第十九話
第十九話
西口、交戦開始――
とは言っても完全に奇襲攻撃だった
まず、風の日が鎌鼬を一閃に払い、警備で周りに目を光らせていた兵を上下に両断した
もちろん即死。できるだけ苦しませないようにとのせめてもの慈悲だ。長年変革者として生きてきた彼ら天候組は、人を殺すことにためらいはなくとも慈悲はある。もしそれを忘れてしまえばただの殺人鬼になると、昔教わったのだ
次に晴れの日が風の日の奇襲に気が付き意識をそちらに集中している兵の目を狙って引き金を引いた
何故目なのか・・・それはやはり殺しに対して無性に抵抗があるからだ。ここでやらなければ自分が、雷火の日が死ぬかも知れないと思っていてもなぜか踏ん切りがつかない
だからこそ続けてその後ろの兵も同じように目を狙う。当然打たれた二人は失明。さらに痛みにより気を失ってしまった
そのころ晴れの日の対岸では霙の日が得意の隠密行動での暗殺で一撃一撃で兵を沈めていき、分解の能力で武器を完全に分解させていく
その一撃は急所や顎簿粉砕だ。まさにステルス攻撃。一糸乱れぬその動きは実に洗礼されている
「こっちにも侵入者だぁ!!」
倒しそびれた兵士の一人が仲間を呼ぶために声を荒げるのが三人の耳にも聞こえた
だがその声には恐怖の色がハッキリと浮かんでいて声が震えている
「そ、総員構え!」
「霙の日!晴れの日!私の後ろに!!」
二桁ばかりの兵士たちが銃やRPGを構えている
その攻撃の危険性をばっちり理解している風の日は二人を自分の後ろに下がらせる
恐らく防ぐ気なのだろう
いまだ未知数である風の日の能力――――果たして―――
「砲火!!」
「・・・にゃんっ」
小さく呟いたのを晴れの日は聞き逃さなかった
さらに言えば心なしか風の日が本気で猫に見えたのも事実
獣人化が能力なのか。その単語が晴れの日に浮かんだが、それは間違えだとすぐに気が付くことになる
「裂け・・・!」
腕を横に大きく一振り
それだけで放たれた銃弾および砲弾はすべて細切れになり威力なく地面に転がって行った
これが風の日の能力―――鎌鼬だ
「・・・姫はね、嵐のおししょーさんで、鎌鼬を操るの」
そっと霙の日が補足してくれた。これで納得が色々といった
一方、銃弾を切り裂かれた兵たちはやはり唖然としている
やはり目に見えない攻撃なだけ理解が追い付かないのだろう
だが、ここで攻めないほど優しい連中でないのが天候組だ
「霙の日っ!」
「うん!!」
風の日がしゃがみその背中を霙の日が蹴って大きく跳躍する
兵たちは当然のように上空にいる霙の日を目視して銃を構える。だがその隙に風の日が一気に兵たちへ突っ込み懐に入り込む
だが負け惜しみに、と銃を乱射しまくる兵も中にはいた。空中で身動きが取れない霙の日に向けて引き金を引き銃口が火を噴く
「ふふんっ効かないのよね~!」
銃の格好の的になった霙の日は両手を上に振り上げる
その時地面から土柱が現れ霙の日を救い上げながら銃をすべて弾いていく
そしてそのままはるか上空にまで伸びてゆく土柱
「にゃんにゃんっ・・・上ばかり見てると転ぶわよ」
静かな殺気に気が付かない程おろかな兵はこの場にいなかった
すべての兵がようやく、自分たちの隊列の中心に恐ろしい戦士がいることに気が付き視線が集まる
だが風の日から発せられる殺気に耐えられる者はいない
全員の膝が震えている
「永遠に黙ってにゃさい・・・」
右手を天にかざすと一斉に兵たちは糸の切れた操り人形のように事切れて崩れ落ちた
そしてこの場にいるのは天候組の三人だけとなる
「・・・すげぇ」
「あ、ごめん活躍奪っちゃった・・・」
晴れの日の出番を奪ってしまったことに申し訳なさそうに舌を出す風の日。猫コスプレの効果もあって心なしかドキドキしている晴れの日だが悟られないように冷静を装う
