第十七話
第十七話
「全員乗ったか?」
曇りの日が作り出した煙は、煙と呼ぶには固く、全員が乗ってもびくともしない
「乗ったみたいね・・・?それじゃいこう曇り!」
風の日が全員の乗車(?)を確認して、GOサインを出す
「分かった。一時間はかからないが多少時間はあることだし、動きについてミーティングしておけ」
それだけ言うと曇りの日はなにやらタブレットを取り出し外国の言語で打ち始めた。おそらく海外での仕事の準備だろう
そこでまず声を上げたのは霙の日だった
「それより先に・・・雪ィ!!」
「・・・霙ェ」
二人の視線がここ、はるか上空で交差する
いきなりの出来事に晴れの日は誰かに助けを求めるが、誰も二人の言動を気に留めていない
「・・・」
「・・・」
両者にらみ合う
そして弾かれたように飛び掛かる
「あーいたかったぞーっ!!この野郎っ!」
「僕もですよ~!!」
「ふぁっ!?」
まず晴れの日はこの光景に疑問を持った
そして次に、雪の日の一人称に疑問を持つ
それを悟ったかどうだか知らないが風の日がそっと耳打ちして来る
「雪の日はね、自分を僕って呼ぶのよ。でも深入りは禁物よっ?それと、まぁ見て分ると思うけど」
二人は手を取り合ってクルクルと回っている
「二人はすごく仲が良くて、まぁ暴走体質ね」
「そ、そうなんですか・・・」
状況の展開についていけない
天候荘に来て少しばかり日が経つが、それでもやはりここの住人は中々個性的だと思わざるを得ない。晴れの日の視線の先にはいまだ手を取り合う二人の姿
「ゆーきっ!ゆーっき!」
「みーぞれッ!みっぞれ!」
はしゃぐ2人だがこれでは一向に話が進まない
ため息を交えて風の日は二人の背後にスッと移動して首根っこを摘み上げる
服で首がしまり、グエッと情けない声を出す
「はいはい・・・仲がいいのはいいけど、そろそろミーティングしても?」
やり取りを見るに風の日はさしずめこの2人のお姉ちゃんポジションなのだろうか・・・
だが嵐の日はさっきから何も言わない
「あ、嵐・・・?どうかした?」
思わず体調が悪いのかと思った晴れの日だが、首を横に振った嵐の日の目に若干の恐怖があったのが見えた
「か、風の日さんはな・・・俺の師匠なんだ・・・いや、ただそれだけだぞっ!?」
聞いてもいないのに誤魔化そうとする
ということはだいぶ昔絞られたのだろう・・・
あの風の日が切れると怖いのだろうか、少し晴れの日は興味がわいた
だが、凛とした風の日の声で不思議と反射的に背筋が伸びる
「では、これから作戦を発表する・・・とは言ってもかなり単純だから。一発で頭に叩き込んでくれるとこっちも助かるな?」
晴れの日だけでない、ついさっきまではしゃいでいた二人も、黙り込んでいた嵐の日も、目付きが変わる
「じゃぁ、まず配置からね?まず双子ちゃんは―――・・・」
収容所、洗脳室
「はい、じゃあ次の子供を連れてきてよ?どんどん洗脳しなきゃ僕が上に怒られちゃうんだからさ」
ガラス張りで中央には机が一つと椅子が二つ
足を机に上げて威張る青年と目に生気がなく焦点がどこを向いているのかわからない少女が一人
「わか・・・ました・・・?」
「あーやっぱり丸ごと洗脳すると言語機能がなぁ~・・・こいつも欠陥品かね・・・」
部屋からふらふらと出ていく少女を見ることなくそうつぶやき大きく欠伸をする
その時、少女が出て行った扉からスーツの男が現れた
「失礼します。ボスがお呼びです。至急二階にお願いします」
「ちっ・・・どーせまた女でも連れ込んで自分好みに洗脳しろ、とかだろ?まったく・・・」
嫌々ながらも部屋を出る
部屋をでたすぐ先の廊下では、さっき部屋を出て行った少女が亡骸となって横たわっていた
だが、二人は木にも止めず素通りで過ぎていった――――
「さて、派手に行きましょーか兄ちゃん」
「そうだな」
――――まず、双子ちゃんは北口で大暴れしてできるだけ兵を集めて駆逐してほしいの
「君たち!ここは立ち入りきん・・・」
男の言葉は全身が氷になる音を最後に聞こえない
そして砕け散る
それを見ていたほか二人の兵が銃を構えるが、突然突風が吹き荒れ巨木がまっすぐに突っ込んできた
「ありゃ・・・?弱いですネ・・・」
「木の一本や二本防いでほしいもんだ・・・ん?」
違和感を感じ二人は大きく後ろに跳躍する
その行動は結果的に正解だった
2人が居た場所には鉄球が、埋まるほどの勢いで突っ込んできていた
どうやら変革者たちのお出迎えのようだ。その数およそ5人
もちろん、一般人の兵も続々と騒ぎを聞きつけ集まってくる
「・・・何用か知らないが、こっから先はちと通せないな。それも変革者ならなおさら、な」
「言いましたネ・・・?」
「見ものだな、どれだけ耐えられるか」
北口―――交戦開始
「さて、私ら三人は西口から北口で暴れている双子ちゃんの陽動中にここを突破よ」
――――次に、私たち残り三人で西口から攻める。私が基本的に入り口で兵の進行を抑えるわね
これが突入までの作戦の概要だった
「初手は任せるよ姫~」
そういえばこの二人の制約と正しい能力をまだ晴れの日は知らないのだ
風の日の能力はいかなるものか・・・
「分かった。じゃぁ制約払うわね」
数分後―――
「・・・いや、その・・・あんまり見られると恥ずかしいんだけど」
猫がいる
いや、正しくは猫耳に猫しっぽ。さらにはうっすらとひげも付けている
制約を払うといった風の日は一瞬のうちで鞄からありとあらゆる猫グッズを取り出し自らにつけたのだ
「あ・・・ごめんなさい」
「ははっ!まぁ初めて見た人はそんな反応だよね~、姫はね、コスプレが制約なの!」
コスプレ・・・たしか鬼ごっこの時も猫の格好をしていたと晴れの日は思い出す
もしかしてそのコスプレが『姫』の呼び名と関係しているのでは・・・?
「もしかして姫って・・・」
「んにゃ!?晴れの日まで姫を知っているのかにゃ!?」
完全に猫にモードが入っている。語尾が猫だ
「いんや、私はなーんにも~」
「嘘にゃ!!」
バックれる霙の日
風の日は明らかに嘘だと見抜いたのか拳骨を霙の日に落とそうとした
が、西口前の兵士たちがなにやら北に向かって走り始めたのが確認できた
どうやら陽動はうまくいったらしい
もちろん全員ではないがそれでも十分な成果だった
「・・・一気にいくにゃよ?二人とも左右から仕掛けてにゃ?」
そういうと、風の日の手の周りに鋭い音を立てながら風が集まるのが晴れの日にも感じて取れた
「にゃ!!」
隠れていた草陰から一気に三方向に散開する
ここからは確実に命を懸けたやり取りだ
晴れの日は握りしめた銃のひんやりとした感覚が全身に伝わるのを感じた
西口―――交戦開始