第十八話
第十八話
「さて兄ちゃん、いつもの感じでぱっぱと終わらせますヨー!」
場所は北口。隠れるわけでもなく堂々と正面に立つ二人。その二人の存在に気が付いた兵と変革者が臨戦態勢に入ったのを確認した二人は先の変革者の鉄球の仕返しに、と雪の日がまず氷の特球を作る。まさに仕返しだ
「ほう・・・氷か」
雪の日が氷を生み出すのを妨害することもなく関心しながらも投げた鉄球をなにかの力で引き寄せる
思うところの能力は磁力だろう。出なければ他に候補がない
「じゃぁ俺も準備する」
そういって嵐の日は雪の日の作った氷の刃で自分の左腕を切る。もちろん鮮やかに血が飛び出した
だが、表情に変化は全くない
「・・・何時みても痛そうにしかみえないんですがネ~」
そう、流血こそ嵐の日の制約
血を流せば流すほど力はまし、全身からの出血にもなれば暴風で県一つは更地にできるだろう
「代償はお前のほうが大きいだろうが。それに俺は左手の痛覚は無い」
この制約を払うために、嵐の日は左手の痛覚を手術で消したのだ
そして雪の日の制約は、寿命を減らすこと
この先生きるであろう時間から使用する能力の威力に合わせて寿命が減るのだ
だが、実際に中々寿命が減らないのだという。どうやら、本気で能力を使うと、太陽すら凍るらしいのだが、真意は分からない
「ま、そうですけどネ~・・・っとじゃぁ行きますヨー!!」
作り終えた氷の球体は空中に二つ浮かんでいる
どちらも3Mは優に超える大きさだ。その時風が徐々に強くなるのを兵も変革者も感じてた
風の正体は嵐の日なのだが、呆気に取られる兵たちは動きもしない
「できれば避けろ。これで死なれちゃつまらん」
淡々とつぶやき両手をかざす嵐の日
その途端一気に強風が氷塊を包み、二人を中心に左右に飛び出す
そして嵐の日が手首を返すと風の向きも変わり氷塊は両側から兵たちを襲う
「全員回避!!奴らは変革者だ!侮るな!!」
鉄球を持った変革者が叫ぶ、がいざ目の前に巨大な氷塊が現れたとなれば放心するのが一般人としては当たり前の反応だろう
成すすべなく、最初の十人程は氷塊の餌食になり、悲鳴を上げることなく氷塊に潰されて事切れる
だが、まだ氷塊は残っている
嵐の日は回避に成功した兵を無視し、厄介になりうる変革者に上空からと地上からの同時攻撃を仕掛けた
上空の氷塊には鉄球を、地上の氷塊はかろうじての緊急的回避で何とか耐え抜く変革者だが
その隙に雪の日は上空に多くある水蒸気を凍らせ、槍にする。雪の日の能力は冷気を操作することで作った氷自体の操作は出来ない。だが上空で大量に槍を作ってしまえばそんなこと関係なしに重力による落下で攻撃が可能だ
嵐の日があやつる氷塊の一つは鉄球と競り合い砕け散る。その始終を唖然と見ている兵は上空の氷の槍に気が付かない
「・・・兄ちゃんだけにいいとこは取らせませんヨッ」
日が陰る。雲ではない、雪の日が作った槍のせいで太陽光が遮られたのだ
そのことに気が付いているのは雪の日、本人と長い間コンビを組んでいる嵐の日だけだ
地上を這うようにして氷塊を操り変革者を追尾し続けている甲斐あって変革者でさえ気づかない
「んな!?上だぁぁあ!!」
誰かが叫んだ。だがもうすでに遅い
槍は兵目がけて雨のごとく降り始めていたのだ
叫び声を聞いた変革者は鉄球で氷塊を打ち砕く。小さく嵐の日は舌打ちするが致し方ない
さらに変革者は鉄球を上に持ち上げ暈かわりにする
「急いでこの下へ!」
どうやら仲間意識はあるようだ
掛け声に答えた兵は必至の形相で駆け込む。すでに銃などの武装は解除して、完全に戦意を喪失している
だが、中には数人、いまだに敵対心をむき出す者もいた
「ありゃりゃ・・・一撃で終わらないだけすごいですネー」
なんら表情を変えずに感心した雪の日
目の前に広がるのは氷の槍に貫かれた兵士たちで、誰もかれも即死だ。断末魔一つ聞こえないのだ
だが、鉄球の下にいた兵はなんとか一命をとりとめている
ものの・・・
「悪いけど、その鉄球も終わりかな」
嵐の日の無情な一言が変革者の耳に届くのより早く鉄球にヒビが入る音がこだまする
風で、地面に突き刺さっている槍すべてを集め鉄球目がけて一斉放火したのだ
どんなに固い鉄とは言え、一天に連続的に叩き込まれてはもつまい
徐々にヒビは広がり、傘下の兵たちの顔が青ざめていくのがハッキリと見えた
「むむぅ・・・頑丈ですネ・・・作りましょーカ?」
「頼む。どうせ勝機なんかないんだ。ここらで終わらせとこーぜ」
はいナ、とだけ答え先日晴れの日達を救出するときに使った巨大ドリルを鉄球の頭上に作り出す
周りの気温が冷え、兵たちの生きた心地でさえ凍らせる
逃げようにも氷の槍が止まない限りどうしようもできないのだ
だが、雪の日のドリルは制作途中で砕けた
「誰ですカ・・・」
「・・・」
嵐の日も槍の攻撃の手を緩めた
雪の日の氷を砕くことは実は容易い。制作途中ならたとえ一般人でも壊すことも可能だ。もちろんある程度氷の破壊方法について知っていることが必要だが
だから、二人が危険視したのはそのことではなく、接近に気が付かないほどの強敵がいることに対して、だ
その男はゆっくりと草陰から姿を現した
目は・・・虚ろだ
「敵、ハ・・・排除・・・?」
「気味の悪いのが出てきましたネ・・・」
「・・・こいつ、洗脳でもされてんじゃないか?明らかに実験体の服だな」
どうやらこの施設での洗脳実験体なのだろう。真っ白な服を着させられ腕には数字と英語の表記が見て取れる
自我はもはやないだろう。目は虚ろで歩き方も千鳥足。だが能力は使えるようだ
その証拠に、その男は遠距離から雪の日の氷を砕いたのだから
「雪、凍らせちゃえ。うごきもおせーしいけるだろ」
「ですネ。兄ちゃんはその連中を・・・」
そこまで言って雪の日と嵐の日は少しだけ動きが固まった
洗脳されたのが、一人では無かったからだ―――――