第二十話
第二十話
北口
「どーしますか兄ちゃん・・・?」
こちらでは洗脳された変革者をどうするか考えている真っ最中だった
もちろん洗脳された変革者からの攻撃が止んでいるわけではない。だがすべて雪の日の氷が一寸狂わず盾を作り出し防いでいる
「できれば殺したくはないけどなー・・・一応仲間だしよ」
ちらりと洗脳された変革者の一人を見る
千鳥足に虚ろな目。栄養を摂っていないのか痩せこけている
正直・・・
「やっぱ・・・楽にしてやろーぜ」
「デスね」
瞬く間に増えた変革者たちは雪の日と嵐の日をとり囲み、一心不乱に能力を放っていた
爆発に念力、刃物に砲弾。多種多様な攻撃が二人を襲うがまったくもって通用しない
「さて、そうと決まれば静かにしてもらうか・・・」
「一気に行きまショー!」
2人は気持ちを切り替え背中合わせに構える
もちろん洗脳された連中のなかには天候荘の人もいなくはないだろうし、他の支部に所属している人もいるだろう
だが、ここまで来てしまった以上楽にするほかない。一瞬目を閉じて集中力を高める
「まずは凍ってもらいますネ」
反撃ののろしは雪の日からだった
静かに手をかざし比較的動きの遅い変革者を氷漬けに変える。そして一瞬で粉々に砕く
せめてもの情け。苦しまずに逝かせるのだ
「・・・ッ!?」
しかしその直後、粉々にした変革者のすぐ後ろから衝撃波が襲いくる
しかしいち早く気が付いた雪の日は氷の盾を後ろに顕現させて防ぐ
だがその隙をついたつもりなのか数人の変革者が自分の体を剣や斧に変えて向かってくる
意識はなくとも殺すという理念はあるようだ。確実に命を奪いに来ているのがわかる
振り下ろされる軌道はすべて急所を狙ってきているのだ
「危ないデスネー・・・」
極力少ない動きで全てをよける雪の日。さらによけながらも変革者を凍らせていく
その時背後からなんの気配もなく一人の変革者が目を怪しく光らせて――
「ふ・・・んっ!」
攻撃が繰り出される一寸直前
突如暴風が雪の日の後ろをかすめ背後に立っていた変革者が吹き飛ぶ
嵐の日の能力だろう。まさに間一髪だった
だが常日頃時を共に過ごす二人の間に礼の言葉はいらない
行動で返すのだ
嵐の日は左手をさらに傷つけ流血の量を増やす。そして風で自身を浮かせ上空に変革者の視線を集めた
「雪」
「分かってますヨー」
呼吸をするかのように簡単に氷の槍を上空に作り出す
「よし・・・狙うは急所!!死にさらせぇぇ!!」
嵐の日の号令により一斉に槍が降り注ぐ
頭上からの攻撃を常人ならば防ごうと思えば防げるだろうが、変革者達にそんな頭脳は残っていない
ただただ全身で槍を受けた
「悪くおもわねーでくれよ?」
「・・・!?兄ちゃん!!」
雪の日の声にはっとする嵐の日。だが時すでに遅し
死んだと思っていた変革者からレーザーが放たれる
「くぅっ・・・!」
またもや間一髪
風を上手く操り軌道を反らしたおかげで直撃は免れる
頬を掠めたレーザーははるかかなたの空に吸い込まれていく
「不死身なのですカ・・・?」
「・・・に、近いかもしれねぇ。俺の狙いは完璧だったが雪が粉々にしたやつらは完全に死んでるし」
これはまた厄介な敵が現れたものだ
不死身に近く、能力をつかえ、数も徐々に増え続ける
だが二人の顔に焦りや不安の表情は無く、ただ純粋に、面白いおもちゃを手にはしゃぐ子供のような笑みが浮かんでいた
西口
風の日VS梶原
「はぁあっ!!」
鎌鼬を一回に大量に放ち、地面をえぐりながら梶原を襲う
だが梶原も負けじと楽器を切り替え、対抗策を出す
「防御だってお手の物よ」
フルートをしまい、シンバルを背後に積まれた楽器たちの中から発掘する。いつの間に用意したのか、いたるところに楽器が隠してあるようだ
そして取り出したシンバルを乱雑に思いっきり叩く
「んにゃっ・・・かた・・・っい!!」
シンバルから生まれた音の盾は風の日の鎌鼬の威力を完全に消し去る
小手調べとはいえ風の日もそれなりの力で叩き込んだ一撃だ
それが簡単に防がれるとは・・・
「ウチに勝ちたきゃ出し惜しみなしで来なよ。本気で殺しに来なきゃすぐウチが殺しちゃうぞっ。てへっ」
ふざけた言葉ながらも目が座っている
殺しのプロの目だ。血で血を洗う人生を送っているのだろう。言葉でさえ風の日を傷つけようとしているような殺気だ
「それじゃあお言葉に甘えようかにゃっ!!」
横に大きく飛びながらも風を打ち放ち、まずは梶原の持つ楽器を狙う
だが梶原はかわさずに楽器に風が直撃するのを黙って見届ける
「・・・あーりゃりゃ?まぁ新しい楽器出せば問題ないか~」
「させないにゃっ!!」
猫語なのが若干戦闘に対してコミカルが増すが制約上仕方ない
だが猫になりきればなりきるほど鎌鼬の規模も切れ味も増す
大きく一閃。巨大な鎌鼬が梶原目掛けて放った。一直線に梶原目掛けて飛ぶ鎌鼬は、空気すらも切り裂きヒュンッと音を立てて飛び掛かる
「ふーんっ?」
しかし上体を反らされて難なくかわされてしまう。音速に近い攻撃をあっさりかわすとは恐ろしい反射神経だ
さらに、起き上った梶原の手にはマラカスが握られていた
「小さくても強力な武器だからね?」
舌をチラッとだしながら揺さぶるマラカスから波動なる衝撃波が生まれる
その規模自体は大したことの無いものだが小刻みに放たれる衝撃波直撃はまずいだろう。食らえば連続で食らってしまいそうだ
「相殺にゃっ・・・!」
バックステップで十分に距離をとり負けじとこちらも小刻みな風で対応していく
だが徐々に近づいてくる衝撃波に風の日は焦りを覚え本気の鎌鼬でまとめて掃討した
だがしかしそれがミスだったのだろう
巨大な鎌鼬に砂煙が舞い上がり、風の日の視界は完全にくらんでしまう
「ほーら、強力でしょ?」
随分と嫌味ったらしく笑いながら風の日の背後を一瞬で確保する
戦闘において背後はもっとも危険な立ち位置。風の日だって教官の身だ。そのことくらい心得ているのだが、それ以上の動きを梶原が成し遂げるのだ
「それは私もにゃんだな~」
「・・・!!」
風邪の日の不敵な笑みと殺気
梶原がここで一歩止まったのは賢明な判断だっただろう。敵にしてあっぱれを送る
「ノーモーションで打てるのねっ。ちょっと感動・・・」
うっとりと自分の腕から流れる血液を舐める梶原
風の日がノーモーションで放った鎌鼬は残念ながら望み通りの効果は表れなかったが、なんとか一撃食らわせられた
「にゃんっ・・・舐めるのは血だけにしておきなさい?」
「えへへっ・・・黙れ野良猫」
目付きが変わった
そして後ろの草陰に飛び込み楽器一式セットらしきものを携えて現れる
どうやら本気以上で戦うつもりなのだろう
対する風の日は
「猫を舐めると痛い目みるにゃよ~・・・?」
戦闘はさらに激化していく――――