第二十四話
第二十四話
爆風の原因は、晴れの日が熱で空気を一瞬で熱し膨張させたことが原因だった
狙いは千鳥足で足元に踏ん張りの効かない女性たちを無傷で遠のかせること
案の定、成功だ。女性たちは全員部屋の端まで吹き飛ばされ、意識を失っている
「んな！？はっ！？おもちゃの気持ち！？舐めたこというなぁ！」
「舐めてるのはお前だ―――」
遮蔽物の無い直線状に二人は対峙する
ゆっくりと銃を片手で構え引き金に指をかける
「や、止めろ・・・っ！？来たか！！」
一瞬目に恐怖の二文字がよぎった宋だが、一人の援軍の気配を感じ取り、歓喜に声を上げた
「・・・誰だ？」
「・・・」
目に生気がない
先の洗脳者ではないようだが、確実に洗脳を受けている形跡がある
腰には短刀が差され、口元には黒いマスク
「バカめ！！そいつは俺のおもちゃの中でも最高傑作！！さぁ、やっちゃえ！」
腰を抜かし、若干逃げつつあるが命令は欠かさない
その変革者は腰の短刀を握り・・・
「・・・はぁっ！！」
「・・・！？」
「え！？え！？」
三種三様の反応だ
晴れの日は覇気のこもった声で引き金を引き
変革者は抜き放った短刀を見つめ困惑
宋は現状が把握できず、慌てふためく
「雨さんに教わった射撃だ・・・短刀溶かすくらいなんてことない！！」
そう、晴れの日は変革者が短刀を抜き放つその刹那に引き金を引き熱を生み、刃を跡形もなく溶かしきったのだ
もちろん、誰も気が付くことなく刃は消え去る
武器を失った変革者と宋の目に再び恐怖の文字が浮かぶ
「観念しろ・・・！！人の命の重さを知れ・・・俺の母親に雷火・・・」
銃をまっすぐに宋に構えなおす
背中を変革者に向けるが、命令されなければ動けない。だが、肝心の司令塔は腰が抜けきっている
「お前らに、俺の大切なものを奪う権利なんかねぇんだぞぉぉぉ！！」
一方、西口では―――
「ほーらほらほらほら！！防戦一方じゃない！！」
今度はキーボードを乱雑に弾き始め、一音一音違うタイプの衝撃が風の日を襲い、すべての衝撃をかろうじてよけ続けるが、体力的にも限界が近い
「にゃんどもにゃんども・・・！！」
「なんかさ～その猫キャラも飽きてきたんだけど。そろそろ終わっていい？」
キーボードから手を放し、バイオリンをどこからか持ち出して構える
先までの乱雑さから一転。目を閉じて呼吸を整え始めた
「終わってもいいけど、あにゃたが終わるのよ！！」
動きが止まったのを好機とみなし、水平に鎌鼬を一閃。胴の中心を狙った一撃だ
その一撃は確実に胴に吸い込まれる・・・かと思われた
だが
「・・・演奏の邪魔」
カッと見開かれた目の威圧とバイオリンの奏でる一音が、砂を息で吹き飛ばすかのようにいとも簡単に風を消滅させた
「んにゃ！？」
「バイオリンの音色は、心を和ませる―――・・・」
「え！？ちょ、さっきまでのキャラクターは！？」
あまりの豹変差に戸惑い、思わず攻撃の手を緩めてしまう。もちろんこれも作戦のうちかもしれないが、それが念頭にあったとしてもこの豹変っぷりに取り乱さないほうが無理だ
「・・・黙りなさい」
「・・・！？」
一瞬。まさに一瞬だった
空気の流れの変化に気が付かなければ今頃、風の日の体は完全に消滅していただろう
「にゃ、にゃんて威力・・・」
「避けられたか・・・！」
先まで風の日が立っていたところには、草木一つ残らず、土くれさえ消え去り、巨大なクレーターが出来上がっていた
それも、ほんの一瞬の出来事だった
「ならもう一発・・・！」
「く・・・っ！」
大爆音鳴り響く攻防戦。軍配は一体どちらに上がるのだろうか・・・
北口―――
「兄ちゃん、このままじゃキリないデス・・・」
「俺も今考えてる・・・どーっすか・・・」
こうしている間にも徐々に二人の周りには洗脳された変革者があふれかえる
雪の日が氷の弾丸を作り、嵐の日が回転を加えつつそれを的確に心臓目がけて打ち込んでいくが、どうやら変革者としての勘は残っているようで、回避行動の技術や仲間意識も高まり、あまり成果は芳しくない
「っ・・・五時の方向から火球！」
「はいデス！」
的確な判断と一瞬の行動で、背後からの火球に反応して氷の壁を生み出し、難なく防ぐ
だが、すぐに第二撃が襲い掛かる
「兄ちゃん、上からデス！」
とっさの判断。まさに戦闘の勘だけで行動に移る
嵐の日の暴風が、二人の体をつつみ、その場から一斉に退避する。その刹那、上空から一発の砲弾が降ってくる。もちろん、爆発するだろう
ここに、氷の変革者がいなければ、だが
「雪！」
端的な呼び声を聴き終える前に寿命の長さを削った能力が発動する
超瞬間冷却だ。制約が大きい代わりに、どんなものでも一瞬で凍り付かせられるこの技を、雪の日は眉ひとつ動かさず簡単にやり遂げる
「兄ちゃん、一旦上にいきまショ！」
「わかった」
左手の流血のし過ぎに気を付けながら再び舞い上がる
眼下に広がるのは上を見上げ、生気のない目で見上げてくる変革者達だった
あまりの光景に、二人の顔は―――
「・・・不謹慎ですが、この状況少し興奮しますネ～」
「俺もだ。久しぶりの苦戦だからだろーな」
思いのほか笑顔だった
「さて、ここらで終わりにしますカ？新入りのあの雷火の日の容体もありますシ」
少しばかり不満そうな顔ではあるが、この状況下での最優先事項をきちんと理解しているようだ
嵐の日も異論はない様子
「仕方ねーな、一気に決めるか・・・」
さらに腕の出血を増やす嵐の日
暴風が、嵐の日に集まり始める
そのさらに上空では、雪の日の氷が同じように集結しだしていた――――
道中、霙の日
着弾した弾丸が光だし、火薬の危険な香りが霙の日の鼻を衝く
だが、危険な香りであっても食らわなければなんてことはないのだ
時間にすれば一秒など到底たっていないその刹那の時間に霙の日の手は動く
そしてついに爆発が巻き起こる。巨大な火球と暴風が吹き荒れ、周りにいる収容された変革者にも余波が襲い掛かる
そして黒煙が立ち込めた
「きっかないんだな～これがっ！」
だが、黒煙が晴れた時、霙の日は何のダメージもなくその場で仁王立ちをかましていた
さらに言えば、周りの変革者達もけが一つ負っていない
「空気とか壁の破片とか服の構造を変えちゃえばそーんな爆発効かないもんね！！」
自慢げにピースサイン。もちろん敵である変革者の表情に何の変化もない
まるで人形に話しかけているようで、霙の日は少し悲しい気持ちになるがそんなことを思っている場合ではない
「さて！！こっからは私の番だね！準備完了、反撃開始！」
地面を強く両手で叩く―――
