第十三話
第十三話
少しだけ時はさかのぼる
雷火の日が突撃した後、晴れの日はボスとまみえている
「何を思いついたか知らないが・・・君では・・・勝てないぞ・・・?」
熱線で何度も攻撃を試すが、すべて口笛で防がれる。だが裏を返せば
あいつは口笛を吹いている間しか攻撃を防げない
つまりここで打つべき手は・・・
「これでも・・・そう言えるかなっ!!」
銃の引き金を引き、さらに引く。だが熱は生まれない
洞窟内には引き金を引くガチャンという音だけだ
「・・・?何をしているんだ?」
「さぁな・・・!」
どうやらボスは口笛を防護にしか使えないようだ
でなければ今この瞬間攻撃を仕掛けてくるだろうから、そのことは裏付けされているも同然。ここでもし攻撃に転じることができたなら晴れの日は確実に負けていただろう。一種の賭けに勝ったのだ
だが不敵なその眼から思うに恐らく、雷火の日をやったあとに全員で晴れの日をやるつもりなのだろう
「・・・?」
「悪いね、ただ突っ立てるだけって暇でしょ?」
「・・・何が言いたい」
晴れの日の準備は整った。ボスも何かを企まれているのを悟り、防御態勢をとる
そして大量に引き金を引いた銃口をボスに向ける
「・・・俺にも制御は出来ないからな・・・防いで見せろ!」
最期に一発、引き金を引く
これは先までの動作となんにも変らない
ただ違うのは、熱線が一本ではないことだ。これまでに引いた数熱線が放出される
だが晴れの日にはすべてを同時に処理できるほど手練れではないので、発射された熱の中には数本、的外れなものもある
だが、それでも狙いはじゅうぶんだった
「シールドがあるのを忘れたか!!」
遂に全力を出したのか、先までは見えなかったシールドらしきものがボスを中心に覆うように広がる。今度はハッキリと見える
範囲はさほど広くないが全方位完全防御だ
「う、おぉぉおおおおぉ!!」
さらに晴れの日は連続で熱線を打ち続ける
だがそれもすべてボスが吹き続ける口笛に消される
だが、異変が現れたのは意外と早かった
「ひゅ・・・ひゅう・・・」
シールドがゆがんでくる
そう、酸欠だ
だいぶ間抜けなことにも聞こえるがかなり重要なことだ
恐らく、ボスの制約は口笛。だが口笛というのは思った以上に酸素を要する
それ故、ボスは全身の酸素が足りなくなり、口笛を中断しても新鮮な空気が吸いたいはずだ
だが、今ここで解けば確実に連続して襲ってくる熱に溶かされる
だが、酸欠ですでに意識は・・・
二律背反だ。如何することもできない
「そろそろ息が苦しいだろ!!諦めろぉぉぉっ!!」
ここで優勢に立ったはずの晴れの日だが、内心では焦っていた
徐々に晴れの日の熱の温度も下がっていたのだ
人は、走り続ければ疲れる。それは能力と言え同じなのだ。使い続ければ熱の温度も威力も下がる
「はぁ・・・はあぁ・・・」
「ひゅっ・・・ふっ・・・」
お互いに意地と意地の張り合いにも近い
だが、この勝負の幕引きは以外にもあっさりと訪れる
「ひゅう・・・げほっ、かほっ・・・!」
遂に酸素が切れたのだ
晴れの日はこの千載一遇のチャンスを逃さない
最期の気力を振り絞る
そして、今日一番の集中で―――
「も、えろぉぉぉぉぉぉおおお!!」
バンッと空気が熱膨張する音が聞こえ、熱線は一直線に晴れの日からボスのもとに射出された
息切れでむせたボスになすすべはない
胸部を熱線が貫き、一瞬で
ボスの命の灯は燃え尽きた
なんの悲鳴も上げずに死んだこともあり、晴れの日はめまいと立ちくらみだけで済んだ
だがそれでも、やはり命を奪ったという何とも言い難い感情だけはしっかりと心に圧し掛かった
と、ここでそんな悠長にしていられないことを思い出す
倒れたボスの向こう側では雷火の日の目から戦意が消え、今にも殺されそうになっている姿がハッキリと晴れの日の目に飛び込んできた
頭がその事実を飲み込むや否や、晴れの日の足は雷火の日のもとに駆け出していた
視線の先には、ゆっくりと雷火の日の腕に近づいていく注射器
「んな!?や、止めろぉぉおおおお!!」
心から叫び、駆け出した
いつ以来だろう、こんなにも感情を高ぶらせて叫んだのは
あぁ、そうだ。幼稚園の頃ガキ大将と喧嘩したとき以来かもしれない
あの時は平和だったと今なら思える
だって
当時なら・・・
誰も死ぬわけなんて、無かったんだもの―――――
「雷火ぁあぁぁぁぁああああ!!!!」