「いえいえ・・・むしろ俺がやってたら余計時間かかってました・・・」
「ま、まだ敵は出てくるだろうし新人くんの出番もあるよきっと!」
フォローを差し出す霙の日だが、そのことに素直に喜べない晴れの日。なぜなら敵が出てくれば出てくるほど戦闘が増えるのだ
だが気を引き締めなければならないことはわかった
しかし、北口のようにこちらにもイレギュラーが現れる
「・・・さて、さっきからそこにいるのは誰かしら?」
霙の日は気づいていたのか大して驚きを見せないが晴れの日は突然の敵襲に驚きを隠せない
観念したかはわからないが草陰から一人の少女が現れた。大きな楽器をもって
「んーばれないと思ったのにな・・・?」
「残念。気配でわかるわ? 霙の日、晴れの日、先に行って。私はこいつを」
どうやら強敵なようだ
風の日の目付きが鋭く、口調も猫ではなくなっている
「分かった、無理はだめだよ?行くよ新人くん!」
「え、あ、おう!」
「いかせるわけないっしょ」
手に持つ楽器、恐らくフルートを吹きだす少女
その時、見えない巨大な何かが地面をえぐりながら迫ってきた
「行かせるわ」
対抗するように風の日も同じような規模の鎌鼬を生み、地面を細切れにしながら放つ
二つの衝撃がぶつかり、一瞬均衡したがすぐに両方ともはじけ飛んだ
「今のうちに!」
一切振り返らずに風の日が促す
「仕方ないよねー・・・まぁいっか」
足止めに失敗し、ため息を交えて少女は動きを止めた。そこまで確固たる意志で足止めてるわけではないようだ
その隙に霙の日と晴れの日はドアにまでたどり着く
入り口のドアに霙の日が触れるとそこには何もなかったかのように扉が消える
もちろん扉の仕様ではない。霙の日の能力だ
そして中に入り再びドアのあったところに手をかざすとまったく同じドアが現れる
「霙の能力って・・・」
「ん?わかりやすく行っちゃえば錬金術かな~?分解したりー組み立てたり!」
錬金術
物質を他の物質に変える中世で研究されていた過去の科学だ
もちろん人間には錬金術は不可能と結論づけられたのだが・・・変革者がそれを可能にしたようだ
「ま、そんなことより!早くいくよ!」
「っそうだった!急ぐか!!」
能力についてはおいおい語ってくれるだろう。晴れの日は内心期待しながら走り出す
中に入るとそこは廊下で壁は鉄でできているのか銀色で明かりはいまどき珍しい松明だ
そして晴れの日達の前にはまっすぐに続く長い廊下だけだった
「こっからが本番よ。気合入れていこっ新人くん!」
拳を握りしめ、雷火の日の容体を思い出し唇をかみしめる
そして銃を抜きだし、いつでも戦闘が可能なようにする
「・・・おう!」
低く唸るように吠える晴れの日の姿は、まさに戦士だった
同時刻、外
楽器を持っている少女はまったくなんら臆することなく殺気溢れる風の日と視線を交わす
「さて、名前くらい聞いておこうかにゃ?」
余裕を取り戻したのか猫語に戻る風の日
変革者同士の戦いではいかなる行動も制約の疑いを持って争うので、猫語についてはなんら疑問に思わない少女
さらに本気の殺気にも耐えているあたりかなりの手練れなのだろう
「えー・・・まぁいっか。ウチは梶原。殺音の梶原。まぁ覚えなくていいよ――殺すからっ!」
「梶原、ね。私は風の日―――殺し返すわよ?」
不気味なセリフを笑って言うあたり梶原はかなり常軌を脱していると風の日は思った
だが、その台詞をそのまま笑顔で返せるあたり風の日もかなり危ないと思う
そして言葉をかけ終えた直後2人が睨みあい、あたり一帯の空気がピリピリしだす
殺気に充てられてか一羽の烏が巣から飛び立ったその時
火蓋は切って落とされた