」
「姿が分身してるの!?すげぇよねっちゃん!」
高速移動で残像が見え、若干ぶれているのは事実だが、分身はしていない
変革者はなんとか動きを止めてやろうと銃を乱射するものの、当たらない
それだけの速度が今の霙の日にはあるのだ
元々、霙の日は隠密行動のスペシャリスト。一撃で敵を葬ることが多いのだ
だからこそのこのスピード。制約が厚着だとは到底信じられないが、額に滲む汗を見るにそうとう暑いのだろう
「は、ぁぁぁああああぁ!!」
遂に霙の日が動く
背後に回り込み、今まで空中で飛び回っていたが地上に降り立つ
右手にはいつの間にか作り上げたのかナイフのようなものが煌めくのがハッキリと見える
振り返られる前に、右手のナイフを変革者の背中に突き立てる
グシュっと嫌な音と共に鮮血が舞う
「んぺっ・・・血が口に・・・あ、急所は外したからね~!」
「つ、つえぇ・・・」
「本当に一撃かよ・・・」
檻の中からなにやら呟く声が聞こえるが、ここは賞賛だと思って聞き流そう
背中を刺されていればいくら洗脳されているとはいえもう立ち上がれないだろうと踏み、ピクピクと体を痙攣させる変革者を横目に、霙の日は勝利を勝ち取り、順に収容されている変革者の檻のカギを分解し、全員の救出に成功したのだ
「ありがとう!」
「助かりました!!」
霙の日が思っている程意気消沈している人はいなかったようだ
みんな脱出の喜びをハグや握手でかみしめる
だが、まだ任務そのものは終わっていないことを知っている霙の日は素直に喜べないのであった
「・・・新人くん」
心配そうに晴れの日の向かっていった先に目を向ける
だが、すぐに変革者の誘導をしなければならないことを思い出し、きもちを切り替える
「・・・じゃぁ、出口までいくからみんな服を一枚かしてくれないかな!!」
「服?」
「別にいいわよ・・・?」
全員が半ば理解不能だと言わんばかりの顔で服を一枚脱ぎ霙の日に渡す
それをためらいなく着始める霙の日
制約、だ
「まぁまぁみんな!一気に上まで行くからね!!」
もはや雪だるま状態の霙の日。目を閉じて全神経を集中させる
そして手を前に突きだし・・・
「天井消えろ!階段でてこぉぉい!!」
カッと目を開き叫んだ
厚着すればするほど能力は飛躍的上昇を見せる
触れていないはずの天井が能力によって空気レベルにまで分解され、地面からは地上に出るための螺旋階段が生えてきた
「さぁ!この階段から上に行けるわ!脱出だよ!!」
これで、最優先事項の任務は達成できた
だが、先に進んでしまった晴れの日や陽動といて動く雪の日、嵐の日。戦闘を開始してしまった風の日。全員の事を考えると、このまま、はい帰宅。とはならないだろう
この任務、まだ少し時間がかかりそうだ
と、その時霙の日の端末に着信が
撫子からだ
「・・・はいはーい?何か問題起きちゃった・・・?」
『よかった・・・繋がった・・・っと、最悪の自体かもしれないわ!』
電話越しでも伝わる緊迫した空気
『・・・?・・・!!・・・っ!』
「嘘・・・でしょ!?」
霙の日から余裕が消え去った―――・・・