第九話
第九話
「さて、そろそろあんたの銃を取り返したいところね」
先の戦闘の直後だというのに援軍が現れる気配はない
単に留守なのか何か策があるのかは謎だがどちらにせよ警戒は怠れないだろう
スパイ映画さながらの動きでずんずんと敵の懐に潜り込み銃を奪還、ここからの脱出を果たそうとするが、イメージ通りにいかないのが現実というもの
洞窟内部がよくわからないので中々先に進めない
「でも、雷火の警棒は使い道があるから残ってたけど、俺の銃は弾の無いガラクタみたいなもんだぞ?」
確かに弾は一発たりとも入っていない。普通そんな銃を保管しておくだろうか?
だが、雷火の日には銃が捨てられていない。もしくはここに銃が有ると踏んでいた
「だとしても、奴らはわたしたちの能力を知っていたわ。ということは制約もわかるではずしょう?あんたがもし仲間になると言い出したときすぐに使えるようにどこかに銃が有るはずよ」
なるほど、一理ある。もし仮に晴れの日が持っていた銃がないにしろ、どこかに銃はあるだろう
と晴れの日は感嘆し、ふと手にある手作り輪ゴムじゅうを眺める
「・・・その銃、あと少しくらいは持つわよね?」
「あぁ・・・でもやっぱ何とも言えないくらいボロッてきた」
あれだけ激しく戦闘し、晴れの日も引き金を本来の銃と同じ感覚で引いていたため、輪ゴムじゅうの耐久地はもう残すところあと僅かだった
「さっさと銃を奪い返しましょ。だめならこのまま脱出ね」
その時、二人の前方で兵の二人が歩きながら雑談をしているのが見える
晴れの日と雷火の日は姿勢を低くして、近くにある飛び出した岩の影に隠れた
「・・・にしても・・・がみさん・・・だよ・・・」
「あぁ・・・たちでも・・・」
ここからではさすがに遠すぎる
ぶつぶつと話しているのはわかるものの何を言っているかはわからない
「少し近づくわよ。できるだけはぐれずに」
「おう」
短く返事を済ませ晴れの日はゆっくりと歩き出す。対して雷火の日は若干浮いている
理由は単純。洞窟内というこの空間では最小限の足音さえも、ここでは十分に響きうるのだ
「止まって。ここで十分聞こえる」
片手で制され、晴れの日はいったん停止する
確かに耳を澄ませば十分聞こえる
「・・・て、深髪さんに連絡するか」
「だな。さっきの二人がもしかしたら奴らの仲間かもしれねーし」
どうやら晴れの日達の事のようだ
しかも今はっきりと聞こえた。深髪と。やはりこの施設にいるのだろうか
だが正直今は脱出が先だ
「ってかボスもちょーっと抜けてるよな・・・得体のしれない二人だぜ?」
「確かにな・・・これで脱走されたらどーすんだっての」
残念だがすでに脱走して会話を盗み聞いているのだが
しかし話から察するに、まだ脱走の情報は伝わっていないようだ。これは好都合。だが時間の問題だろう。今のうちに潰しておくほかない
「・・・見て。あんたの銃じゃないけどれっきとした銃よ」
兵の腰元をよく見るとホルスターに銃が一人一丁ずつ装備されていた
それもガバメント式の扱いやすいものだ
「・・・俺が先に注意を引く。その間に一人沈めてくれ」
「一人?二人いけるわよ?」
「誰かに脱出ルート聞かなきゃ迷うだろ?」
一理あると雷火の日は珍しく晴れの日に同意を示した
このような緊迫状況で喧嘩するほど短気ではないようだ
「どうやって時間を稼ぐの?」
首を傾げる雷火の日。晴れの日は人差し指を立て横に振る
晴れの日には考えがあるのだ
油断している奴らにうってつけの方法が
「いいからいいから!俺が合図したら頼むぞ?」
そう言って晴れの日はいきなり隠れていた物陰から飛び出した
正確には、飛び込んだ
「ちょ!?」
「しっ」
何をするかと思えば死んだふり・・・?
晴れの日はうつぶせになり体を大の字に開く
気になる雷火の日だが晴れの日に真相を聞くにも、ターゲットである二人が晴れの日に気が付き近づいてきているのでどうにもできない
仕方なく、体を丸めて見えないようにする
「おい・・・?お前大丈夫か?」
「・・・てか、そもそもこいつ誰?」
明らかに不審だろう
突然少年が倒れているなんて、人生でそう経験しない事態に二人は困惑する
ここで仰向けにして顔を見れば済む話だが、整理の追い付かない状態ではそんな考えも浮かばない
「とにかく、ボスにでも連絡するか?」
「あー・・・どうすっか?」
その時、雷火の日の腕がほんの少し熱くなった
火傷にも及ばない、本当に少しだけ熱く
これは自然現象ではない。明らかに晴れの日の能力だろう
恐らく飛び込む寸前に引き金を引いて発動を今にしたのだ
「・・・いい時間稼ぎよ。でもわたしに攻撃とはいい度胸ね」
チャキ・・・と雷火の日が獲物を構える音がする
重力を反転させ、宙に。さらに横に重力の向きを変更し、二人の頭上へ
そしてゆっくりと獲物を振り上げ・・・
「覚悟はいいなぁあ!!」
生け捕り、の意味を分かっているのだろうか
晴れの日がそこにいると分かっているのだろうか
全力で警棒を振り下ろしたのだ
もちろん、地面はえぐれ振動は地震規模
これを人がくらえばミンチだろう
「・・・っぶねぇ!?俺まで殺す気か椿!!」
「ちっ・・・生きてたのね」
苦虫を百匹かみつぶしたような表情で本気の溜息をつく雷火の日
晴れの日はかろうじて体を反転させ警棒の脅威から逃れたが、ターゲットの二人はどうなったのか
「あ・・・うあ・・・」
「ひ、ひいいぃぃ!?」
どうやら奇襲がよほど恐ろしかったのか腰が抜け膝は振るえ、顎もがくがくでろくに話せていない
雷火の日なりの生け捕りなのかは謎だが、これはこれで結果オーライなのかもしれない
「・・・まぁ捕虜が二人もいるし、いっか」
「あたりまえよ。それで、まずは銃をもらうわよ・・・?」
珍しくにこやかにほほ笑み二人に向けて手を差し出す
その手を二人の兵は一瞬お互いを見つめ、すぐに自分のホルスターから銃を抜き、差し出された手に乗せる
「はい、弾抜きはご自分でね」
投げられた銃を両手でしっかりと受け取り銃から弾を取り出す
そして改めて構え、試しに壁に打ち込む
しっかりと熱は出た。壁をまるで溶岩の様にドロドロに変化させる程の熱がようやく出せた
「よし、じゃぁ次にここからの出口を教えてもらおうか!」
晴れの日の能力にも恐れをなしたのか二人は速攻でうなずき、震える手で一方を指さす
その方向に行けば外に出れるのだろうと確信する晴れの日と雷火の日
だが、その指先には出口ではなく人影が見えた
「・・・雷火のせい、だよな?」
「・・・今回ばかりは非を認めるわ。少しやりすぎたわ」
人影は増える
一人、また一人・・・
その先頭には・・・
「まったく・・・脱走するならもう少し静かにやらなきゃなぁ?」
「まったく・・・・俺たち運悪くね?」
皮肉を言うので精いっぱいだ